• なぜ、シャドバの「新プロリーグ」は死んで、蘇ったのか ―― eスポーツジャーナリストが2年間の密着取材で綴る

こんにちは。eスポーツライターの小川です。

eスポーツビジネスは「挑戦」と「失敗」の連続です。

トライ&エラーをいかに早く回すかが重要な時代において、eスポーツ業界は他業界と比較しても、驚異的なスピードでPDCAサイクルを回している業界の一つといえるでしょう。

その最たる事例が、PC・スマホ向け対戦ゲーム『Shadowverse』(以下、シャドバ)のeスポーツプロジェクト、いわゆる「プロリーグ」です。

そんなプロリーグですが、実は一度、死んで蘇りました。

今回は、シャドバのプロリーグの崩壊から再始動までの、2年間を追いかけた筆者が「いかにしてシャドバのプロリーグが蘇ったのか」を綴ります。

文・取材=小川翔太

2年前、筆者はプロリーグに対する、1本の「辛辣」な記事を書きました。

・かつて話題を呼んだ「賞金1億円」のeスポーツ『シャドバ』の現在とこれから
https://news.mynavi.jp/article/20240703-2978056/

2018年のリーグ発足から2024年まで、約6年間続いたプロリーグの休止が発表されたタイミングで書いた記事です。個人的な要望も込めて、当時のプロリーグが抱えていた、いくつかの課題を挙げています。

あれから2年が経ち、満を持して再始動したプロリーグは、従来のeスポーツで見たことのない、異例の施策の数々によって、好調な船出となりました。

そもそも旧プロリーグが休止したのは、なぜなのか。

表向きの理由は、新規タイトルの『Shadowverse: Worlds Beyond (シャドウバース ワールズビヨンド))』(以下、シャドバWB)への移行期間が発生したことです。

ただ裏の理由としては、長年の運営により、視聴者層が固定化されはじめ、新規の視聴者の獲得が難しくなってきたこともあるでしょう。

新規タイトルへの移行は、プロリーグの「仕切り直し」を敢行するには最適なタイミングといえました。

(約1年の開発期間の延長を経たものの)無事、2025年6月にシャドバWBはリリースされ、ユーザ数、収益ともに好調なスタートを切ります。

同タイミングでプロリーグも再開しますが、最初こそは好調だったものの、タイトル自体の盛り上がりを上手く取り込むことはできませんでした。日を追うごとに同時接続数の低下という、厳しい現実と向き合うことになります。

ここで疑問なのが、再開後も含めて、シャドバの旧プロリーグが盛り上がり切らなかったのはなぜなのかということ。

一般的な言説として語られるのは「カードゲームは格闘ゲームと比べて、“画が地味”だから&視聴者に“凄さ”が伝わりづらいから」ですが、これについて筆者は同意しかねます。

主にeスポーツのプロリーグの成功事例として挙げられるのは、現在『ストリートファイターⅥ』で行われている「ストリートファイターリーグ」ですが、同リーグは、ゲーム会社主導で形成されたリーグではなく、ゲームセンター時代からのコミュニティが30年掛けて醸成した「文化」「様式」「演者」を引き継いだものです。

一方、シャドバのプロリーグは「文化」「様式」「演者」をどこからも引き継いでおらず、「0→1」で立ち上げた形です。

成り立ちが異なる2つのリーグを比較しておいて、ゲームタイトルの性質だけで「プロリーグの盛り上がり」を論ずるのは、やや本質ではないように思えます。

そもそも私たちはゲーム会社が「0→1」でプロリーグを立ち上げて、成功させたケースをまだ見たことがないのです。

少なくとも初期のシャドバプロリーグがベンチマークとして、ストリートファイターリーグを意識していたのは確かでしょう。

どのようなマイルストーンだったのか不明ですが、2018年のプロリーグ発足時に、当時のプロデューサー木村唯人氏はこう語っています。

「シャドバ自体が、10年は続けるという目標で作っています。プロリーグも10年続けます」

この発言から、長い目のプロジェクトだったことがわかります。

とはいえ、格闘ゲーム30年の文化とコミュニティを、たった10年でキャッチアップするのは無理があったのでしょう。

事実、シャドバのリリースから2年後に立ち上げたプロリーグの発足時にも、コミュニティからの反発の声が少なくありませんでした。

当然ですが、人は「ゲームが上手い」だけで、その人を「応援しよう」とはなりません。

シャドバのプロリーグにおいても、最終的に数名の選手には、熱狂的なファンダムが構築されていましたが、プロリーグ全体がコミュニティからの承認を得たものとはいえませんでした。

