2026年5月31日、東京の墨田区役所にてタクティカルFPSゲーム『VALORANT』の国内大会「VALORANT Challengers Japan 2026」(以下、Challengers Japan)のパブリックビューイングが行われました。

墨田区とともに、このパブリックビューイングを開催したのは、プロeスポーツチームの「INSOMNIA(インソムニア)」。墨田区役所の会議室に集まった「INSOMNIA」のファンたちが、チームへの声援を送りながら大会観戦を楽しみました。

記事の前半では、区役所パブリックビューイングの模様をレポート。記事の後半では、墨田区企画経営室の飯田晃英さんと「INSOMNIA」チーム代表の本橋壮太さんに、取り組みの背景について聞いたインタビューをお届けします。

  • 墨田区役所の会議室で行われ、盛り上がりを見せたパブリックビューイング

    墨田区役所の会議室で行われ、盛り上がりを見せたパブリックビューイング

レアな“区役所パブリックビューイング”が実現

eスポーツ大会のパブリックビューイングといえば、バーやカフェ、eスポーツ施設などで行われるのが一般的です。しかし、今回の会場に選ばれたのは、墨田区役所の会議室。この日は日曜日で、週末は閉庁しているため、夜間休日入口から入って13階にある会議室へ向かいました。

区役所内にはパブリックビューイングの案内が掲示されており、区役所とeスポーツという異色の組み合わせに、なんだか不思議な気持ちに。会場は広々とした大会議室で、観戦用のスクリーンや応援グッズが用意されていました。

試合は、Challengers Japan Split 2のMain Stageでの「IGZIST」との対戦。会場には続々とファンが集まり、応援ボードやフラッグにメッセージを書くなどして、試合開始を待っていました。

  • スカイツリーの左隣に見えるのが墨田区役所

    スカイツリーの左隣に見えるのが墨田区役所

  • 休日の墨田区役所。夜間休日入口から中へ

    休日の墨田区役所。夜間休日入口から中へ

  • 区役所内に貼られたパブリックビューイングのポスターと案内

    区役所内に貼られたパブリックビューイングのポスターと案内

  • 13階の会議室からは隅田川沿いの見事な景色が見える

    13階の会議室からは隅田川沿いの見事な景色が見える

  • 用意されていた応援ボードやスティックバルーン

    用意されていた応援ボードやスティックバルーン

  • 選手へのメッセージを書き込むチームフラッグも

    選手へのメッセージを書き込むチームフラッグも

  • 「INSOMNIA」を応援するために集まったファンの皆さん

    「INSOMNIA」を応援するために集まったファンの皆さん

88歳の男性が来場、区役所開催ならではの光景

試合が始まると、スティックバルーンや声援によって大きな盛り上がりを見せました。そんななか、驚いたのは88歳の男性が来場されたことです。

お話を伺ってみると、男性は墨田区の公式LINEでパブリックビューイング開催のお知らせを見て、会場にやって来たとのこと。お孫さんが大学生くらいの世代で、ゲームが共通の話題になるだろうと興味を持たれたそうです。スタッフにルールや画面の見方を教えてもらいながら、パブリックビューイングを楽しまれていました。

eスポーツはタイトルにもよりますが、たいていの場合、選手もファンも10~20代の若い世代が中心。よくあるパブリックビューイングの開催方法であれば、まず届かなかった層でしょう。区役所での開催だからこそ実現した、かなり年齢層の幅広いパブリックビューイングの光景はとても新鮮でした。

ちなみに、この方とお話するなかで「このゲームをプレイしている、60歳以上のシニアチームもあるんですよ」と伝えてみたところ、なんとご存知でした。国内のシニアチームというと、秋田県を拠点に活動する「MATAGI SNIPERS(マタギスナイパーズ)」が有名です。そういったシニアチームの活動も、ますます知名度が上がっていることを感じました。

  • 試合が始まると、声を出しながら思い切り「INSOMNIA」を応援

    試合が始まると、声を出しながら思い切り「INSOMNIA」を応援

  • スタッフにルールや画面の見方を教えてもらいながら観戦する88歳の男性

    スタッフにルールや画面の見方を教えてもらいながら観戦する88歳の男性

  • 試合を見たり動画を撮ったりしながら、パブリックビューイングの雰囲気を楽しまれていた

    試合を見たり動画を撮ったりしながら、パブリックビューイングの雰囲気を楽しまれていた

  • もちろん若い世代のファンも多く、かなり年齢層の幅広いパブリックビューイングに

    もちろん若い世代のファンも多く、かなり年齢層の幅広いパブリックビューイングに

  • 代表の本橋さんを含め、チームスタッフも全力の応援で盛り上げた

    代表の本橋さんを含め、チームスタッフも全力の応援で盛り上げた

区役所パブリックビューイング開催の背景とは?

