約3,200人が来場した、地域密着型のeスポーツイベント。
その盛況の裏側には、eスポーツの未来を考えるヒントがありました。
2026年10月18日に東京都多摩市で開催された「京王eスポーツ祭り2026」(主催:京王電鉄)は、約3,200人の来場者を記録する結果に。
なぜ、これほど多くの人が集まったのか。
京王多摩センター駅から始まる物語、ゆっくりと各駅停車でお付き合いください。
「京王eスポーツ祭り」は、eスポーツ・ゲームファンや地域が世代やジャンルを越えて楽しめることをコンセプトした、京王電鉄が開催する体験型イベントです。
2024年から毎年開催されており、今年で3回目です。
会場のステージでは、プロゲーマーによる対戦企画、トークイベントが実施され、その他、多くのeスポーツタイトルを楽しめる体験ブース、着ぐるみグリーティング、フォトブース、キッチンカーなど、eスポーツに詳しくない方でも、楽しめるイベントです。
「京王eスポーツ祭り2026」が盛り上がった、1つの理由として「TAMATAMA FESTIVAL 2026」(10月17日・18日)と同時開催だった点が挙げられるでしょう。
「TAMATAMA FESTIVAL」は、年に1度の多摩センター駅周辺エリアで実施される、地域密着型のカルチャーフェスであり、2025年には約5万人を動員したイベントです。
多くの来場者を呼び込めるイベントが同時期にあったことは、「京王eスポーツ祭り2026」にとって大きな集客上の利点だったといえます。
また「京王eスポーツ祭り2026」と連動したデジタルスタンプラリーなど、導線を意識した施策も来場者数に繋がったといえるでしょう。
ただ、話はそこまで単純ではないのかもしれません。
取材班が、来場者に話を聞いたところ、「複数の動機」によって、来場者が伸びた可能性がみえてきました。
多くの来場者が、来場の動機として挙げたのは、10月2日まで開催されていた「アジア大会eスポーツ競技」「史上最年少金メダリストゆうきくん」「地上波での報道」など、直近のアジア大会を中心とした話題でした。
(特に親御さんにとっては)eスポーツという「言葉」に聞き馴染みが出てきたことの影響は大きいようで、そこに「TAMATAMA FESTIVAL」「スタンプラリー」などの、複数の動機が重なったことで、心理的ハードルと物理的ハードルの両方が下がったといえるでしょう。
また、ステージイベントには、金メダリストゆうき選手の姿もあり、直近での話題を催しに反映できていたことも、来場者の獲得に寄与したといえます。
「京王eスポーツ祭り2026」は、単なる地域eスポーツイベントの成功体験を示したイベントに留まらず、eスポーツの表(A面)と裏(B面)について考えさせられるイベントでもありました。
読者の中にも、eスポーツ=「競技」「大会」というイメージをもっている方は多いでしょう。プロゲーマー(eスポーツプレイヤー)という言葉があるように「ゲームを競技として取り組む」「ファンが応援、観戦する」というイメージとeスポーツは強く紐づいています。
ここでは、そのイメージを、eスポーツの表(A面)とします。
一方、昨今では、eスポーツの競技的な側面だけでなく、「ぷよぷよプログラミング」「マインクラフト」など、「教育」や「交流」に注目する動きもあり、それらも「eスポーツ」として扱われています。
ここでは、それらをeスポーツの裏(B面)としましょう。
ちなみにeスポーツを、A面とB面に区別する考え方は、一般的なものではありません。
今回の「京王eスポーツ祭り2026」の取材から着想した、筆者独自のものです。
きっかけは、ある1組の来場者からの「どのゲームがeスポーツで、どのゲームがeスポーツじゃないのかわからない」という意見でした。
事実、「京王eスポーツ祭り2026」に採用されたゲームタイトルは、様々でした。
『鉄拳8』『餓狼伝説 City of the Wolves』『MARVEL Tōkon: Fighting Souls』『2XKO』などの格闘ゲームから、『ぷよぷよeスポーツ』『ポケモンユナイト』などのアジア大会でも採用されたeスポーツタイトル、そこに『雀魂~じゃんたま~』『サンリオ パーティランド』『Sanrio Kawaii Me Live!』などのゲームも並んでいました。
「これら全てがeスポーツである」が回答になるのですが、ただ昨今では「どのゲームがeスポーツなのか」は本質的な論点では無くなってきています。
というのも、eスポーツのA面とB面は、それぞれが別の目的と背景で発生したものであり、それぞれが、いつの間にか、eスポーツというカテゴリに統合されたものだからです。
