生成AIを仕事に取り入れたい。しかし、顧客情報や社内の売上データ、制作中のコンテンツなど、外部のクラウドにアップロードできない情報もある。そうしたデータを手元で扱う選択肢が、PC上でAIモデルを動かす「ローカルAI」だ。
そこで課題になるのが、AIモデルを動かすためのメモリ容量。特にGPUを活用して大規模なLLM(大規模言語モデル)を動かしたい場合、GPUから利用できるメモリをどれだけ確保できるかが重要になる。
マウスコンピューターの「DAIV CX-A9A60」は、この点に着目したコンパクトなデスクトップPCだ。AMDのSoC「Ryzen AI Max+ 395」と128GBのユニファイドメモリを採用し、最大96GBをビデオメモリとして割り当てられる。大容量メモリと使い慣れたWindows環境を組み合わせ、ローカルAIを業務に取り入れるための1台として提案する製品だ。
Ryzen AI Max+ 395は、16コア32スレッドのCPUと「Radeon 8060S」をGPU、AI処理用のNPUを備えるSoCだ。DAIV CX-A9A60のメモリはLPDDR5X-8000で、メモリ帯域は理論値で256GB/秒。CPUとGPUがメモリを共有するため、128GBとは別に96GBのビデオメモリを搭載するわけではなく、GPUへの割り当てに応じてシステム側で使える容量が変わる。
標準構成はWindows 11 Proと2TBのNVMe SSDを搭載。本体サイズは突起物を除いて幅70×奥行き198×高さ200mm、重量は約1.98kgと、デスク上にも置きやすい。Copilot+ PCにも対応している。
この小さな筐体に大容量メモリを搭載した狙いは何か。マウスコンピューター東京本社を訪ね、製品企画を担当した林田奈美氏と、開発を担当した寺澤裕介氏に話を聞いた。
128GBを積むことから始まった、ローカルAI向けの製品づくり
―― まず、DAIV CX-A9A60を開発した背景を教えてください。
林田奈美氏(以下、敬称略):ここ2~3年で生成AIが注目されるようになり、弊社でも、生成AIに使われているのだろうと思われるPCの販売が伸びていました。特に、ビデオメモリ容量の大きな製品への需要が増えているという実感があったんです。
その中で、ユニファイドメモリをビデオメモリとして活用して、生成AIを動かそうという流れが出てきました。Windows環境でそれを実現できるものとして着目したのが、AMDのRyzen AI Max+シリーズです。
今回の製品は128GBのユニファイドメモリを搭載し、Windows上で最大96GBをビデオメモリに割り当てられます。ビデオカードで96GBのビデオメモリを確保しようとすると、かなり大がかりになりますよね。ローカルAI向けのハードウェアとして面白いですし、我々も新しい分野にチャレンジしていこうと考え、製品化しました。
―― 開発の出発点から、128GBのメモリ容量を重視していたのでしょうか。
林田:そうですね。率直に言うと「128GBを積まなければ意味がないでしょう」という考えで開発していました。AIに強いPCがこれから必要になるという中で、AMDが採った、大容量のメモリをGPUにも使えるというアプローチに将来性を感じたんです。
従来は、共有メモリについて、メインメモリの一部がGPUにも使われる、というぐらいの捉え方だったと思います。それが、AIのために大容量を積極的に活用する方向に変わってきました。PCの設計における1つの流れになっていくのではないかと感じています。
―― Ryzen AI Max+ 395の特徴を、ローカルAI用途に絞って打ち出したわけですね。
林田:はい。当初は、このプロセッサのゲーム性能に注目した話も多かったのですが、今はローカルAIでの使い方に関心が移っています。我々も、今回の製品ではそちらに振り切りました。「高度な動画編集にも使えるPCです」という打ち出し方をするのではなく、ローカルAIをもっと身近にする製品として伝えていきたいと思っています。
社外に出せないデータを活用する。大容量メモリで広がる仕事の選択肢
―― 具体的には、どのような仕事での活用を想定していますか。
林田:まずは、AIの開発です。クラウドで開発や動作検証を行うと、費用がかかる場面もあると聞いています。ローカルでできる検証はローカルで行い、開発にかかる費用を抑える、という使い方ですね。
