富士通研究所は10月13日、量子コンピューティングの実現に向け、デバイスレベルから制御システム、アーキテクチャ、アルゴリズムに至るすべての技術レイヤに対し、研究の進展を図ることを目的に理化学研究所(理研)、東京大学(東大)、大阪大学(阪大)、オランダDelft University of Technology(デルフト工科大学)の4つの研究機関と共同研究を開始したことを明らかにした。
次世代コンピューティングとして期待される量子コンピュータだが、IBMやD-Wave、Googleなどが推進する量子ゲート方式の場合、誤り耐性量子計算のためには100万ビット以上が必要とされるが、現在は60ビット超程度と、まだまだ目標に対してほぼ遠い状況である。
こうした量子コンピュータの性能向上のためには、量子ビット数の増加、量子ビット情報を保持可能な時間(コヒーレント時間)の向上、制御システムの改善などのハードウェアに関する課題のほか、短いコヒーレント時間でも計算可能なアルゴリズムを開発するなどソフトウェアに関する課題があり、それらを解決していく必要がある。
そこで富士通研究所ではオープンイノベーションによる研究推進を図ることで、こうした課題の解決を図っていくことを決定。量子コンピュータに関する技術で強みを有する国内外4つの研究機関と連携して共同で研究を進めていくこととしたという。
理研ならびに東大との共同研究内容は、超伝導量子ビット技術の第一人者である理研 創発物性科学研究センター 超伝導量子エレクトロニクス研究グループ グループディレクターで東大 先端科学技術研究センターの教授でもある中村泰信氏との協力し、量子デバイスから制御エレクトロニクス・ソフトウェアまでトータルに取り組み、古典コンピュータとうまく連携させたコンピュータシステムの実現を目指そうというものとなっている。
デルフト工科大との共同研究は、ダイヤモンド中のスピン状態を利用した量子ビット技術(ダイヤモンドスピン方式)の量子コンピュータの基礎研究・開発を進めていこうというもの。量子ビットの状態に光でアクセス可能なため、離れた量子ビット間の演算がほかの量子ビットからのクロストークの影響を受けずに行えるため大規模化に向いているほか、比較的高温でも量子状態を保てるといった特徴があり、デバイスや制御系の技術開発のほか、新たな結合トポロジーを使った新規エラー訂正手法の可能性についての検討を行っていくとしている。
阪大との共同研究は、量子計算の理論分野に強みを持つ大阪大学大学院基礎工学研究科の藤井啓祐教授と量子アルゴリズムの研究開発を行うとしている。アプリケーション用のアルゴリズムに加え、誤り耐性をもつ量子コンピューティングの実現に必要となるエラー訂正技術の研究に取り組むという。
すでに富士通研では、2020年4月より、Quantum Benchmarkとエラー緩和技術を組み入れた量子アルゴリズムの共同研究も進めており、これらを並行して進めていくことで、小規模な量子コンピュータ上での有用なアプリケーションの開発を目指すとしているほか、社会課題解決に向け、長期的な視点で研究を進め、将来的には誤り耐性量子コンピュータの実用化を目指したいとしており、「先の長い研究だが、世界をリードして社会課題の解決に貢献したい」とコメントしている。