• 日本最多メダル獲得のeスポーツ競技―― 32年ぶりの日本開催「アジア競技大会」と100年後のゲームの姿
※本記事には、最終選考会が実施された「ASIA esports EXPO 2026」、および「ASIA esports EXPO 2025」の現地写真を使用しています

こんにちは。eスポーツライターの小川です。

ゲーム・eスポーツが正式なメダル種目となっている「第20回アジア競技大会 / 愛知・名古屋2026(以下、アジア大会)」が2026年9月19日~10月4日(eスポーツ競技は9月23日~10月4日)の期間で開催されました。

アジア大会は「アジア・オリンピック評議会(OCA)」に加盟する45の国と地域から約1万5000人の選手・スタッフが参加する、アジア地域最大級の国際総合スポーツ競技大会です。

日本での開催は3度目、1994年の広島大会以来、32年ぶりの開催です。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」ぷよぷよ部門、最終選考会の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」ぷよぷよ部門、最終選考会の様子

「アジア大会でeスポーツがメダル種目になっている」と言われても、多くの方にとっては

  • eスポーツがアジア五輪に入るのは初めて?
  • 少し前にeスポーツが五輪になるって話なかった?
  • 実際、盛り上がったのか?
  • ゲーム好きはこの大会に注目しているのか?
  • eスポーツがアジア五輪の種目になることは何を意味するのか?

いくつかの疑問が浮かぶと思います。

そこで今回は、アジア大会のプレイベントも兼ねて、Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で実施された「ASIA esports EXPO 2025」(2025年3月29日~30日)、およびeスポーツ競技の最終選考会となった「ASIA esports EXPO 2026」(2026年3月21日~22日)を現地で取材した筆者が、その写真とともに解説します。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」対戦格闘団体戦、最終選考会の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」対戦格闘団体戦、最終選考会の様子

アジア五輪にeスポーツが入るのは初めて?

アジア大会は、オリンピックに次ぐ、アジア最大級のスポーツ競技大会とされていて、「第19回アジア競技大会(2022 / 杭州)」から、eスポーツが正式なメダル種目となっています。

前大会の採用タイトルは『League of Legends』『Dota 2』『HearthStone』『Dream Three Kingdoms 2』『ストリートファイター V』『FIFA』『PUBG Mobile』『Arena of Valor』。

聞き馴染みのないタイトルもあるかもしれませんが、今大会からは『グランツーリスモ』『ぷよぷよ』など、日本人に馴染みのあるタイトルも競技タイトルに加わっています。

タイトル数も8タイトルから13タイトルに増えています。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」体験ブース『グランツーリスモ』の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」体験ブース『グランツーリスモ』の様子

eスポーツがオリンピック種目になるって話なかったっけ?

はい、ありました。

ゲーム大国の日本は「eスポーツのオリンピック化」の話題が出るたびに(良くも悪くも)盛り上がりを見せます。

直近では、2024年7月に国際オリンピック委員会(IOC)が「オリンピックeスポーツゲームズ」の創設を発表し、話題となりましたが、2025年10月に同大会の中止が発表されています。

同大会はIOCがサウジアラビアと共同で推進していた「eスポーツをオリンピックの枠組みで行う取り組み」でした。2027年の開催予定で進んでいましたが、今では白紙となっています。

ここで面白いのは、中止の発表とほぼ同タイミングで、サウジアラビアが新たな国際大会「Esports Nations Cup(ENC)」を発表したことです。

ENCは国別対抗の国際大会であり、2026年11月から2年おきに開催、まさに「eスポーツ版のオリンピック」といえます。ところが、同大会は国際情勢を考慮して、1年の延期を発表しました。

このようにeスポーツの国別対抗戦(五輪的なイベント)は「やりそうでやらない」状態が続いてきました。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」対戦格闘団体戦、最終選考会の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」対戦格闘団体戦、最終選考会の様子

実際盛り上がったのか?

そんな中、アジア圏のeスポーツ国別対抗戦といえる「アジア競技大会」が日本で開催されました。

「盛り上がったのか?」について、筆者の感覚では「思っていたよりも盛り上がっていた」です。

パズルゲーム(ぷよぷよeスポーツ)における、ゆうき選手は史上最年少、11歳の金メダリストとして、マスメディアを中心に取り上げられ、非対称戦(第五人格)の銀メダル獲得は、地上波で報道されました。

また、日本が銀メダルを獲得した、対戦格闘団体戦(スト6、鉄拳8、KOF)決勝は同時接続4万人、金メダルを獲得したポケモンユナイトでは、同時接続2万人の視聴者数を記録しました。

このように、筆者としては、マスメディアでの露出も含めて、ある程度は盛り上がったと感じる反面、同時接続数や周囲の反応としては「普段の大会はもっと盛り上がるのになぁ」と、1人のeスポーツメディア関係者として、当日の視聴数に貢献できなかった点に悔しさが残ります。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」『ポケモンユナイト』日本代表記者会見の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」『ポケモンユナイト』日本代表記者会見の様子

いまのゲームファンはこの大会に注目しているのか?

