特定非営利活動法人国際教育eスポーツ連盟ネットワーク日本本部(以下、NASEF JAPAN)は、主催する高校生eスポーツ大会「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」において、教育現場の声をより反映するため、eスポーツ部顧問の教員が参画する実行委員会を設置しました。
高校eスポーツ部は、現在どのような課題を抱え、大会運営はそれにどう対応していくのでしょうか。今回は、NASEF JAPANで大会プロデューサーを務める町山雄大さんと、実行委員長を務める滋賀県立八幡工業高等学校eスポーツ部顧問の三浦広和さんにインタビュー。今年の第4回大会に向けて、大会運営と教育現場、双方の立場から話を聞きました。
教育現場からの生の声を聞く、実行委員会の設置
―― 最初に、お二人の自己紹介をお願いします。
三浦:八幡工業高校eスポーツ部顧問の三浦です。eスポーツ部は今年で6年目になり、現在の部員は45名ほど。全国から十数校が集まるeスポーツ合同合宿の取り組みを、夏と春の年2回行っています。
「全日本高校eスポーツ選手権」では、フォートナイト部門で決勝大会出場、リーグ・オブ・レジェンド部門では西日本ブロックでベスト4の実績があります。第4回大会では実行委員長として、運営の皆さまとつながりを持ちながら活動させていただいています。
町山:NASEF JAPANで大会プロデューサーをしている町山です。前職では、株式会社E5esports Worksにて取締役を務め、eスポーツ施設「LFS池袋esports Arena」の店舗責任者をしながら、eスポーツのイベント制作に携わってきました。
「全日本高校eスポーツ選手権」には、2019年からイベント制作の立場で携わり、長らく裏方として伴走してきました。昨年の第3回大会より、大会プロデューサーを担っております。
―― 今回、実行委員会が設置された背景について教えてください。
町山:私たちはこの大会を、eスポーツ部における日頃の活動成果を表現し、発表する場だと考えています。ですから、継続性のある大会であること、“毎年あるのが当たり前”だと思われる大会に育てていくことが、なにより重要です。ただ、第3回大会が終わった後の話し合いで、それを我々だけでつくるのは難しいという話になりました。
NASEF JAPANは以前から、三浦先生を含むフェローの先生方とのつながりを持ってきましたが、もっとダイレクトに先生方の声を反映していく必要があるだろうと。実際に教育現場にいらっしゃる先生方のご意見をしっかり反映しながら大会を育てていくため、実行委員会の設置に至りました。
三浦:もともとは、学校側の事情を考慮した大会にしてほしいけれど、運営側に現場の声が届かないという課題感を抱えていました。意見に耳を傾けてもらえても、どこまで反映されるのかわからない。でも、こちらは大会を運営していただいている立場ですから、運営側の都合もあるだろうと思うと、強くは言えない状況でした。
ただ、今回こうして実行委員会が立ち上がったことで、我々の声がかなり伝えやすくなりました。大会側の事情も踏まえたうえで、「では、どうしていきましょうか」と一緒に協議できる場が設けられたことは、本当にありがたいと思っています。
全日制と定通制のブロック分けと取り巻く環境の変化
―― 2024年の第2回大会から、全日制と定通制(定時制・通信制)のブロック分けが始まりました。実行委員会の設立前のことですが、これも実力差が大きすぎるという先生方からの声を反映したものだったと思います。
三浦:学校や課程によって、eスポーツ部の活動時間や部員数、練習環境などに違いがあり、当時は大会の上位進出校に偏りが見られる状況がありました。
eスポーツ部の立ち上げには、パソコンをはじめ環境づくりにかなりの投資が必要なので、学校側には部活動としてしっかり結果を残してほしいという思惑があります。しかし、全日制のeスポーツ部は輝ける場が少なく、実績を残しづらいという難しい立ち位置にありました。それがブロック分けによって大きく改善されたと思います。
ただ、今は学校がさまざまな形に多様化していて、全日制なのか定通制なのか、条件に当てはめるのが難しい学校もあります。加えて、最近は部活動を民間に移行する時代にもなってきました。
