朝食でのタンパク質摂取は筋肉量の増加に効果的であることがマウスや高齢者を対象にした研究で分かった、と早稲田大学の研究グループが発表した。筋肉量の維持・増加は育ち盛りの子供や活動が低下しがちな高齢者に重要だが、タンパク質を多く含む充実した朝食が大切であることを伝える興味深い成果だ。

食事から摂取するタンパク質は、骨格筋の合成や筋肉量の維持・増加に重要であることは広く知られているが、摂取する時間帯が筋肉量増加に与える影響についてはよく分かっていなかった。

長崎大学医歯薬学総合研究科の青山晋也助教(研究当時は早稲田大学重点領域研究機構次席研究員)や、早稲田大学理工学術院の柴田重信教授、金鉉基講師らの研究グループは、タンパク質を摂取するタイミングと筋肉量の増加効果の関係を明らかにする研究を始めた。

青山さんらはまず、マウスに1日2回(「起床後に朝食、就寝前に夕食」)、2グラムずつえさを与える飼育を開始し、1日にえさに含まれるタンパク質の割合を決めた上で朝夕食に含まれるタンパク質量を変化させた。その結果、朝食に多くのタンパク質を摂取させたマウスは、夕食に多く摂取させたマウスや、朝夕食に同じ量を摂取させたマウスよりも筋肉量の増加率が有意に高かった。

次に、筋肉の合成を高める作用が強いアミノ酸として知られる「分岐鎖アミノ酸」に着目。筋肉量増加との関係を調べたところ、分岐鎖アミノ酸を添加したえさを朝食に与えた方が、夕食に与えるよりも筋肉量が増加しやすいことが分かった。分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸を添加した実験ではこの違いはなかったことから、朝食でのタンパク質摂取による筋肉量の増加には分岐鎖アミノ酸が大きな役割を担っていることが明らかになった。

分岐鎖アミノ酸は側鎖に分岐した構造を持つアミノ酸の総称。バリン、ロイシン、イソロイシンが知られる。バリンはクロマグロや牛・豚レバーなどに、ロイシンはカツオや鶏卵などに、イソロイシンはクロマグロや豚ロースの赤身、鶏卵などに多く含まれ、いずれも必須アミノ酸だ。

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    朝食と夕食のタンパク質の配分と筋肉量の増加の関係(早稲田大学提供)

研究グループはまた、朝食でのタンパク質摂取がなぜ筋肉量の増加に効果的なのかを明らかにするために体内時計(1周期約24時間の概日時計)に注目した。体内時計はさまざまな細胞に存在し、数十種類の「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子群により構成されるが、この時計遺伝子がタンパク質摂取のタイミングによる筋肉量増加効果の違いに関係していると推測。時計遺伝子Clockに変異の入ったマウスや、時計遺伝子Bmal1を筋肉で欠損したマウスをつくり実験した。

その結果、これらのマウスでは朝食にタンパク質を摂取させても筋肉量の増加効果は見られなかった。このため、朝食でのタンパク質摂取と筋肉量の増加効果には体内時計が関わっていることが確認できたという。

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    研究成果の概念図(早稲田大学提供)

これらのマウス実験の結果を受けて研究グループは、65歳以上の高齢女性60人を対象に、3食のタンパク質の摂取量と骨格筋機能との関係を2017年10月から2018年2月まで調査した。タンパク質量は筋肉量を維持・増加させるために必要とされる1日、体重1キロ当たり1.0~1.2グラムを目安にした。

その結果、夕食で多くのタンパク質を摂取している人と比べて、朝食で多くのタンパク質を摂取している人の方が、骨格筋肉量の指標である「骨格筋指数」(四肢の筋肉量のキログラム数を身長のメートル数の2乗で割った値)や握力が有意に高かった。

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    高齢女性を対象にした朝食、夕食時のタンパク摂取量と骨格筋機能や握力の関連性(早稲田大学提供)

研究グループは、人間でも朝のタンパク質摂取が筋肉量の維持・増加に有効である可能性があるとした上で、多くの国の食事調査では朝食のタンパク質摂取量は少なく、不足しがちであることから今後は朝食でも摂取しやすいタンパク質豊富なメニューなどの開発も望まれる、としている。

研究は国家研究プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「次世代農林水産業創造技術」などの支援を受けて行われ、研究成果は6日付の米科学誌「セル・リポーツ」電子版に掲載された。

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