日立製作所は、「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN(HSIF2021 JAPAN)」を開催。初日に行われた基調講演では、日立製作所の東原敏昭執行役会長兼CEOが登壇。「社会インフラのDXが実現する未来―持続可能な社会と創造的消費者」をテーマに、社会が現在直面している「環境問題」と「テクノロジーにおける人間中心へのパラダイムシフト」に対して、日立の推進する社会インフラのDXがどう貢献しているのかについて語った。

日立製作所は、2021年10月11日~15日、日立グループ最大のイベントである「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN(HSIF2021 JAPAN)」を開催している。

23回目の開催となる今回は、昨年に引き続き、オンラインで開催。日立が描く未来やビジョン、日立の強みであるOT×IT×プロダクトによる社会イノベーション事業の成果、Lumadaなどのデジタル技術を活用したソリューションなどを通じて、経営課題や社会課題の解決に向けた具体的な取り組みを紹介する内容となった。

オンライン開催ならではの特徴を生かして、昨年以上にグローバルでの取り組みについての発信を強化。日立の経営トップによる基調講演や特別セッションのほか、世界の有識者たちと価値創造に向けた世界潮流や取り組みについて語るハイライトセッション、経営課題解決の糸口を見つけるビジネスセッションやエキスパートセッション、セミナーに加えて、日立の社会イノベーション事業を体感できるバーチャル展示などで構成している。

開催初日に行われた基調講演では、日立製作所の東原敏昭執行役会長兼CEOが登壇。「社会インフラのDXが実現する未来―持続可能な社会と創造的消費者」をテーマに、社会が現在直面している「環境問題」と「テクノロジーにおける人間中心へのパラダイムシフト」に対して、日立の推進する社会インフラのDXがどう貢献しているのかについて語った。  東原会長兼CEOは、「社会は2つの大きな変化に直面している。それは環境の変化と、テクノロジーの変化である」と切り出した。

  • 日立製作所 代表執行役 執行役会長兼CEO兼取締役 東原敏昭氏

環境の変化については、米生態学者のギャレット・ハーディン氏が、1968年にサイエンス誌に発表した「コモンズの悲劇」を例に説明した。

コモンズの悲劇は、ある男性が共有の牧草地で牛を放牧しはじめたところ、別の男性が儲かると思って多くの牛を放牧。さらに、それを見た多くの人たちも次々に放牧し、結果的に牧草地は荒廃してしまったという話だ。

「この牧草地の例えを、地球規模に拡大させたのが、地球温暖化や大気汚染、海洋汚染、生物多様性の喪失など、いまの環境問題である。コモンズの悲劇を阻止するために、世界中の叡智を結集しなければならない」と提言した。

一方で、テクノロジーの変化では、「テクノロジーにおける人間中心へのパラダイムシフト」が起きていると指摘した。

東原会長兼CEOは、高度成長期には、生産性の高い工場が、高性能、高品質の製品を作り、消費者に提供してきたが、2000年代後半からは、1社だけでは顧客ニーズを捉えることが難しく、パートナー企業との協創により、価値を創り出す時代がスタート。さらに、2020年以降は、提供する企業とパートナー、提供される消費者という明確なラインが意味を持たなくなっている時代が訪れているとし、価値の起点が、モノづくり企業から企業同士の協創に変わり、さらに、いまは人間へと変化。新たに「創造的消費者」が誕生していることを示した。

「YouTuberやインタスグラマーなどのSNSを楽しむ人たちは、自分の活動のために多くの投資を行っている。消費者でもあり、生産者でもあり、まさに創造的消費者といえる存在である。この創造的消費者の誕生こそが、テクノロジーにおける人間中心へのパラダイムシフトを意味するものである」とした。

  • 創造的消費者

そして、「日立グループに課された最大のミッションは、限りある環境のなかで、人間中心へのパラダイムシフトを実現することにある」と述べた。

講演のなかでは、2030年に想定される生活シーンをビデオで紹介。そのなかで、環境対策や生活のなかに、テクノロジーが浸透している世界を表現してみせた。

たとえば、モバイル環境で利用できるAIアシスタントが、待ち合わせ場所に移動する際に、時間に余裕があるため、CO2排出量がない徒歩での移動を提案したり、レストランでは、CO2排出量を意識したメニューを提示したり、個人の好みにあわせて、メニューにないものまでロボットが対応しながら調理。事故が発生して公共交通機関が止まった場合には、代替ルートを迅速に検索したり、途中まではEVタクシーで移動することを提案したりといったことを行う。