そうした背景から、学校単位での出場が難しいケースもあるのですが、むやみに学校を組み合わせたエントリーができるようにすると、強い生徒ばかりを集めた最強チームがつくれてしまう。このあたりはとても難しいところだと思います。
町山:このトピックは、今まさに議論しているところで非常に難しい内容です。全日制と定通制のブロック分けは、当時とても求められていた対応だったと思います。ただ、今は全日制の学校でも多くの部員がいたり練習環境の質が上がったりして、結果を残すようになってきています。全日制でeスポーツコースを設ける学校も出てきました。
そして、三浦先生がおっしゃったように、学校の仕組みというのが非常に難しいんですね。例えば、制度上は通信制課程であっても、全日制と同じように週5日通学している生徒もいます。
学校や学び方が多様化するなかで、従来の学校区分だけでは整理が難しいケースも増えています。第4回大会では、こうした状況も踏まえ、所属する学校・課程の制度上の区分を基準として参加ブロックを設定しています。
―― ブロックを分けたから解決という単純なものではないと。各校のeスポーツ部立ち上げから数年が経ち、ブロック内での実力差も広がっているのでしょうか?
町山:実力差もそうですが、規模や環境の差も大きいですね。大規模な部活になった学校もある一方、例えばパソコン部からeスポーツ部になったような地方の公立高校では、部員が5人しかいないとか。その5人が全員同じゲームをやっているとも限らず、そうなるとなかなかチームが組めないので、出場できる競技が限られます。
そうした学校に対応するため、第4回大会ではできる範囲の対策として、所属する学校・キャンパス単独では必要人数を満たせず、チーム編成が難しい場合など、一定の条件を満たした場合に限り、キャンパス連合や学校連合でのエントリーを認めています。(※キャンパス連合や学校連合の詳細な条件についてはこちら)
新たに個人部門を設立、実力に応じた2段階のリーグも
―― 第4回大会からの新たな要素として、『ストリートファイター6』(以下、スト6)個人部門の設立もありました。
町山:『スト6』は第2回大会から採用しており、3人1組で出場する団体戦を行っています。第4回では団体戦に加え、新たに個人戦を追加しました。空手や剣道で、団体戦と個人戦があるようなイメージですね。我々としては、これまでチーム戦にこだわってきました。チームで取り組むことで、コミュニケーション能力の向上につながる側面があるからです。
ただ、先ほどの話とつながりますが、これまでチームを組むのが難しかったり、そもそも学校にeスポーツ部がなくて出られなかったりした生徒もいました。個人部門の新設をきっかけに、そういう生徒にもぜひ出場してほしいと思っています。
―― 『スト6』では、実力に応じた2段階のリーグを設けたことも新たな要素ですよね。
町山:『スト6』を採用した当初の第2回大会は、発売から間もなく、出場者のうちゲーム内ランクがレジェンド(最高ランク)のプレイヤーは1人しかいませんでした。しかし、次の第3回大会ではレジェンドが7人になり、なかにはすでにプロチームに所属しているプレイヤーもいたんです。
となると、相当な実力差になるんですね。特に『スト6』は試合時間が短いので、一生懸命練習してきても、実力差があるとあっという間に負けて終わってしまう。もちろんそれは避けられないことなのですが、部活動としてやるにあたっては、少し違うのではないかと感じる部分がありました。
部活動というのは、あくまで学校活動の1つであって、例えばサッカー部にいても、全員がプロサッカー選手を目指すわけではないですよね。なので、幅広いランクの人にとってエントリーしやすくして、まずは競技大会のおもしろさを味わってほしい。そうした考えから、個人戦に挑(いどみ)リーグと、極(きわみ)リーグの2つを設けました。
極リーグは、マスターランク以上の選手を主な対象としつつ、ランクにかかわらず、より高いレベルに挑戦したい選手も参加可能。オフライン決勝を目指し、自分の実力を試したい選手に向けたリーグです。
ダイヤ以下の挑リーグは、予選大会のなかで実施し、配信も行いません。ですので、顔出しをしたくない、オンラインだけで出場したいといったプレイヤーも出やすくなります。
―― 新たな要素はありますが、競技タイトル自体はあまり変えないことを意識されている印象です。このあたりの考え方はいかがですか?