もう1つは、外部に出せないデータを扱うための環境を構築することです。医療関係や顧客情報など、クラウドにアップロードすること自体が適さないデータもあります。そうした内部のデータを使ってAIを活用しようとすると、ローカルで処理したいというニーズが出てきます。
コンテンツ制作の分野でも、自社が過去に制作したものを使って、シナリオやプロットのたたき台を作りたいという場面が考えられます。ただ、その素材をクラウドに上げることには抵抗がある。そういうところでも、ローカルAIを使う意味があると思っています。
―― 社内のデータを使うという点では、クリエイティブ以外の仕事にも用途がありそうですね。
林田:これは私自身がやってみたいことなのですが、過去4年間の売上データをAIに分析させたい、という使い方もあります。
クラウドのAIに分析させようとすると、会社のポリシーなどを確認して、利用できるようにするまでが大変な場合がありますよね。そこで「これはローカルで処理します」という形にできれば、活用の選択肢になると思っています。少しずつ、そうした使い方もしていただければうれしいですね。
―― GPUに最大96GBを割り当てられることは、そうした用途でどう生きてくるのでしょうか。
林田:例えば、設定をきちんと行えば、70B級のLLMを動かすこともできます。また、1つのLLMに主な作業をさせて、別のLLMにその結果を検証させる、といった複数モデルの使い方もあります。
メモリは、あればあるだけ使い道が出てくると思いますので、この容量で多すぎるとは考えていません。今後さらに容量の大きな製品が出てくれば、それに合わせて使い方も増えていくのではないでしょうか。
―― 応答の速さだけでなく、大規模なモデルを動かせることにも意味がある、と。
林田:そう思います。例えばチャットでは、すぐに反応してほしいですよね。一方で、データ分析であれば、結果が出るまで待てる場合もあります。すべての処理にリアルタイムの反応が必要なわけではありません。
クラウドのAIには性能面での強みがありますから、クラウドで処理したほうがよいことはクラウドで、ローカルで処理したほうがよいことはローカルで行う。実際の仕事には、そうした使い分けが組み込まれていくのではないかと考えています。
―― データを手元で扱えること以外にも、ローカルAIならではの利点はありますか。
林田:使うモデルを固定できることと、自分たちに合わせてカスタマイズできることですね。クラウドのサービスでは、ある日から新しいモデルに切り替わることがあります。新しくなること自体はよくても、それまで作ってきたものをどうするか、という問題が出てきます。
ローカルであれば、使いやすいモデルを固定して、チューニングやカスタマイズを続けられます。外部のサービスが使えなくなると困る業務に対しても、ローカルで動かすことには意味があると思います。
大型ヒートシンクと3基のファンで、デスク上の使いやすさを追求
―― 筐体の特徴を教えてください。
寺澤裕介氏(以下、敬称略):外装はCNCによる削り出しで作っています。継ぎ目のないデザインが特徴ですね。机の上に置いて使うことを想定して、スペースを取らず、圧迫感の少ない、コンパクトな縦置きの設計にしました。
―― 小さな筐体に高性能なSoCを搭載する上で、苦労した点はありますか。
寺澤:静音性とパフォーマンスの両立です。デスク上ではユーザーの近くに本体が置かれますから、性能だけでなく、ファンの音にも気を配る必要があります。消費電力も意識しながら、高い性能と静かさを両立できるよう工夫しました。
このプロセッサは電力を多く使って性能を出すこともでき、その分、発熱もあります。そこで、筐体の4分の1ほどを占める大きなヒートシンクと、3基のファンを搭載しています。また、CPU側と、背面側に配置したストレージの冷却を分け、効率よく冷やせるようにしました。ここは設計段階で苦労したところです。
林田:内部を見ると、隙間からファンが見えるぐらい、かなりみっちりと部品が詰まっています。
―― ディスプレイを接続して、普段使うPCと同じようにデスク上で利用することを想定しているのでしょうか。
寺澤:ディスプレイを接続する使い方も、接続せずに使う形も想定しています。ただ、近くに置いて使うことを考えれば、やはり静かなほうがよいですよね。「パフォーマンスモード」と「静音モード」の2つを設けていますので、使い分けも可能です。
Copilot+ PCに対応しているほか、指紋認証など、日常的に使うためのセキュリティ機能も備えています。