ここは難しいところで、各タイトルによって異なるので一概にいえませんが、国内のeスポーツコミュニティ全体の注目度としては「中程度」というところでしょうか。

ファンがアジア大会のような国別の国際大会に、いま一つ乗り切れないのは、いくつか背景がありますが、ここでは2つの見解を述べます。

1つ目は、すでにゲーム会社が実施する世界大会が十分に多く、今回のような権威性のある国際大会が「飽和状態」であるという点です。

たとえば、エレクトロニック・アーツが主催する『エーペックスレジェンズ』の世界大会「Apex Legends Global Series」は3年連続の札幌開催が決定、カプコンが主催する『ストリートファイター6』での世界大会「ストリートファイターリーグ: ワールドチャンピオンシップ」も日本で開催されています。

また世界に目を向けると、ライアットゲームズが主催の『VALORANT』『リーグ・オブ・レジェンド』、Epic Gamesが主催の『フォートナイト』の世界大会、賞金総額115億円の国際大会「Esports World Cup」など、いまやeスポーツの国際大会は毎月のように開催されています。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」対戦格闘団体戦、最終選考会の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」対戦格闘団体戦、最終選考会の様子

2つ目は「国別の代表戦」という(形式ばった)「国vs国」の試合が、やや古い価値観になっていることです。

もちろん、ファンは、国内のeスポーツチームが、世界で結果を出すことを強く望んでおり、日本vs諸外国の試合は異常な盛り上がりをみせます。

ただ、それは、「国vs国」だから盛り上がっているのではなく、あくまでゲームコミュニティが紡いできた、ストーリーのいち要素として盛り上がっているに過ぎません。数年かけて選手とファンが、ボトムアップで醸成してきた、文脈と物語、関係性が土台となっているが故の盛り上がりといえます。

トップダウンで用意された、形式的な試合では、同様の盛り上がりは得られません。

また、いまやゲームコミュニティのなかでシェアされている価値観は国内の選手の応援に留まっていません。その証拠にアジア大会の『リーグ・オブ・レジェンド』部門では、日本代表が出場していないにも関わらず、Fakerというスター選手の物語を見届けるために、国内からも多くの観客が来場しました。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」eスポーツ体験コーナーの様子

    「ASIA esports EXPO 2026」eスポーツ体験コーナーの様子

また、当然ですがゲームファンは、すべてのゲームを好んでいるわけではありません。複数タイトルを扱う、オリンピックやアジア大会のスタイルは、特定のタイトルに特化して視聴するゲーマーの趣向性と乖離しているといえるでしょう。

タイトル単独のイベントのほうが、(アジア大会のような総合大会よりも)観戦環境や世界観の構築も十分にされています。現代のゲームファンは、日頃から快適な観戦環境を提供されているので、舌が肥えているといえます。

専門店のラーメンを食べてきたラーメンファンが、ファミリーレストランの「汎用的なラーメン」で満足することはありません。

(※あくまで筆者の感想です)

  • 「ASIA esports EXPO 2026」eスポーツ体験コーナーの様子

    「ASIA esports EXPO 2026」eスポーツ体験コーナーの様子

eスポーツがアジア五輪の種目になることは何を意味するのか?

では、「アジア大会」のような、国別の国際大会にeスポーツが選ばれることは無意味なのでしょうか。

筆者は職業柄、日々「どうやったらゲームの地位が上がるのか」の命題と向き合います。もっとも、筆者自身は「ゲームの地位を上げる」ことに、それほど関心があるわけではありません。

ただ、最近になって考えるようになったことがあります。

それは、eスポーツが「競技」として社会に認識されていくことによる、私たちの日常における「ゲームの立ち位置」が変わっていく可能性です。

たとえば、100年後、または200年後、大学に「eスポーツ科学部」ができ、eスポーツ推薦で大学に進学する学生が現れる未来も考えられます。

そこに至る土台としてeスポーツが、ゲームコミュニティの外側の世界で「競技」として認知されることは重要です。

  • 「ASIA esports EXPO 2026」『eFootball』、最終選考会の様子

    「ASIA esports EXPO 2026」『eFootball』、最終選考会の様子

もちろん、これは現時点では筆者の想像にすぎません。

しかし、100年前のフィジカルスポーツには似たような歴史があります。

たとえば、早稲田大学のスポーツ科学部の源流は、1896年に開催された第1回近代オリンピックの翌年、1897年に設立された(早稲田大学の前身である)東京専門学校体育部まで遡ります。その後、1964年の東京オリンピック開催年に教育学部へ体育学専修が設置され、1982年に本格的なスポーツ推薦制度がスタートします。

1987年には人間科学部スポーツ科学科へと改組。2003年にはスポーツ科学部が独立しました。現在のスポーツ科学部は、競技だけでなく、スポーツ医科学、コーチング、ビジネス、文化など、スポーツを多面的に研究する場になっています。

もちろん、「オリンピックが開催されたからスポーツ科学部が生まれた」と単純に説明できるわけではありません。

それでも、スポーツが国際的な競技として社会に定着していく過程で、教育や研究の対象として扱われる領域が広がっていったことは十分に考えられます。

  • ASIA esports EXPO 2025

    ASIA esports EXPO 2025

そう考えると、eスポーツの国際大会は、短期的な盛り上がりで、その価値を測る必要はないのかもしれません。

今回のアジア大会eスポーツ競技が100年後にどう評価されるのかは、今の時点ではわかりません。

もしかすると、将来の大学に「eスポーツ科学部」ができ、eスポーツ推薦で入学する学生が現れるかもしれない。

あるいは、ゲームをプレイすることが、競技だけでなく、教育、研究、スポーツ科学、コミュニティ形成など、さまざまな領域につながっていくかもしれない。

eスポーツのオリンピック化は、現在のゲームファンを満足させるためだけの取り組みではありません。

100年後、200年後のゲームとの関わり方を変える可能性を持った、長い時間軸の取り組みなのかもしれません。