町山:検討にあたって、継続的に取り組めるゲームタイトルであるかどうかは、特に重視しています。やはり高校3年間の積み上げとして、部活動の集大成になっていくわけですので、毎年タイトルが変わっていては、やってきたことの意味が実感しづらくなってしまいます。
加えて、競技シーンが継続的に存在しているか、プロシーンなども含め、生徒たちがその先の目標を描ける環境があるか、という点も重視しています。また、NASEFはグローバルに活動する教育eスポーツ団体ですから、日本に限らず、世界的に評価を受けているタイトルであるかどうかも意識しています。
三浦:やはり競技タイトルがどう変化していくかは、学校側からすると不安な要素です。例えば、もともと『ロケットリーグ』は競技タイトルの1つでしたが、現在は採用が見送られています(※)。
コミュニティの有志の方々が声を上げてくださり、「全日本中高ロケットリーグ選手権」という大会ができたおかげで、今も『ロケットリーグ』を頑張ってきた生徒たちが出られる大会があります。とはいえ、「全国高校eスポーツ選手権」の規模にはかなわないので、ちょっと寂しいですね。
※株式会社毎日新聞と株式会社サードウェーブが主催していた「全国高校eスポーツ選手権」では、初開催の2019年から継続的に『ロケットリーグ』が競技タイトルの1つに選ばれていた。2023年から「NASEF JAPAN」がこの大会を引き継ぎ、翌年の第2回大会でタイトルの見直しが行われた。
―― 大会スケジュールなども、先生方の声を受けていろいろと改善されたとお聞きしました。
町山:そうですね。例えば、昨年は8月21日に出場エントリーの締め切りを設定していたのですが、その後9月3日まで、9月10日までとエントリー期間を2度延長しました。ですが、今回は最初から9月10日に設定して、絶対に延長はしないという形にしています。
三浦:8月21日というのは、思いっきり夏休み中なんですね。学校側からすれば、「なぜそんな日に締め切りを」という話なのですが、運営側からはそういう部分がわかりにくかったんです。大会の試合日程が、テストや学校行事が多い時期に被っていたこともありました。
それから、部活動としては期限を守ることも大事な要素の1つなので、きちんと期限を守ってエントリーさせたい。とはいえ、エントリーはギリギリになりがちなので、エントリー数を伸ばしたい運営側とのジレンマが生じていました。
町山:我々は単純に、「大会の運営上いつまでに情報が必要だ」と逆算して期限を考えていたんです。特にeスポーツ大会は、ゲームタイトルを使わせていただいて運営するものですので、IPホルダーの方々との調整も必要です。
でも、そもそも夏休み中に締め切りを設定しても、生徒たちが学校にいないという話だったんですよね。実行委員会ができたことで、そういった事情をよりクリアに理解できるようになりました。
先陣を切って試行錯誤してきた先生方とのつながりを
―― eスポーツ部の練習環境については、質が上がったという話もありましたが、まだ課題も残っていますか?
町山:生徒たちがeスポーツ部をやりたいと言うものの、どうしていいかわからない先生たちというのは、いまだに毎年どんどん出てきています。そのため、練習環境と指導者の指針になるものをつくろうと、NTTe-Sportsさんとの協業で、練習相手をマッチングする「PLAYWEB」と指導者資格の「eスポーツ人材育成能力認定制度」の運営に取り組んでいます。
三浦:やはり新規のeスポーツ部では、練習環境をどうつくるかが先生方にとって最初の課題になります。同じ県内に練習相手の学校がない、あっても取り組んでいるゲームタイトルが違うなど、いろいろな難しさがあるんですね。公式の練習試合は活用しづらく、あまり使われなかった背景もありました。
ですが、「PLAYWEB」ではマッチングしたチーム同士で練習できるうえ、元プロなど講師の方々が見ているので、一部の試合でフィードバックをもらうこともできます。まだあまり練習環境が整っていない新規のeスポーツ部でも、それを活用できるのは大きいと思います。
―― eスポーツ部の立ち上げに関しては、サードウェーブの「eスポーツ部発足支援プログラム」の存在も大きかったと思います。これが2023年に終了した後、どう変化しましたか?
