産業技術総合研究所(産総研)は7月6日、超伝導量子ビットで構成される「量子アニーリングマシン」の開発と動作実証に成功したと発表した。

同成果は、産総研 新原理コンピューティング研究センターの川畑史郎総括研究主幹、同・デバイス技術研究部門らの共同研究チームによるもの。詳細は、2021年6月22~25日にオンライン開催された断熱量子計算国際会議「AQC2021」にて発表された。

大規模な「組合せ最適化問題」のような従来方式のコンピュータでは実用的な時間内に解を得ることが難しい問題を短時間で解決できる次世代コンピュータとして量子コンピュータの実現が期待されている。

中でも量子アニーリングマシンは組合せ最適化問題を扱うのに適しているとされ、2011年に加D-Wave Systemsが超伝導量子ビットとグラフ埋め込み技術を利用した量子アニーリングマシンを商用化したことで注目を集めるようになった。

しかし、グラフ埋め込み技術を用いる従来型の量子アニーリングマシンは、量子ビットのコピーを大量に用意することで、任意の遠隔量子ビット間の相互作用を実装するため、D-Waveの最新世代となる5000量子ビットの量子アニーリングマシンであっても、そこまで大規模な問題を扱うことができないという課題があったという。

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    (左)磁性体の性質を記述する数学モデルのイジング模型の模式図。上向きおよび下向きの2つの状態(青矢印)を取るスピン(赤丸)から構成され、スピン同市が相互作用する。(右)グラフ埋め込みにはいくつかの種類があり、画像はD-Wave Systemsが採用しているキメラグラフの模式図。量子ビット(長方形の超伝導リング)のコピーを用意することで、すべての量子ビット間の相互作用を実装している (出所:産総研Webサイト)

こうした量子アニーリング方式とは異なる超伝導集積回路の活用に向け、超伝導量子アニーリングマシンと超伝導量子コンピュータのハードウェハ設計・製造・評価基盤技術の確立を進めてきたのが産総研である。

今回の研究は横浜国立大学と連携する形で、実施されたもので、今回、産総研が提唱したのが、特定の最適化問題に特化した量子アニーリングマシンのアーキテクチャ(ASAC)で、このアーキテクチャに基づいて、古典論理回路に対応する組合せ最適化問題の一例として、古典2-bit乗算回路専用超伝導量子アニーリングマシン(6量子ビット)の設計と製造が行われたという。

10mKという極低温の評価システムにおいて実験を行ったところ、1万回の測定の結果、80%以上の正答率が得られることが確認されたという。この成果は、大規模な組合せ最適化問題の処理を可能とする実用的超伝導量子アニーリングマシン実現のための重要な基盤技術となるという。

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    (左)10mKの極低温環境を実現する極低温性能評価システム。(右)2-bit乗算回路専用量子アニーリングマシン(6量子ビット)の10mKにおける実験結果。2-bit乗算回路に対する64通りの解候補の中で、正解は16通りだけ。1万回の測定が行われた結果、正答率は80%以上だった (出所:産総研Webサイト)

ASACを利用することの利点は、必要最小限の量子ビット数で大規模な組合せ最適化問題を解くことが可能になる点で、それにより大規模化の際に障害となっていた冗長量子ビット数をグラフ埋め込み方式に比べて1桁程度抑えることができると研究チームでは説明する。また、ASACはさまざまな組合せ最適化問題にも適応可能で、具体例としては、新薬の開発における分子の安定構造の探索などがあげられるともしている。

なお、研究チームは今後、大規模な量子アニーリングマシンを製造し、極低温における動作実証を行い、ASAC方式の優位性の実証を目指すとしているほか、実用化のためには、正答率を向上させる必要があることから、ノイズ低減技術や高品質量子ビット製造技術の開発も進めていくとしている。