「今日からこの人たちがプロです。みんなで応援しましょう」

運営からそう言われても、そうそうに受け入れられるものではありません。

企業のプロジェクトとして、人工的にプロゲーマーを生み出したいのであれば、いかにして「応援したい」と思える人物を生み出すのかを要件として組み込むべきだったのです。

繰り返しになりますが、eスポーツの歴史全体を見渡しても、運営主導型で「文化」「選手」の醸成に成功した事例はまだありません。

いわば、シャドバの旧プロリーグの解体は「失敗」ではなく、前人未到の挑戦を経て、貴重なフィードバックを得たということでもあります。

話を戻しましょう。2026年、旧プロリーグの解体が発表されます。

所属チームや選手も完全に白紙、新リーグの発足に向けた、ゲーミングチームの一般公募がスタートしました。

結果として、国内のゲーミングチームとしては、最強クラスのメンツが揃うことになります。

同時に新リーグである「Shadowverse Premier Series 26-27」(以下、プレミアシリーズ)の情報が明らかになります。

国内を代表する8つのチームが優勝賞金1億円をかけて戦う。

ここまでは、特に目新しくありませんが、問題はここからです。選手の選考基準と選考方式について、前例のない、異例の内容が明らかになります。

選手の選考基準として、5つの要素(発信力、未来を担う自覚、人間性、実績・プレースキル、参戦チーム意向)が公表されました。

特筆すべきは「発信力」(SNSや配信、イベントなどを通じて、ファンやコミュニティと健全な関係を築ける力)と「人間性」(代表する選手として、模範となる行動ができること)が明記されたことです。

プロゲーマーの要件として、ゲームの技術以外が求められたこと自体は珍しいことではなく、日本eスポーツ協会(JeSU)が2018年に発表したプロゲーマーの定義には、ゲームの技術以外に「プロフェッショナルとしての自覚を持つ」「スポーツマンシップに則ってプレイする」「国内eスポーツの発展に寄与する」といった、定性的な要素への言及がありました。また「ストリートファイターリーグ」の規程(※)にも類似の記述があります。

ストリートファイターリーグ Pro-JP 2024 公式規程(2024年9月30日更新)の「13.禁止事項及び、ペナルティ」の項目において「13.1.18. 本リーグ、そしてストリートファイターのコミュニティーや CAPCOM に対して悪い印象を想起する、もしくは想起すると思われると、運営チームが判断したあらゆる行為。」と記載がある

ただ、プロゲーマーの公募時の選考基準として名言されたのは珍しいことです。

これは運営のCygames社が「今回のリーグが前回のものと別物である」ということを周知するための一手だったともいえます。

また、各チームが選手を選ぶタイミングは3回(「逆指名枠」「ドラフト枠」「オーディション枠」)。各チームは「オーディション枠」からも最低1名の選手を獲得するという選考方式が公開されました。

ここでeスポーツでは聞きなじみのない「オーディション」という単語。

筆者がこの単語から想起したのは「timelesz project(タイムレスプロジェクト)」や「Nizi Project(ニジ・プロジェクト)」のような、合宿などを経て、メンバーが選ばれる、オーディション番組でした。