三浦:あのプログラムが、多くのeスポーツ部立ち上げに寄与したのは間違いなく、終了後はなかなか立ち上げが難しくなりました。パソコンを5台そろえようと思ったら、それだけで100万円くらいの予算が必要ですから。
そのほかにも、ネット回線を引こうとしても県から許可が下りないとか、学校が田舎にあって光回線が引けないとか。回線が引けても、強いフィルタリングがかかっていて、ゲームどころではないとか。学校ごとにさまざまな課題があります。
ただ、2024年から文部科学省の「DXハイスクール」という制度が始まりました。情報系の科目を支援するためのもので、グラフィックボードの入った高性能パソコンを国の予算で導入できるようになったんです。回線を含め、これを活用する形で、eスポーツ部を立ち上げてみようという学校も増えてきました。
―― それでは最後に、高校eスポーツに関わる方々へのメッセージをお願いします。
町山:生徒の皆さんも先生方も、とにかくチャレンジしてほしいと思っています。今回、個人部門を設けたのも、1人でもやりたいという気持ちがあるなら、まずは挑戦してみてほしいという思いがあるからです。挑戦してみて、負けて悔しい思いをして、今度は勝ってやるんだと試行錯誤しながら練習する。そうなれば、それはもう部活動ですよね。
私たちは「全日本高校eスポーツ選手権」を、eスポーツ部にとってなくてはならない表現発表の場、そして高校3年間をかけて活動するに値する大会にしていきたいと思っています。ですので、「来たれ、高校生」。そして、それを見守っていただける先生方も歓迎しています。
三浦:eスポーツはオンラインでのつながりになりがちです。しかし、毎年eスポーツ合宿をやっていると、先生方から「オフラインでつながって情報交換できるのが一番いい」という声を多くいただきます。ですので、やはりみんなでオフラインの場で集まって、つながりを持ってほしいですね。
先生方は本当に大変だと思うんですよ。僕自身も大変でしたし、学校ごとにさまざまな課題があります。ただ、先陣を切った先生方がたくさんいて、すでにeスポーツ部が5~6年続いている学校も多いですから、蓄積されたノウハウがあります。1人で抱えずに、そういう学校とうまく手を取り合っていけるといいと思います。
思っている以上に、eスポーツってすごくいいものです。子供たちが目を輝かせながら真剣に取り組んで、勝利して拳を突き上げたり、悔しくて涙をこぼしたり。スポーツと変わらない、そういう体験ができるものなので、ぜひその環境を一緒につくっていきたいです。
―― ありがとうございました!
■ 第4回 NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権 大会日程
- オンライン予選
- 9月26日(土)・27日(日):リーグ・オブ・レジェンド部門
- 10月3日(土):ストリートファイター6 個人部門・挑リーグ
- 10月4日(日):ストリートファイター6 個人部門・極リーグ
- 10月10日(土)・11日(日):フォートナイト部門
- 10月12日(月・祝):ストリートファイター6 団体部門
- 10月17日(土)・18日(日):エーペックスレジェンズ部門
- 10月24日(土)・25日(日):VALORANT部門
- オンライン決勝
- 12月5日(土):フォートナイト部門
- 12月6日(日):エーペックスレジェンズ部門
- オフライン決勝
- 12月12日(土):ストリートファイター6 個人部門・極リーグ
- 12月13日(日):ストリートファイター6 団体部門
- 12月19日(土):リーグ・オブ・レジェンド部門
- 12月20日(日):VALORANT部門





