タクティカルFPSゲーム『VALORANT』を開発・運営するRiot Gamesは、eスポーツシーンにおける来シーズンの新たな大会フォーマット「VALORANT Champions Tour(以下、VCT)2027」を発表しました。

2023年にアジアパシフィック地域の国際リーグ「VCT Pacific」がスタートし、国内大会「VALORANT Challengers Japan(以下、VCJ)」とともに4年にわたって開催されてきました。しかし、来シーズンからはリーグ形式での開催に区切りをつけ、オープンなトーナメント形式に移行することが明らかになっています。

今回は、Riot Gamesのeスポーツ事業部にて、日本eスポーツマネージャーを務める藤田健さんにインタビュー。リーグ形式で運営されてきた4年間の振り返りと、新たなトーナメント形式で開催される「VCT 2027」の展望について、日本シーンの目線から話を伺いました。

  • Riot Games eスポーツ事業部 日本eスポーツマネージャー 藤田健さん

    Riot Games eスポーツ事業部 日本eスポーツマネージャー 藤田健さん

リーグ形式で運営された4年間を日本目線で振り返る

―― 最初に、藤田さんの自己紹介をお願いします。

藤田健さん(以下、藤田):Riot Gamesで日本のeスポーツマネージャーを務めている、藤田健と申します。日本国内のeスポーツ全般を担当しており、国内で開催する大会や取り組みを統括しています。また、アジアパシフィックやグローバルのチームが日本で行う、施策やイベントのサポートも行っています。

―― 2023年にVCT Pacificが始まり、4年にわたってリーグ形式で運営されてきました。大きく大会形式が変わる節目となりますが、日本目線で4年を振り返っていかがでしょうか?

藤田:VCT Pacificが始まってから、2023年にはMasters Tokyoを開催したり、2025年には日本でVCT Pacific Stage 2 Finalsを開催したりと、さまざまなマイルストーンを達成することができました。

一方で、課題もありました。国内チームにとっては、Ascensionが唯一のTier 1への昇格ルートで、かなり狭き門になっていました。それを勝ち抜くのは非常に難しく、なかなか手が届かない目標だったと思います。

また、日本のファン層にも、ある程度の分散が見られました。VCT Pacificで戦う日本のパートナーチームがなかなか結果を残せないなか、より身近に感じられるVCJのチームや選手に親近感を持ち、そちらを中心に応援するファンも増えていったように思います。

そうしたなかでも、VCT PacificやVCJで、日本チームが見せてくれた記憶に残る瞬間がたくさんありました。そして、そのときの盛り上がりを見るたびに、日本コミュニティの熱量の高さ、競技シーンへの関心の強さを改めて感じました。

  • Masters TokyoはTIPSTAR DOME CHIBAで開幕し、計10日間の試合が行われた

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  • Masters Tokyoの決勝は幕張メッセで行われ、「Evil Geniuses」と「Fnatic」が激突した

    Masters Tokyoの決勝は幕張メッセで行われ、「Evil Geniuses」と「Fnatic」が激突した

  • 2025年にはVCT Pacific Stage 2 Finalsを、千葉県のLaLa arena TOKYO-BAYで開催

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  • Stage 2 Finalsでは、「Paper Rex」が3度目のPacific優勝に輝いた

    Stage 2 Finalsでは、「Paper Rex」が3度目のPacific優勝に輝いた

―― お話いただいたように、国際リーグのTier 1と国内大会のTier 2に分かれたリーグ形式ならではの難しさがあったように思います。この大会形式の課題をどのように振り返りますか?

藤田:VCT Pacificは、年間を通して大会のスケジュールに一貫性があり、皆さんも試合を追いやすかったと思います。それと比べて、VCJは国際大会の合間に実施する必要があり、日程のバランスを取るのが難しくなっていました。それが、参加している選手や観戦するファンにとって、負担になっていた部分があったと思います。

ここは反省点で、大会形式を変える理由の1つになりました。今後は、国内から海外までより一貫性のあるフォーマットで、国内予選からCups、Mastersへと続く、わかりやすい流れとスケジュールになります。国内シーンも含めて、観やすい週末などに試合が集中し、ファンの方も追いやすい形になると思います。

―― ファン層の分散について、特にTier 2人気が高い日本では、より大きく影響が表れた印象があります。他地域と比較した際の、日本コミュニティの特徴について教えてください。

藤田:Riot Games社内でも、日本のファンの熱量はとても高く評価されています。海外のメンバーから、「日本のChallengersチームは、どうしてこんなに熱心に応援されているのか」と、たびたび聞かれるほどです。

この理由の1つとして、まずはこれまでVCJをファンが熱心に応援したくなる大会にしてくれた、参加チームや運営パートナーの方々の努力が非常に大きいと思っています。そのうえで、日本のコミュニティの特徴を挙げるなら、チームが勝っても負けても、選手たちの頑張る姿を応援し続けるところだと思います。

―― それは日本のチームが、選手たちのストーリーを見せるのが上手いという側面もありますか?

