パソコンとオーディオの親和性は高い。かつてのオーディオはメディアに記録されたコンテンツをいかに心地よく楽しむかという追求(と投資)の行為だったが、それも今は昔。コンテンツはインターネット経由で入手するのが当たり前になった。場合によってはCDを上回るスペックの音源をダウンロードしたり、ストリーミングで再生したりすることもできる。個人的にも、最後にメディアとしてCDを購入したのは2018年なので、新たな音楽の聴取をサブスクに頼るようになってすでに8年が経過している。

手元のLPやCDもそのほとんどを処分してしまった。LPはそれなりの金額になったが、CDは悲惨なものだった。でも、それは仕方のないこととしてあきらめるしかない。もはやこれらを保管しておくコストの方が高くつく。

というわけで、今は、何十年も使っている昔ながらの普通のアンプでスピーカーを鳴らしているのだが、レガシーといってもいいアンプなので、デジタルな信号を入力することができない。そのあいだをつなぐデバイスとしてデジタルをアナログに変換するためのDAコンバーターを使ってきた。

オーディオストリーマーとしては、今年初めに入手したWiiM Proという製品を使っている。格安トランスポートとして人気の高い製品だ。

日常的には2010年頃から愛用してきたDAコンバーターでそのデジタル出力を受け、アンプにアナログ信号を送っている。それで特に大きな不満はなかったのだが、DAコンバーターとしてMUSE 300という製品が人気だというのでメーカーにお願いして借りてみることにした。

  • Muse HiFiの「Muse 300」を試用してみた

    Muse HiFiの「Muse 300」を試用してみた

ややこしい話になるが、この製品はDACチップとしてESS ES9039 Ultraを採用、5インチの大型カラーディスプレイを装備して、デジタル入力をアナログ信号に変換する。MUSE 300は、手元で使ってきたDAコンバーターと価格的にはそう大きく変わらないが、音を出してみて驚いた。15年前のデジタルアナログ変換が、気負いが強く、解像感や鮮烈さを前面に押し出し、精一杯つっぱったデジタルなサウンドを奏でようとしてきたとすれば、この最新製品にはサウンドの扱いに余裕を感じるのだ。早い話がトゲがなく、連続した空気の波、つまりアナログ的な音を楽しめる。自然な厚みとなめらかさを感じるのだ。デジタルらしい硬質さが後退し、解像感よりも音楽全体のまとまりを感じさせる。

誤解を恐れずにいえば、LPレコードをプレーヤーで再生し、そのアナログ信号をアンプに入れて再生したようなイメージだ。オーディオ趣味的にDAコンバーターにコストをかけるとなると、もう上を見たらキリがないのだが、MUSE 300はデジタル技術が極限まで進化した結果、皮肉にも「レコードのあの有機的な鳴り方」に辿り着いたのかもしれない。その印象は筆舌に尽くしがたいものがある。聴いていて疲れないのだ。

手元の環境ではストリーマーからDAコンバーターを介してアンプ経由でスピーカーを鳴らしているが、手軽にはスマホをMUSE 300にケーブルで有線接続してデジタル再生、有線ヘッドホンやイヤホンで楽しむような使い方もできる。Bluetoothで接続しての無線による完全ワイヤレスなオーディオ体験とはまったく違う異世界を体験することができるといっていい。

20世紀の音楽を聴くことが多い自分自身のオーディオ趣味には、かなりマッチすると感じた。1960年代から半世紀くらいにわたっての録音を再生したときに感じられる心地よさの正体がまさにそれで、針を落とした瞬間の盤面の気配と音楽が立ち上がってくるあの贅沢な質感を、現代のデジタルストリーミング環境で手軽に味わえる体験がこれほど簡単に手に入るとは思わなかった。

もっともガジェットとしては成熟していない。操作感としてはまだまだだと思う。UXも洗練されているとはいえない。大きなスクリーンもタッチ非対応でボタンでの操作になる。でも、自分の使い方ではいったんセットしたらもうさわらないので特に気にならない。まさにトランスペアレントな存在だ。スマホで曲を選び、WiiM Proにキャストすれば、そのままMUSE 300を介して贅沢なサウンドが出力される。その心地よさが7~8万円で手に入る。デジタルオーディオの楽しみも、ここまできたかと感慨深いものがある。