富士通研究所は3月29日、製造ラインの検査工程で不良品と判断された製品の異常についての画像を教師データとして準備しなくても、人工的に異常を付加した製品の画像を生成しながらAIモデルを学習させることにより、キズや加工ミスといった外観の多種多様な異常を高精度に検出する画像検査AI技術を開発したことを発表した。

  • 開発技術の概要

    開発技術の概要

この技術では、検査対象の画像に異常がある場合に、AIが異常を取り除いた正常画像を復元し、検査対象の画像と復元した正常画像との差分を捉えることで異常箇所の検出を行う。学習用に用意した正常画像に多種多様な異常を人工的に付加した画像を生成しながら、異常を取り除いた正常画像を復元できるようにAIモデルを学習させる方法を開発。正常画像を復元する性能が高まったことで、異常を含んだ画像を教師データとして準備しなくても、異常箇所を高精度に検出できるということだ。

学習の際には、正常画像とAIが復元した画像とを比較して、大まかな形状や細部の構造、質感など各特徴の学習度を評価し、AIが捉えられていない特徴を優先して学習するように、付加する異常の大きさ、色、個数を制御する。例えば、AIが大まかな形状を正しく復元できていない場合に、正常な外観に影響しない小さな異常を少量発生させた異常画像を多く学習させるという。

また、細部や質感が少しだけ異なる場合には、細部が隠れるほどの大きい異常や目立つ模様を付加した異常画像を多く学習させるという。AIの復元状況を評価しながらAIが特徴を復元できない弱い部分を多く学習させることで、すべての特徴を捉えた正常画像を復元できるようになったということだ。

さらに、5000種類以上の人工物を撮影した画像のライブラリから、形、大きさ、色が様々な素材を生成し、異常の個数や付加する位置を確率的に変えて異常を付加する技術も新たに開発し、製造現場で発生する多種多様な異常箇所の検出が可能だという。

  • 従来技術との比較

    従来技術との比較

同技術により、たとえば毛並みや色味の異なるカーペットや配線の形状が部位によって異なるプリント基板のように、正常な外観であっても個体ごとに様々なバリエーションがある製品において、糸のほつれや配線パターンの不良といった異常箇所を正しく検出することが可能だという。

様々な工業製品の外観画像を集めた公開データを使ったベンチマークで、異常を検出するAIモデルの性能を測定する指標であるAUROCにおいて、世界最高レベルの98%を達成したとしている。この技術の有効性を電子関連機器の製造工場である富士通インターコネクトテクノロジーズ 長野工場の検査工程において検証したところ、プリント基板の検査工数を25%削減できる効果を確認したということだ。