先日、ヤマト運輸の「宅急便をスマホで送る」を使って宅配便を送ろうとして困ったことが起こった。このサービスは、手元のスマホを使って送り状等の入力ができるもので、送り状の手書きは不要、オンラインで決済ができ、ヤマト運輸の営業所に持ち込めば210円、コンビニや宅配便ロッカーのPUDOを使えば160円(持ち込み割100円+デジタル割60円)オフになるというものだ。
ヤマト運輸の「宅急便をスマホで送る」サービス
ただし、サービス名から想像できるように、スマホでしか利用できないサービスだ。PC、タブレットでは利用できない。それでも割引きの魅力には勝てない。また、ヤマトのウェブサービス『クロネコメンバーズ』のアドレス帳を参照でき、PC側で連絡先をあらかじめメンテナンスしておけることもあって、それなりに便利に使っていた。コンビニや営業所に荷物を持ち込み、スマホアプリで発行されたバーコードを見せるだけで送り状がレシートの体裁で発行され、それを自分で荷物に貼り付ければ手続きはおしまいだ。もちろん自宅での集荷も可能だが持ち込み割は適用されない。ウェブサービスでも自宅集荷は可能だが、手書きの送り状、プリントアウトした送り状を用意する必要がない。
運賃はヤマトが荷物を受け取った時点で確定し、あらかじめ登録しておいたクレジットカードから引き落とされる。コンビニとの間ではいっさいの金銭授受がない。完全事前決済が利用条件になっている。
バーコードがメールで発行されたり、PDFで発行されたバーコードが持ち込まれてトラブルが発生した場合、取り次ぎ店では手も足も出ないし、対処のためにさまざまなコストが発生するが、スマホと、バーコードを表示しているアプリがあれば、何が原因になっているかをその場で確認することができるなどのメリットがある。今後、こうしたサービスはどんどん増えていくだろう。
ところが、ある日突然、手元の二つ折りスマホでこのサービスが利用できなくなってしまった。以前は同じ端末で正常に利用できていたのにだ。アプリのキャッシュを削除したり、アプリを再インストールしてみたりと、悪あがきをいろいろしてみたがダメだった。仕方がないので、別の平形端末を使って手続きをして、荷物をコンビニに持ち込んで発送した。
一般に、スマホ限定サービスでは利用端末がスマホかどうかを何らかの方法で判定している。またAndroidやiOSには、さまざまな画面サイズに対応するための共通的なUIフレームワークも用意されている。
フォルダブルやタブレットのような極端な解像度に対して、AndroidやiOSは近代的なUIフレームワークを提供し、強制的に適応させようとしているのだ。開く、閉じるなどで画面サイズが極端に変わることを前提としたUIや、画面幅に応じた「Compact(標準スマホ)」「Medium(折りたたみ開/小型タブレット)」「Expanded(大画面)」の3段階に分類してレイアウトを切り替える設計といった指針だ。
あくまでも推測だが、今回のヤマト運輸のトラブルは、WebビューやOSの判定ロジックに頼ったものの、この「Compact」と「Medium/Expanded」の境界判定を誤り、折りたたみを開いた途端に「タブレット=PCと同じ扱い」として弾いてしまう設計ミスの罠にハマったのかもしれない。実際には端末を閉じているときにも弾かれたのだが、一度アプリやWebView内部に『大画面/タブレット』としてのセッション情報やUser-Agent判定がキャッシュ・固定されてしまえば、閉じた状態に戻してもリセットされずに弾かれ続ける、といった悪循環に陥っていた可能性もある。技術的には対応可能な枠組みがあるものの、個別サービスのアクセス判定ロジックがスマホの進化に追いついていないともいえる。
この不具合は、数日後、いつのまにか解消した。以前と同様に発送手続きができるようになったのだ。きっと苦情などが殺到し、サーバー側の判定ロジックに何らかの修正が加えられたのかもしれない。
スマホでしか利用できないサービスはこれからも増え続けるだろう。PCの場合、「ハードウェアの構成(マウス、キーボード、Webカメラの有無、画面解像度)」だけでなく、その上に載っている機能の有無そのものがバラバラで、「GPS」「生体認証(Windows Hello等)」「背面カメラ」「セキュアエレメント」「常時通信回線」が付いている保証がどこにもない。
これに対して、スマホは二つ折りだろうが平形だろうが、ハイエンドだろうがエントリー機だろうが、「カメラ」「GPS」「タッチパネル」「画面回転API」「セキュアなキーストア」「プッシュ通知機構」が事実上標準として備わっている。サービスの提供に際して利用できることが望ましい機能が実装されているのだ。
こうした問題は決して特殊な話ではない。折りたたみ端末の利用者はまだ少数派とはいえ、着実に増えている。スピードテストで知られるOoklaの調べでは、今年、世界のテストサンプルの約1.4%が折りたたみ式デバイスだったという。普及率はドイツが1%未満、米国3%、韓国9%で、日本は米国や英国と並んで比較的高めの普及水準にある国として言及されている。サンプルシェア上位10機種中8機種がサムスン製とのことだ。この発表では、あわせて、2026年9月までのデータで世界の折りたたみ式デバイスの4台に3台はブック型だったことに言及されている。ブック型は過去2年間でフリップ型からわずかにシェアを奪ってきたが、サムスンの新型Galaxy Z Fold8や今後発売されるiPhone Duoのようなパスポートサイズの折りたたみ式デバイスが、現在の3.3%というシェアを上回る成長が見込まれるとしている。
消費者のいちばんの願いは「困らないこと」だ。端末の多様性はスマートな暮らしを支えるが、そこでトラブルが起こっては元も子もない。スマホ限定サービスが当たり前になる時代だからこそ、サービス提供側には、折りたたみ端末を含む新しいフォームファクタを「例外」として切り捨てない設計が求められる。起こることがめったにないトラブルの可能性を怖れて、二つ折りのような新たなフォームファクタに臆病になるような事態にはなってほしくない。