使い慣れたWindowsから、業務へのAI導入を試す
―― ローカルAIではLinuxを使う場面もありますが、Windowsで使えることをどう捉えていますか。
林田:弊社のお客様にはWindowsを使っている方が多いですし、Windows環境でもLLMを動かす環境を構築できます。まずは使い慣れたOSで生成AIを使っていただきたい、という考えです。
一方で、詳しい方や研究用途のお客様から、Linux環境への要望があることも把握しています。Linux対応は今後進めていきたいですね。弊社としてきちんとサポートできる体制を整える必要がありますので、そこを含めて検討しています。
―― 発売後の反響はいかがでしょうか。
林田:法人のお客様を中心にお問い合わせをいただいています。まだ発売して間もないため、具体的な導入事例をご紹介できる段階ではありませんが、このような製品の初動としては、お問い合わせが来ていると感じています。
DAIVはクリエイターの方や、クリエイターを抱える法人のお客様にも使っていただいているブランドです。発売直後に一気に反応が来るというより、少しずつ製品が伝わっていくことも多いので、今回の反応はうれしいですね。
―― これからAIを仕事に取り入れたい人にとって、どのような位置付けの製品になるのでしょうか。
林田:AIを仕事に組み込んでいかなければならない、とは思っていても、自社の業務のどこに入れるか、具体的なイメージを持てていない方もいらっしゃると思います。そうしたときに、ローカルAIを試し、仕事の進め方を作っていくために使っていただきたいですね。
気軽に買える金額ではありませんが、大容量メモリを備えた環境で、まず何ができるかを試していただく。その使い方を我々も知ることで、次の製品づくりにもつなげていけると考えています。実際に使っている方のお話は、ぜひ聞きたいです。
開発中には、メモリの価格が大きく変わるという難しさもありました。ただ、今後クラウドのAIがさらに進歩しても、クラウドに上げられないデータがある、という状況は変わらないと思います。今から、自社ではAIをどう使えばよいのかを把握しておくことには価値があると考えています。
DAIV 10周年。AIを使うための選び方と環境を、もっと分かりやすく
―― DAIVは10周年を迎えました。ブランドとして、今後どのような展開を考えていますか。
林田:これまでもDAIVらしい製品を考えて開発してきたつもりですが、お客様から「ゲーミングPCと何が違うのか」と聞かれることもあります。DAIVらしさをどう出していくかは、製品の作り方も含めて考えているところです。具体的にお話しできることはまだありませんが、そこは整えていきたいと思っています。
AIについても、これまでのDAIVに、ビデオメモリを多く搭載した、AIに強いモデルがなかったわけではありません。ただ、「AI」という切り口で、お客様にきちんと伝えられていたかというと、それは反省点です。
DAIVの中で、AIをやるならどの製品がよいのか。そうした選び方を改めて整理し、皆様にお届けしたいと考えています。
―― ソフトウェアや、使い始めるための環境についてはいかがでしょうか。
寺澤:現状ではハードウェアの提供が中心で、AIを動かすためのソフトウェア環境まで十分に提供できているわけではありません。今後はLinuxのサポートに加え、Windows上で動かすアプリケーションや、機能を拡張する要素についても開発していきたいと考えています。
大容量メモリを、仕事で使えるAI環境へ
今回のインタビューで見えてきたのは、DAIV CX-A9A60が、ローカルAIを業務へ活用するための第一歩となるPCとして企画されたこと。その核にあるのが、Ryzen AI Max+ 395と128GBのユニファイドメモリという組み合わせだ。
開発の検証、社内データの分析、自社コンテンツを使った制作支援。クラウドに出せない情報を手元で扱いたい人にとって、GPUに大容量のメモリを割り当てられることは、試せるモデルや使い方を広げる要素になる。
もちろん、AIを業務に組み込むには、用途に合うモデルの選定やソフトウェア環境の構築も必要だ。今回挙がった用途も、完成した導入事例として紹介されたものではない。だからこそ、使い慣れたWindowsと、デスク上で扱いやすい筐体で、検証を始められる意味がある。ローカルAIを仕事に取り入れるための土台として、DAIV CX-A9A60は検討したい1台だ。