  • EVタクシー

東原会長兼CEOは、「あらゆるサプライチェーンのなかでCO2排出量が追跡され、用意されたものから選ぶのではなく、消費者が起点となって発注者になるような創造的消費スタイルが一般化するようになる。消費者が創造的消費者に変化する場面は、ネット上だけでなく、より広範にみられ、人間中心へのパラダイムシフトが、あらゆる人にとって、やさしい社会を実現する」とした。

なお、日立では、ブロックチェーンやスマートメーターなどを活用して、使用電力が100%再生可能エネルギーであることを証明するPowered by Renewable Energyと呼ぶシステムを運用していること、日本の企業として唯一、COP26のプリンシパルパートナーであること、2030年度に事業所や生産活動におけるカーボンニュートラルを目指すこと、2050年度にはバリューチェーン全体のカーボンニュートラルを目標に掲げていること、国連のRace to Zero Campaignに参加していることを紹介。

  • Powered by Renewable Energy

「これらのシテスムや技術が、大規模な社会インフラとして機能すれば、CO2削減に大きく貢献できる。気候変動に関しても、テクノロジーの力で課題解決を図るイノベーターになるという強い意思を示している」と述べた。

また、「いまは、デジタルデバイスを使いこなせないことが大きな格差につながっているが、人間中心へのパラダイムシフトによって実現する自然なやり取りで、情報にアクセスできれば、デジタルデバイドの問題も自然に解決していく。誰ひとり取り残さない社会をテクノロジーの力で実現していくことができる」とし、「2030年には、限られた環境のなかで、人がテクノロジーを意識することなく、ごく自然に使いこなしながら、生活し、より充実した人生を過ごしていることができる」と予測した。

人間中心へのパラダイムシフトは、創造的消費を支援するほかに、レジリエンスの実現と、健康の実現にもつながるという。

レジリエンスでは、人流、物流、金融の流れが止まった場合に、いち早く回復し、ダメージを最小限に抑えることである。たとえば、災害や事故が発生し、鉄道が停止した際に、迅速に運行を再開し、ダイヤを回復させなくてはならない。ここにテクノロジーが活用される。

東原会長兼CEOは、自らが入社以来、鉄道運行システムの開発に携わってきたことに触れながら、「日立は長年に渡り、トラブル発生後、ダイヤを正常に戻すための時間を短縮するシステムを開発、提供してきた。指令員が過去に行った運転整理をAIに学習させて、車両の未来の運行状況を予測し。ダイヤの乱れの回復を自動化するシステムの開発に取り組んでいる」と語り、オーストラリア・シドニーの路線データを活用した実証では、10秒程度で最適なダイヤ変更計画を立案した例を紹介した。

  • EVタクシー

もうひとつの健康の実現では、2030年には、病気で失った身体の機能や臓器を、細胞を使って取り戻す再生医療が一般化されることを想定。多くの人が適切な価格で再生医療を受けられるためには、高品質な細胞を、安定的に、大量に作る必要があると指摘し、現在、大日本住友製薬、京都大学とともに国家プロジェクトに参画して、iPS細胞の自動培養装置の実用化に向けた取り組みを進めていることを紹介した。

  • iPS細胞の自動培養装置の実用化に向けた取り組み

東原会長兼CEOは、このような未来の生活を実現するには、社会インフラのDXが欠かせないとし、日立がそこに貢献できる理由として、3つの要素をあげた。

ひとつめは、日立がOT、IT、プロダクトという広範な事業を1社で手掛けている世界的に珍しい企業である点、2つめにはLumadaにより、データをもとに価値を提供できること、そして、3つめに多くのパートナー企業との連携を行っている点だ。

とくにLumadaについては、2020年11月にLumada Alliance Programをローンチし、多くの企業が参加。2021年4月には、Lumada Innovation Hub Tokyoを開設し、この拠点を協創の場として活用。さらに、Lumadaのグローバル展開の決め手として、GlobalLogicを買収。世界14カ国2万人以上の社員を擁し、世界各地にデザインスタジオやエンジニアリングセンターを展開していることを示した。

「Lumadaは、さまざまなデータがつながることで、新たな価値を生み出すことができる。人間中心へのパラダイムシフトを着々と前進させることができる」と語った。

さらに、「これからの社会は企業と企業が協創し、消費者とも一体となって価値を創出していく時代である。そのためにはね価値を生み出すパートナーとの協力が必要である。グローバルに顧客のDXを支援するために、日立が持つ技術、ノウハウとの融合を図り、世界中の企業、政府、自治体、大学などが総力をあげて連携する必要がある。一緒に社会インフラのDXを実現し、限りある環境のなかで、誰ひとり取り残さない、人間中心の新しい世界を実現していきたい」と語った。