「形があるものはいつか必ず壊れる」と言い切ってしまうと語弊があるが、飛行機でも他の分野と同様に、構造破壊に対する配慮は必要である。また、搭載している機器やシステムが故障する可能性も否定はできないので、そういう事態に備える必要もある。というわけで今回は、破壊や故障にどう対処するかという話を。

機体構造の破壊に備えて

「壊れる」というと真っ先に気になるのは、胴体や主翼や尾翼といった、いわゆる機体構造部である。実は、機体構造部の破壊には2種類ある。いずれについても、もちろん設計や試験は入念に行っている。

1つは、強度限界を超えた時の破壊。これはわかりやすい。

設計の段階で、「こういう飛び方をすれば、これぐらいの荷重がかかる」「高度○○フィートまで上昇した時、与圧している機内と外部の圧力差はこれぐらいになるから、胴体にはこれぐらいの荷重がかかる」といったデータは計算できる。それに基づいて、安全率を掛けた値に耐えられるだけの強度を持たせる。

これをテストするには、地上試験用の実機(供試体)を用意して、実際に荷重をかけてみる。そして、設計段階で設定した限界値(想定荷重×安全率)まで荷重をかけても壊れないことを確認する。

難しいのは、その限界値を超えた後。限界値をはるかに上回る荷重をかけても壊れないのは過剰品質であり、余計な重量を背負い込んでいることになる。だからといって、もちろん限界値に達する前に壊れてもいけない。

「軽く」「丈夫に」作らないといけないのは何でも同じだが、特に飛行機はシビアだ。

もう1つの破壊が「金属疲労による破壊」。金属疲労というと難しそうだが、針金を1つ用意して両手でポキポキやってみれば、すぐ理解できる。ポキポキを繰り返しているうちに、繰り返して折り曲げた部分がパッと破断するからだ。

飛行機の胴体は、内部を与圧していれば、上昇・下降を繰り返す度に伸縮する。主翼は、本連載の第1回で解説したように弾性体だから、荷重がかかる度にユサユサしている。どちらも、構造材に繰り返し荷重をかける動きであり、結果として金属疲労の原因を作る。

そこで疲労試験を行う。地上試験用の実機(供試体)を用意して、コンピュータ制御の油圧ジャッキなどを使って繰り返し荷重をかける。実際の運用状況と運用期間を想定して、どれだけの荷重を何回繰り返すかを決めている。もちろん、設定した回数に達する前に壊れてはいけない。

YouTubeを見ると、疲労試験の模様を撮影した動画も上がっている。キーワード「aircraft fatigue test」を指定して探してみよう。

こうやって入念な設計と試験を実施していても、壊れてしまうことがある。材質不良、製作工程のミス、製作過程での素材の損傷、設計や試験に際して設定した前提条件の間違い、想定した寿命を超える長時間運用、想定した状況を超える過荷重、運用環境に起因する腐食、などといった理由による。

実際にかかった負荷を計測する

ここまで述べてきた話に立脚すると、飛行機の機体構造寿命はいくつかの要因によって決まることがわかる。それは「飛行回数」「飛行時間」「飛行内容」である。

繰り返し荷重の回数は飛行回数に依存するし、かかる荷重の大小は飛行内容に依存する。荷重がかかった時間は飛行時間に依存する。

ややこしいことに、ある数字が同じでも別の数字が違う、ということも起きる。短距離飛行の旅客機と長距離飛行の旅客機では、同じ飛行時間でも離着陸の回数が桁違いに異なるから、疲労の面では短距離飛行の方が不利だ。

戦闘機みたいに激しい荷重がかかる飛び方をする機体は、設計時に設定する飛行時間は6,000~8,000時間程度だ。しかし戦闘機のお値段が高くなり、簡単に代替新造ができない昨今では、機体構造の補修や交換を実施して、さらに延命を図る事例がひきもきらない。

米海軍のF/A-18ホーネットは、空母にドカンと着艦する度に中央部胴体に衝撃がかかるため、中央部胴体をまるごと取り替える延命改修を実施した。8年ぐらい前の話だが、交換用の中央部胴体33セットで3,500万ドルという契約があったから、ワンセットで100万ドルぐらいする計算だ。ちょっと安すぎるような気がするが。

  • 米海軍のF/A-18ホーネット Photo:U.S. Navy

また、近年では機体構造材にセンサーを取り付けて、かかった負荷を計測・積算する事例が増えている。ことに軍用機は、かかる荷重の内容も負荷状況も飛行内容に応じて大きく変動するから、単純に飛行回数や飛行時間だけでは判断できない。そこで「実際にどれだけの荷重がかかったか」のデータを取るようになった。

壊れた時のための備え

「壊れない設計」「壊れないことの確認」だけでなく「壊れても致命的な事態に至らないようにする対策」という話も出てきた。その一例が、フェールセーフストラップ。適切な日本語が思い浮かばないが、「当て金」と訳している本を読んだことがある。

デハビランド・コメットが墜落事故を起こした後で、実機を使った疲労試験を実施した結果、機内の与圧に伴う機体構造の金属疲労が原因だと判明した。そこで、ボーイング社は707を設計する際に、金属疲労を考慮に入れて部材の寸法を決定するだけでなく、亀裂が生じたときに広がらないようにするための設計を取り入れた。それがフェールセーフストラップである。

ところが、それでも事故になってしまった事例がある。その一例が、1988年4月28日にアロハ航空のボーイング737で発生した「天井部がすっ飛んだ事故」である。そこで今度は、損傷許容設計という考え方が出てきた。

フェールセーフストラップは「一部が壊れても、それが拡大しないようにするための対策」だが、損傷許容設計とは「疲労、腐食、突発事象といった原因で機体構造にどんな損傷が起きるかを特定した上で、損傷が発生しても飛行を継続できるようにする」という考え方。

だから、「損傷の発生は認めない」ではなく、微少な損傷が発生する可能性を織り込んだ上で、そうなっても致命的な事態に至らないようにするとか、損傷の発生をいち早く把握して対処できるようにするとかいった形になる。

また、冗長化によって対処する事例もある。わかりやすい例がボーイング747の主脚。ボーイング747は首脚に加えて胴体下面に2基、主翼下面に2基の主脚を備えている。通常は、この「五本足」で機体を支えているが、実は主脚については胴体側、あるいは主翼側のいずれか一方があれば耐えられるだけの強度を持たせてある。

実際、1971年7月30日にサンフランシスコ空港で発生したボーイング747の離陸失敗事故では、離陸時の引き起こしが遅れたために胴体側の主脚を進入灯にぶつけて壊してしまった。しかし、主翼側の主脚は無事だったので、燃料投棄を行って機体を軽くした上で、残っていた三本足で無事に降りることができた。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。