英国ヨークシャー地方を舞台に、土地に秘められた伝承と家族の崩壊を描いた『スターヴ・エイカー 召喚』(2026年9月11日公開 配給:ミッドシップ)の撮影エピソードとメイキング写真が公開となった。
『スターヴ・エイカー 召喚』は、英国ヨークシャー地方を舞台に、土地に秘められた伝承と家族の崩壊を描いた民間伝承ホラー。監督・脚本はイギリス映画界の気鋭、ダニエル・ココタジロ。民間伝承ホラーの伝統を現代的な感性で再構築した本作は、BFIロンドン映画祭で最高賞を競う公式コンペティション部門に選出された。海外の有力誌から「見事なまでに不気味な空気感」(スクリーン・デイリー)、「稀有な感覚的精密さと、洗練された形式美」(バラエティ)、「知的な演技が、恐怖に命を吹き込む」(ガーディアン)など、も絶賛の声が届いている。そして『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』(2022〜)のマット・スミス、『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』(2022)『セイント・モード/狂信』(2019)のモーフィッド・クラークの2人が主演を務める。撮影前には4日ほどリハーサルを行い、特にマット・スミス演じるリチャードは考古学者という役柄のため、発掘技術のような具体的な動作を確認したり、考古学者に現場に来てもらって助言を受けるなど、実際に作業を行いながら人物像を作り上げていったという。
この度、撮影エピソードとメイキング写真が公開となった。
原作となったのは英国ランカシャー在住の作家・アンドリュー・マイケル・ハーリーが2019年に発表した中編小説。デビュー作"The Loney"は20言語で刊行され、コスタ賞最優秀新人小説賞、英国出版業界賞ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞、第2作"Devil’s Day"ではアンコール賞を受賞し、土地に根づく伝承、信仰、喪失、不穏な気配を緻密に描く作風で高く評価されている作家だ。監督のダニエル・ココタジロは1970年代のヨークシャーを舞台に変更。原作に感じた不安、英国北部の風景、野ウサギが象徴する愛と再生、そして映画のために形づくった“伝承”を織り交ぜて物語を構築していった。
「アンドリュー・マイケル・ハーリーのゴシック的な物語への親和性に惹かれました。ここで言うゴシックとは、自分がいったい何に足を踏み入れようとしているのか、はっきりとは分からないときに生まれる不安の感覚です。異質で奇妙なものを読んでいるときに覚える、あの居心地の悪さを、映画の中でも再現したいと思いました。また、彼がイングランド北部の風景に向けるまなざし、冷ややかな空気感、細部へのこだわりにも共鳴しました。"Starve Acre"にはそれらがすべて備わっていましたが、さらに茶色い野ウサギという、シンプルでありながら非常に強い象徴がありました。私は以前から、さまざまな文化や信仰の中で野ウサギが果たしてきた役割や、春、霊的な再生との結びつきに興味を持っていたのです」とココタジロは語っている。
本作において、ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』(1988)に影響を受けたというウサギの造形や動き、そして監督自身「英国の風景は、このジャンルにとって本質的なもの。郷愁を呼び起こす力とルーツにまつわる実存的な恐怖や不安に働きかけている」と語るロケーションなど、本編を通し常に"不安"が付きまとう本作。どうやらその不安は撮影現場でも猛威を振るっていたらしい。
監督にとって長編第2作目となった本作。現場ではさまざまな壁が立ち塞がった。厳しい気候にさらされる遠隔地でのロケーション撮影に、複数の動物、複雑なパペット、子役との撮影が加わり、さらに新型コロナウイルスの発生によって撮影が中断する事態にも見舞われたのだという。英国といえば曇天をイメージする人は多いが、本作もどんよりとした曇り空が映画全編のトーンに寄与している。しかしその裏では、自然の猛威に振り回される日々だった。天候は人間の意図どおりには動いてくれない。猛烈な風とみぞれのため、予定していたシーンを断念せざるを得ない日もあった。直前になってロケ地を失うこともあり、製作陣は限られた時間の中で撮影計画を組み直していったそうだ。悪天候やロケ地の変更によって撮影スケジュールが崩れるたびに脚本を大幅に書き直す作業を繰り返し、「精神力を試される経験だった」と語るココタジロ監督。
そしてもう一つの"不安"の象徴である"ウサギ"。本作の特殊効果における最大の課題のひとつが、物語の核心を担うウサギだった。限られた時間と予算の中、スタッフは複数のパペットと特殊効果を作り、画面の中で生きていると感じられる動きと質感を追求。説得力のあるパペットの演技を引き出すには、多くの時間が必要になるが、撮影スケジュールには余裕がなく、クルーは効率よくリハーサルを行い、必要なショットを得る方法を探り続けた。
とりわけ困難だったのが、家の小さな寝室での撮影だ。5人〜7人のパペット操演者に撮影クルーまでが室内へ入り、身動きの取れない状態で撮影を成立させなければならなかった。その人口密度たるや「ロンドン地下鉄セントラル線のラッシュアワーのようだった」そうで、監督曰く、集中を保つには「ある種の"禅"の姿勢が必要だった」とまで。混沌を極めた様子が窺える。さらに、特殊効果をショットの内部へ組み込み、高い水準で成立させることにも時間を要した。そうした試行錯誤の積み重ねが、骨に肉がまとい、やがて息づき始めるウサギの異様な現実感を支えている。
目の前の土地、天候、俳優、パペットがもたらす状況に応答しながら、細部と真実を掘り下げ続けること。予測不能な撮影の過程そのものが、地中に眠るものを掘り起こしていく本作の手触りへとつながっていった。
■ストーリー
英国ヨークシャー地方の人里離れた〈スターヴ・エイカー〉の地に移り住んだリチャード(マット・スミス)とジュリエット(モーフィッド・クラーク)。息子オーウェン(アーサー・ショー)が「何かの声」を 聞き始め、家族の日常は不穏に揺らぎ出す。やがて訪れる突然の悲劇。喪失に囚われた夫婦は、土地に眠る古い伝承へと引き 寄せられ、夫は古いオークの根を掘り起こし、妻は亡き子の魂との交信に救いを求める。だが、彼らが知らぬ間に家の中へ招き入れてしまった暗く邪悪な力は、「失われたものを取り戻せる」というおぞましい可能性を差し出す――。
■出演者
リチャード:マット・スミス
ジュリエット:モーフィッド・クラーク
オーウェン:アーサー・ショウ
ハリー:エリン・リチャーズ
スティーブン:ロバート・エムズ
ゴードン:ショーン・ギルダー
フォード夫人:メラニー・キルバーン
■スタッフ
監督・脚本:ダニエル・ココタジロ
製作:テッサ・ロス、ジュリエット・ハウエル、エマ・ダフィ
© House Starve Acre Limited, Acre Film LLC, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute 2023