では、こうした区役所パブリックビューイングが、どのような経緯で実現したのでしょうか。開催に携わった墨田区企画経営室の飯田晃英さんと、「INSOMNIA」チーム代表の本橋壮太さんにお話を聞きました。

  • 墨田区企画経営室 公民学連携担当課長の飯田晃英さんと「INSOMNIA」代表の本橋壮太さん

    墨田区企画経営室 公民学連携担当課長の飯田晃英さんと「INSOMNIA」代表の本橋壮太さん

―― 最初に、「INSOMNIA」というチームの紹介からお願いします。

本橋壮太さん(以下、本橋):「INSOMNIA」は、2021年ごろにアマチュアチームとして始動し、僕は途中からチームに関わり始めました。会社として動き出したのは2024年なので、新興プロeスポーツチームです。

チームの特徴は大きく2つあり、まず1つは自治体との連携。創業当初から、オンライン上の数字だけが動くのではなく、実際に人が動くeスポーツチームをつくりたいという思いがありました。なので、ホームタウンを持ってオフラインの集客にこだわろうと、墨田区さんをはじめとする自治体と連携しながら取り組んでいます。

もう1つが、大学機関とのスポーツ科学的な取り組みです。例えば、eスポーツ選手はどういうトレーニングをすべきなのか、食事はどうしたらいいのか。そういったことを、東京大学や慶應義塾大学など、現在7大学と連携して研究を進めています。

―― 今回の区役所パブリックビューイングの開催経緯を教えてください。

本橋:もともと飯田さんに、ずっと区内の施設でパブリックビューイングをやりたいという話をしていました。実際に昨年には、錦糸町ひがしんアリーナ(墨田区体育館)内にある、地元フットサルチームが運営するカフェで開催した例があります。

その後、両国のクラフトビールの聖地と言われるバーや、区内にあるアニメ・アーティスト・アカデミーという専門学校でもパブリックビューイングを開催しました。そうしたなか、飯田さんから「区役所でやってみますか?」というお話をいただいたんです。

飯田晃英さん(以下、飯田):最初は区役所以外の施設も当たっていたのですが、区役所は土日に閉庁しているので、意外と使いやすい場所だなと。今、庁舎リニューアルが進んでいて、今回の会場になった会議室も、最近きれいで広く使える空間になったんです。

ただ、外部への貸し出しは基本的に行っていないため、区が主催する形で実施しました。eスポーツ施策を推進する墨田区として、地元チームを応援する機会をつくろうと、パブリックビューイングの開催に至ったという形ですね。

実は区役所でのパブリックビューイングが、それほどインパクトのあるものだとは、あまり思っていなかったんです。なので、「なかなか区役所で開催できることなんてないですよ」という皆さんの反応に驚きました。

  • 墨田区企画経営室 公民学連携担当課長の飯田晃英さん

    墨田区企画経営室 公民学連携担当課長の飯田晃英さん

―― 開催してみて、どのような感想を持たれましたか?

本橋:僕らとしては、区役所で開催できたという事実自体が、とても嬉しいですね。今までゲームは健康に良くないイメージなど、社会的にマイナスな評価をされがちでした。それが、ようやくいろいろな方からの理解をいただけるようになったんだという、業界全体の努力が実ったような達成感がありました。

飯田:当初は私も、ネガティブな印象というほどではないですが、eスポーツはオンラインだけでやるものというイメージを持っていました。ただ、上司と一緒に初めてパブリックビューイングを見に行ったときに、認識がガラッと変わったんです。eスポーツも他のスポーツと同じように、こんなに若者が熱狂して盛り上がるものなんだと。

なので、こうした機会を増やしていくことで、eスポーツの見方が変わっていくのではないかと思っています。これからもどんどんやっていきたいですね。

―― 区役所での開催について、周囲の反応はいかがでしたか?

本橋:珍しいことなので、SNSや来場者からは「おもしろい」という反応を多くいただいていました。ただ、それ以上にeスポーツ業界の関係者から、自治体とこれをどうやって実現したのかとか、サッカーや野球に近づくような1つのモデルケースとしてすごいといった評価をいただくことが多かったです。

僕たちは昨年、『ポケモンユナイト』のアジア大会で優勝したことをきっかけに、区長を表敬訪問させていただいたんですね。そのとき、いろいろなメディアに取り上げていただき、スポーツ紙にも載ったんです。それが僕のなかでは、スポーツとして認識されたんだと、すごく嬉しくて。今回も、そういった地域のスポーツ産業になっていく1つのモデルとして、評価いただけた部分があったかなと思います。

  • 2025年5月、ポケモンユナイト部門の選手たちが山本亨区長を表敬訪問した

    2025年5月、ポケモンユナイト部門の選手たちが山本亨区長を表敬訪問した

―― 区役所側の反応も気になります。銃を撃つFPSゲームという部分で、ネガティブな反応はありませんでしたか?