藤田:そうですね。特に日本はストリーミング文化が強いです。最近はさまざまな地域で、ウォッチパーティを含むストリーミング文化が活発になりましたが、日本では何年も前から盛り上がっていました。これは、選手のパーソナリティがより見えやすくなっている要素の1つではないかと思っています。

日本では選手だけでなく、チームのストリーマー、チームによってはオーナーなど、eスポーツのエコシステム内のいろいろな立場の方が、ストリーム文化に参加されています。数年前の時点では、日本でのそういった盛り上がりが特に目立っていて、他地域のメンバーから聞かれることも多かったですね。

  • 今年のVCJも、応援に駆けつけたファンで会場のアリーナ立川立飛は満員に

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  • VCJでも毎シーズン、選手たちのさまざまなドラマが生まれた

    VCJでも毎シーズン、選手たちのさまざまなドラマが生まれた

次世代の才能が育ちやすい、オープンな競技環境へ

―― VCT Pacificの締めくくりとなった釜山でのFinalsは、出場4チーム中3チームが韓国人チームでした。リーグ期間中、日本のチームはなかなか成績が振るいませんでしたが、韓国のような強豪地域との差はどういったところが大きいと思われますか?

藤田:まず1つに、VCT Pacificを韓国で開催してきた影響があると思います。やはり韓国以外のチームにとって、そこに滞在することによる負担はあったかなと。自国とは言語も食事も違い、国によってはビザまわりが複雑な場合もあります。

家族や友人と離れて生活しなければならないので、それがパフォーマンスに影響を与えた部分もあったでしょう。それはeスポーツに限った話ではなく、一般的な仕事などに置き換えて考えてみても同じことだと思います。

そして、韓国のeスポーツの歴史は長く、環境や育成などさまざまな面でインフラが整っています。それらは『VALORANT』が始まるより前からあるもので、その土台の差が大きいと思います。ただ、ここ数年そのギャップは縮まっていっているのではないかと感じます。

日本でも、選手のご両親や学校の先生方の、eスポーツに対する理解度はかなり高くなりました。自治体やコミュニティのeスポーツに関する取り組みも増えています。それが『VALORANT』競技シーンの結果に、まだ直接は結びついていないかもしれませんが、遅かれ早かれ追いつくだろうと思っています。

―― たしかに、他タイトルでも環境が整った数年後に、結果に結びついた事例がいくつかありますね。競技レベル引き上げのために、今後考えられているアプローチはありますか?

藤田:日本チームの世界での活躍を、私たちもぜひ見たいと思っています。ただ、これまでの経験を踏まえると、何か特定の施策によってチームや選手を強化できるといった、確実な方法は存在しないと考えています。そうしたなかで、私たちにできるのは、より良い競技環境をつくっていくこと。来シーズンからの変更もその1つです。

変更の大きな方向性は、まず国内チームがチャレンジできる機会を増やすこと。そして、本気で取り組む意志や情熱があれば、誰でも上を目指して挑める、よりオープンな競技環境をつくっていくことです。今まで国際リーグに挑戦できるのは限られたチームでした。ですが、来年からはより単発的なトーナメントになり、どのチームも実力があれば国際大会に行ける仕組みになります。

また、これまでVCT Pacificで戦ってきた日本のトップチームが、今後は国内大会に出場しながら、引き続き国際大会にも挑戦していくことになります。そうしたトップチームの国内大会への参加が、日本全体の競技レベルの底上げにつながると考えています。

これからプロを目指す選手たちにとっても、より強いチームと直接対戦する機会が増え、目指すべき目標がより明確になるでしょう。そうした環境から新しい才能が発掘され、次世代の日本人選手が育っていくことを期待しています。

  • VCT Pacificで戦っていた「DetonatioN FocusMe」と「ZETA DIVISION」が国内に戻ってくる

    VCT Pacificで戦っていた「DetonatioN FocusMe」と「ZETA DIVISION」が国内に戻ってくる

  • 2チームはリーグ期間中、韓国の拠点で生活しながら試合に出場していた

    2チームはリーグ期間中、韓国の拠点で生活しながら試合に出場していた

1試合ごとの重要性がより増し、ドラマが生まれるCups

―― 来シーズンからはトーナメント形式になり、VCT PacificがCupsになります。改めて、この大会フォーマットのコンセプトについて教えてください。

藤田:新たな大会形式では、全体的なコンセプトとして「観ていてより楽しく、ワクワクするものにしよう」という考えがあります。長い期間続くリーグに比べ、短いスパンのトーナメントにすることで、1試合1試合の重要性が高くなります。

それによってドラマもより生まれやすく、大会の魅力が増すと思っています。皆さんに「絶対に見逃せない」と思ってもらえる試合が、より増えることを期待しています。

―― たしかに、例えばVCT Pacificのグループステージでは、「負けても次勝てば大丈夫」という試合も少なからずありました。トーナメント形式になることで、そういう試合がなくなっていくと。

藤田:その通りです。リーグ形式では、大会の序盤や終盤に比べると、どうしても盛り上がりが落ちやすい時期がありました。それを、どのタイミングの試合を観てもワクワクして、盛り上がる大会にしたいと思っています。重みのある試合が、ずっと続いていくイメージですね。

―― Cupsがどのような大会フォーマットになるか、現時点でお話いただける内容はありますか?