まさかの世界初のeスポーツ版のリアリティーショーです。

二泊三日の合宿、その様子は密着番組「THE LAST DRAW」となり、ABEMAで放送されました。

関係者に聞いたところ、この企画立案に携わったメンバーは、世の中のリアリティーショーを大量に視聴して、徹底的に分析したとのこと。

合宿はゴールデンウィークの真っ最中、木更津市内から車で30分の「房総クロスヴィレッジ」(千葉県君津市)で行われました。

合宿に参加していた候補者たちの背景は、元プロ選手からコスプレイヤー、職業も医者から公務員、フリーターまで様々です。

まさに「すべてのシャドバプレイヤー」にチャンスを与えたオーディションでした。

常に候補者にカメラが密着するという、本格的な撮影体制です。

筆者も現地取材しましたが、候補者たちに求められたのはゲームの実力だけでなく、協調性や主体性など、プロゲーマーに限らず、社会人として求められる要素でした。

中でも「発信力」は特に重要視されており、ゲーム自体のプロモーションにも寄与できるかどうかが重点的にチェックされていた印象です。

合宿を終えて、オーディションを勝ち抜いた候補者たちは、最終ドラフトに進みます。

最終ドラフトは幕張メッセで開催された、シャドバ10周年を祝う大規模イベント「Shadowverse Fes 2026」の目玉コンテンツとして披露されました。

大勢の観客に見守られながら、全8チームの選手が初お披露目されました。

厳しい選考と合宿を勝ち抜いてきた候補者の中から未来のプロゲーマーが選ばれていく光景を、大勢のファンと共有する機会となりました。

そして、ついに開幕となった新プロリーグ。

記念すべき開幕戦は2026年7月11日(土)・12日(日)、会場は「TOKYO NODE」という、なんとも豪華な場所でオフライン開催されました。

1年間の休止となったプロ同士の戦い、当日の会場は開幕を待ち望んでいたファンで埋め尽くされました。

ここまで取材を続けてきた筆者ですが、2025年の再開後のプロリーグよりも、明らかな盛り上がりを肌で感じます。

これまでのシャドバのプロリーグでは、なかなか見る機会のなかった「口撃」や「プロレス」がバチバチで会場が湧き上がります。

各選手たちがこの1年間の間に、お互いの関係性や演者力を高めてきたのを感じました。

対戦後に実施された、ファンミーティング&交流会も大盛況。シャドバWBによる新たなプロシーンは最高のスタートを切ったといえるでしょう。

まだ取材は続きます。場所は大阪。

開幕戦から1週間後、インテックス大阪で開催された「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 2」(以下、RAGEシャドバ)の会場にきました。

新リーグの開幕戦が盛り上がったのは、いわば必然。オープン祝儀のようなものです。2025年に再開したリーグのように、尻すぼみになっていくことも考えられます。

(本当に余計なお世話かもしれませんが)

多くのシャドバファンが集まる、この会場で「新リーグは本当に盛り上がっているのか」を調べるために、聞き取り調査をしてみました。

「RAGEシャドバ」は賞金1億円の世界大会に繋がる、予選大会の位置付けになる大会であり、日本中のシャドバファンが集うイベントでもあります。

50名ほどにインタビューしたところ、プロリーグの認知度は100%、ほぼ全てのファンに「推しチーム」「推し選手」がいました。

ゲーミングチーム「Crazy Raccoon」「ZETA DIVISION」を箱で推しているケースもあれば「○○選手のプレイが昔から好きだから、所属している○○チームに勝ってほしい」というケースもありました。

2年前と比べると「応援する」の土台は強固になり、かつ応援する理由も具体的になっているように感じました。

興味深ったのは、従来からの知名度のある選手だけに注目が集まるのではなく「REJECT」Shadowverse部門、つきあかめん選手を始めとした、オーディンション合宿の選考からプロになった選手への応援の声が多かったことです。

ゲームの実力だけでなく、リアリティーショー番組での言動、最終ドラフトでのスピーチなど、人柄を知るためのタッチポイントが多かったことで、ファンが感情移入しやすくなったのかもしれません。

シャドバの新リーグである「プレミアシリーズ」は最高のスタートを切りました。

本稿では便宜上、プロリーグと記述しましたが、新リーグ「プレミアシリーズ」には「プロ」という文言が公式サイト含め、どこにも明記されていません。

関係者に理由を聞いたところ、従来のプロリーグとは異なるということを全面的に打ち出す意図があったようです。

世間的には、通称「プロリーグ」ですが、個人的には「プロフェッショナルな戦いを楽しむリーグ」でありながら、eスポーツ史上初の「選手がプロになっていく過程を楽しむリーグ」であると解釈しています。

(旧リーグのフィードバックを活かして)今回、Cyagamesが用意したのは、前回のような、ただ単に「プロが輝けるステージ」ではなく「ゲームを愛する者が挑戦でき、成長できるステージ」であるといえるでしょう。

現状、国内で盛り上がっているeスポーツの多くは、コミュニティ出身のスターたちが企業の枠組みで社会化していったものがほとんどです。

運営主導で継続的にスターを生み出した事例は多くありません。

「プレミアシリーズ」はスターの輩出とプレイヤーの社会化を同時に試みる、挑戦的な取り組みといえます。同リーグと所属選手たちは「選手たちの成功と失敗」「世間の応援と批判」のすべてを巻き込んで、大きくなっていくことでしょう。