飯田:今回の開催にあたり、担当職員は区役所内からネガティブな反応があるのではないかと、少し気になっていたようです。でも、蓋を開けてみたら、全然ネガティブな反応はなかったですね。今回パブリックビューイングを行った『VALORANT』は、ゲーム内で暴力的な演出などはなく、行政が関わるうえで必ずしもハードルのあるゲームではないという印象です。

本橋:その点は墨田区さんが、どんなゲームかをちゃんと見てくださったことが大きいと思います。FPSゲームは、自治体とは相性が悪いとか、教育的に良くないものといった先入観で判断せず、実際に見て判断してくださいました。

飯田:今回、パブリックビューイングの開催を庁内にも告知したのですが、隠れeスポーツ好きの職員が結構いることがわかったんですよ。最近、区役所内でeスポーツ部を立ち上げたのですが、告知をきっかけにeスポーツ部に入りたいと言ってくれる職員もいて、現在では部員が10名を超えました。区としてeスポーツに取り組んでいることを、庁内にも認識してもらえたので、やってよかったなと思っています。

公民学の連携で「墨田区をeスポーツの聖地に」

―― 墨田区と「INSOMNIA」の取り組みは、どのような経緯から始まったのでしょうか?

飯田:私の業務領域の1つに、大学連携があります。通称「iU」と呼ばれる、情報経営イノベーション専門職大学(以下、iU)が区内にあるのですが、大学誘致によって墨田区に初めてできた大学なんですね。iUはeスポーツを教育に取り入れていて、eスポーツで単位も取得できる大学です。そのiUに、区として大学の取り組みを支援する立場で関わったことをきっかけに、本橋さんと出会いました。

本橋:もともとiUさんが、eスポーツを積極的に取り入れていくなかで、まだ推進する教員が少ないという背景から、僕に声をかけてくださって。自治体と取り組んでいきたいことについてお話ししたところ、iUさんが「ぜひ墨田区でやりましょう」と、区長や飯田さんをつないでくださいました。

飯田:もともと私は、ホームタウンスポーツチームの誘致にも携わっていたんです。17年ほど前に、「フウガドールすみだ」というフットサルクラブを、墨田区の新たな魅力創出のために誘致しました。そういった背景もあり、本橋さんのeスポーツにかける思いを聞いて、いち職員として率直に応援したいという思いから、私の立場でできる支援をさせていただくようになりました。

過去の経験を通じて、ホームタウンスポーツの存在は、地域の活力やシビックプライド(地域に抱く誇りや愛着)の醸成に直接的につながるものだと感じています。墨田区に世界に通用するチームが存在し、そこに行政の施策や大学との連携が重なる。まさに公民学の連携による、この前例のないホームタウンeスポーツチーム支援事業を、地域を巻き込みながら進めていきたいと考えています。

さらに、墨田区には両国国技館もあります。国技館のウェブサイトには、「国技館をeスポーツの聖地に」と書かれているんですよ。墨田区に、シンボルとなりうる国技館があるということも、“観るスポーツ”としてかなり大きいと思います。

本橋:国技館さんは、eスポーツへの理解がかなり早かったですよね。早い時期から、さまざまなeスポーツ大会の会場として使われるようになりました。そうした国技館があることも非常に大きいですし、区や大学機関との連携も含め、とても恵まれた環境にいると思います。

  • 「INSOMNIA」代表 本橋壮太さん

    「INSOMNIA」代表 本橋壮太さん

―― 今後、取り組んでいきたいと考えていることについて教えてください。

本橋:僕らとしては、「墨田区をeスポーツの聖地に」を大きく掲げたいと思っています。それは、ただ墨田区で大会がたくさん開催されるということではなく、もっとカルチャーとして。eスポーツチームがあり研究施設があり、理解がある自治体や企業がいる、eスポーツの街にしていきたいと考えています。

そして、やはり“人が動くeスポーツ”にしたい。オンライン上での数字ばかりが動くのではなく、実際に人が動いて、熱狂的なファンがいる状態を墨田区でつくりたいと思っています。最終的には、国技館をホームスタジアムにできたら嬉しいですね。

飯田:区としては、まず1つにeスポーツが企業スポーツではなく、地域スポーツとして根差していってほしいと思っています。「INSOMNIA」が区民から親しまれ、応援される存在になってほしい。パブリックビューイングもまだまだ、区民の参加者は少ないと思うので、それを少しずつ増やしていきたいですね。

国技館で「INSOMNIA」の試合があって、客席がチームカラーの紫に染まる日が来たらいいですよね。墨田区民がそこに駆けつけるような、子どもたちや若者に愛され、目標や夢になる存在になってほしいと思っています。それだけでなく、eスポーツを地域課題の解決、福祉や教育の分野にも活かしていきたいと考えています。

また、7月中にホームタウンeスポーツチームの連携協定を、墨田区と「IMSOMNIA」とiUの三者で締結する予定です。その際、両国国技館で締結式を行い、より強いメッセージを国内外に発信したいと考えています。これをもって正式に、「INSOMNIA」が墨田区のホームタウンeスポーツチームになります。区としてさまざまな支援をしながら、eスポーツを身近に感じる新たなまちづくりを、「INSOMNIA」と一緒に取り組んでいきたいと思っています。

―― 飯田さん、本橋さん、ありがとうございました!