藤田:まだ具体的にはお話できないのですが、MastersやChampionsに似たフォーマットで、各地域で実施するとイメージしてもらえればと思います。

―― グループステージがあったVCT Pacificと比べて、Cupsで早期敗退した場合、国際戦の経験やチームの露出機会が減ってしまうのではないかと思うのですが……。

藤田:Cupsで結果を残せなかった場合、たしかにそうなります。ただ、来シーズンの形式は、一度敗退してしまってもチームを立て直し、またすぐ次のオープン予選に挑戦できる。それが大きなコンセプトの1つになっています。

重要なのは、各地域のチームがCupsで挑戦できる機会をつくること。そして、その先のMastersやChampionsの出場権は、競技の結果によって勝ち取っていくものだと考えています。

新たなフォーマットでは、限られた一部のチームだけに経験や露出が集中するのではなく、より幅広いチームにもチャンスが生まれます。トーナメントは、予想外の結果も起こりやすい形式。これまで以上に、アンダードッグなチームが勝ち上がっていくストーリーが、生まれやすい環境になると思っています。

  • 従来の形式では国内大会からMastersにたどり着くために、最短でも翌シーズンまでかかった

    従来の形式では国内大会からMastersにたどり着くために、最短でも翌シーズンまでかかった

―― 来シーズンもパートナーチーム制度が継続することで、チーム間の格差を懸念する声もあります。こうした点について、どのように考えられていますか?

藤田:パートナーチームには、さまざまなインセンティブや報酬が用意されているので、引き続き多くのメリットがあるのは事実です。

ただ、来年からの大きな変更点の1つは、オープンチームも競技で結果を残すことで、大きな金銭的サポートを受けられるようになることです。KickoffやCups、Masters、Championsといった国際大会に進出することで、Riot Gamesから金銭的なサポート(※)を受けられます。国際大会の出場に必要な、渡航に関する部分のサポートもあります。

私たちとしては、パートナーチームかどうかに関係なく、実力で国際大会への出場権を勝ち取ったチームが、その成果に見合った報酬やサポートを受けられる環境をつくっていきたいと考えています。

※KickoffまたはCupへの出場で10万ドル、Mastersへの出場で20万ドル、Championsへの出場で40万ドルが支援される。これらは出場権を獲得したオープンチームへの支援金で、大会戦績に応じた賞金とは別途支給される。

―― 極端に言えば、どんなに無名のチームであっても、新たな才能を集めて結果を出せば、世界を目指すのに十分なサポートが受けられると。

藤田:そうですね。まだスポンサーがついていないチームだとしても、チャンスをつかめるように、金銭面を含むハードルをできるだけ低くしたいと考えています。

一方で、インセンティブを受け取るパートナーチームには、それ相応の高い期待があります。パートナーチームは、Riot Gamesと一緒に、ファンの皆さんに楽しんでもらえる取り組みを行っていきます。そして、『VALORANT』eスポーツのエコシステムの成長に、積極的に貢献していただきます。

なおかつ、パートナーチームというポジションに、ふさわしいチームであり続けなければなりません。2年サイクルで再評価されますから、競技の面でもエコシステムへの貢献という面でも、継続して価値を示していく必要があります。

  • 来シーズンのパートナーチームは現在選考中であり、まだ発表されていない

    来シーズンのパートナーチームは現在選考中であり、まだ発表されていない

気になるオフライン、Cupsの東京開催も発表に

―― 今年はVCJオフラインの開催が年1回となり、機会が減っていました。来シーズンの国内オフラインについては、どうなっていくでしょうか?

藤田:来年のオフライン開催については、残念ながらまだ具体的なことがお伝えできません。オフラインの実施には、コスト面や会場の確保などさまざまな課題があります。

ただ、ファンの方々にとってもチームや選手にとっても、非常に大切な機会であると私たちも理解しており、どうすれば実現できるかを常に考えています。今後の計画については、お伝えできる段階になりましたら、改めてご案内します。

  • インタビュー実施後、8月のCups開催地に東京が選ばれていることが発表された

    インタビュー実施後、8月のCups開催地に東京が選ばれていることが発表された

―― それでは最後に、日本の『VALORANT』ファンに向けたメッセージをお願いします。

藤田:いつも『VALORANT』、そして『VALORANT』eスポーツを応援していただき、本当にありがとうございます。日本のコミュニティの熱量や応援の声は、国を越えてRiot Gamesの海外メンバーにも届いており、皆さんが思っている以上に注目されています。

皆さんの期待に応えられるように、これからも観て楽しい、ワクワクするeスポーツシーンをつくっていきたいと思っています。また日本で大きなイベントを開催して、皆さんの熱気を直接感じられることを、私たちも楽しみにしています。

―― 藤田さん、ありがとうございました!