ゲームから派生した「競技」「観戦」、「教育」「交流」、2つの側面を一括りの「eスポーツ」と総称していることが、混乱の原因にもなっているのです。
これはゲームを主語として考えているからです。
よって、今回は「ゲーム」を主語とするのではなく、ゲームをあくまで「手段」として位置付け、「目的」を主語とすることで、実態に合った整理をしてみます。
なお、ここでのA面とB面は、ゲームタイトルを二分するための分類ではありません。
同じゲームであっても、競技大会として開催するのか、教育や交流のために活用するのかによって、その目的は変わります。また、1つのイベントが両方の性質を持つこともあります。ここで区別したいのはゲームの種類ではなく、ゲームを通じて何を実現しようとしているのか、という点です。
まず、A面の目的は「競技」「観戦」であり、新時代のスポーツ、ライブエンターテイメントの手段としてゲームが選ばれた形です。
B面は、目的を「教育」「交流」とし、高齢者の福祉、地域創生、世代間交流、企業間交流の手段としてゲームが活用された姿です。
「京王eスポーツ祭り2026」で体験できた「京王トレインシミュレーター」「京王バス・タクシードライビングシミュレーター」など、職業体験もその1つです。
A面とB面は、目的も成り立ちも異なるので、当然、参加するプレイヤー(組織、参加者)も異なります。A面はゲーミングチームやプロゲーマー、ファン、事業会社が中心ですが、B面は地方自治体、教育機関、NPO法人が中心となって推進されます。
長らくeスポーツイベントの主流は「競技」「観戦」のA面であり、「教育」「世代間交流」などはB面として、あくまでeスポーツのサブ的な部分でした。
B面を主軸としたイベントとして代表的なものは、2020年から開催されている「東京eスポーツフェスタ」などが挙げられますが、集客面では、やや苦戦をしています。
2026年の開催では、部分的にA面の要素を取り入れ、集客面の改善が見られましたが、A面とB面間の接続には課題感のあるイベント設計でした。
その点において、今回の「京王eスポーツ祭り2026」は、今後、B面のeスポーツイベントが盛り上がっていく機運を感じました。
「京王eスポーツ祭り2026」の大盛況も理由の1つですが、重要な背景として、eスポーツのA面を取り巻く環境が、かつての急成長期から変化しつつある点も挙げられます。
全世界のゲームミングチームにおける、スポンサーシップの成長率は、2017年から2018年にかけての18%増に対し、2025年には7%増に鈍化。世界的にゲーミングチームの撤退も相次いでおり、競技シーンを取り巻くビジネス環境は、拡大一辺倒の時代から、持続可能性が問われる段階へ移行しつつあります。
競技そのものの人気が失われたわけではありませんが、大会の盛り上がりを、チームや業界全体の継続的な成長につなげることは、依然として課題です。
eスポーツのA面に停滞感がある一方、今回のイベントでは、A面の盛り上がりと文化が、B面側にも流れてきているのを感じました。
特に、先日のアジア競技大会の影響は大きく、来場者からも「地上波でアジア競技のeスポーツを見た」「最年少の金メダリストが来ると聞いて」という声がありました。
マスメディアを通じて、eスポーツの盛り上がりが、一般層に周知されたことで、B面にも良い流れが生まれつつあるでしょう。
eスポーツのA面の盛り上がりは、競技や観戦における「新しいモノ好き」、いわゆるアーリーアダプターに支えられてきました。しかし、eスポーツがより多くの人々に広がっていくためには、競技や観戦とは異なる接点も重要になってくるでしょう。
「京王eスポーツ祭り2026」のような地域密着型のイベントは、ゲームを競技として楽しむ人だけでなく、教育や職業体験、家族との交流を通じてゲームに触れる人を増やす可能性があります。
そして、B面でゲームに親しんだ人が、やがてA面の観戦者や競技者になる。A面が生み出した話題性や熱狂が、再びB面の活動を後押しする。
こうした循環が生まれれば、競技としてのeスポーツと、社会の中でゲームを活用する取り組みが、互いに支え合いながら成長していく未来も考えられます。
「京王eスポーツ祭り2026」は、eスポーツが競技や観戦だけでは捉えきれない広がりを持ち始めていることを感じさせるイベントでした。
この多摩で生まれた動きが、今後どのように広がっていくのか。今回の盛況は、eスポーツの未来を考えるうえで、1つの重要な手がかりになるのかもしれません。















