コロナ禍で在宅需要が伸びた「プレミアムビール」市場

新型コロナウイルスで始まった2020年もそろそろ終わろうとしているが、2020年の飲食店は、コロナ禍に振り回され続けた。感染拡大に伴って、全国各地で休業要請や営業時間短縮要請が出されただけでなく、会食の需要も大幅に低下した。

飲食店に加えて、農産物生産者や飲食物メーカーもその影響を大きく受けたが、それはビール市場も同じだ。特に「プレミアムビール」と呼ばれる、国内大手メーカー各社が製造販売する、定番ビールよりも店頭での実勢価格が高い国産ビールの市場は2019年を下回る推移となった。

2005年から発行されてきた「サントリープレミアムビールレポート」は、プレミアムビールを月2-3回以上自宅で飲用する20-50代の男女1000人を対象に実施するインターネット調査だ。2020年7月に実施された調査結果では、およそ4分の3の回答者が「在宅時間が増えた」と回答しており、それに伴って半数以上が外食での飲酒機会が減ったとも答えている。

飲食店への卸販売を含めた全体のプレミアムビール市場にとって厳しい状況になった2020年だが、一方で新しい需要が伸びている一面もある。それが家庭での内食需要だ。先の回答にもあった通り、外出自粛に伴うリモートワークの増加、外出機会の激減といった背景から在宅時間が増えた。

外食機会も激減したわけだが、それに呼応するように注目されたのが「家飲み」だ。Zoomなどのビデオ通話システムを利用して在宅でありながら仲間と顔を合わせて楽しむリモート飲み会が流行するなど、これまでとは違った形での飲酒需要が高まった。

  • 在宅勤務・テレワークの機会、または自宅で過ごす時間が増えた人の外でお酒を飲む機会(n=781) 資料:サントリープレミアムビールレポート

その傾向は「サントリープレミアムビールレポート」の回答にも現れており、約50%が前年よりも自宅でプレミアムビールを楽しむようになったと回答している。

外食から内食へ、店内飲食からデリバリーや持ち帰りへといった動きは飲食業界全体で見られたものだが、プレミアムビール市場でも顕著な動きが見える結果となった。

「家飲みを充実させたい」というニーズと酒税改正が後押し

そうした動きを受けて好調なのが、サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドだ。缶ビールとしての2020年10月単月販売数量は、前年同月比で19%増と躍進。特に「ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール」は同32%増という大きな伸びを見せた。

なぜそれほどの人気を得たのか、背景は「サントリープレミアムビールレポート」から読み取ることができる。在宅での飲酒機会が増えたというだけでなく、プレミアムビールを選ぶ機会が増えた理由は大きく2つありそうだ。

1つ目は、在宅時間が増えたことで「家飲み」を充実させたいという意欲が高まったからだ。プレミアムビール選択機会が増えた理由の上位2つが「自分へのご褒美だから(47.5%)」「家飲みを充実させたいから(41.7%)」という結果から見えるのは、外食できない中でも充実感を得るためのアイテムとして、プレミアムビールが選択されている様子だ。

  • 自宅でのプレミアムビールの飲用回数が増えた人の

自宅でのプレミアムビールの飲用回数が増えた理由(n=568) 資料:サントリープレミアムビールレポート|

2つ目は、2020年10月に実施された酒税改正により相対的にビールが購入しやすくなったことだ。「サントリープレミアムビールレポート」は酒税改正前の調査だが、改正を踏まえて購入意識の変化があるかどうかという問いへの回答では、発泡酒よりもビール、一般ビールよりもプレミアムビールの方が「増やしたい」「やや増やしたい」というものが多く、プレミアムビールでは回答2種の合計が47.3%にも上っている。

高まる「メリハリ消費」意識と「いいもの志向」

もう1つ、見逃せないのが消費傾向全体に見られる「メリハリ消費」意識の高まりだ。これは2019年10月に実施された消費税増税を受けた消費意識に関する問いで見られたもので、「買うものによってお金をかけるかかけないか考えるようになった」「ちゃんと値段に見合うものを選ぶようになった」という回答がいずれも3割を超え、消費にあたっての価値判断が改めて行われた様子が見える。

増税前後には駆け込み需要や買い控えが全分野で見られたが、それは一時的なものだ。増税後の新たな視点として、何にお金をかけるべきなのかを冷静に見定める人が増えた結果、価値ある存在として選ばれたのがプレミアムビールというわけだ。

実際、調査の中でも「家飲み」用の購買選択において「家でもいいものを選ぶようになった」という回答が7割近くに上っている。家でのプレミアムビール飲用機会は平日、休日、休前日のすべてで増えている傾向だが、特に休前日については43.8%が増えたと回答しており、これは調査開始以来、最高の数字だ。

  • 1年前と比較した平日・休前日・休日のプレミアムビールの飲用回数(n=1000) 資料:サントリープレミアムビールレポート

従来のお金を掛けた外食と手軽に済ませる日常の飲食という関係が崩れ、家でも「いいもの」を楽しみたいという需要が高まってきているようた。ビールにおいては「休前日は自分へのご褒美に、価値あるおいしいものを」選びたいという気運が高まったことでプレミアムビール人気が高まっていることがわかる。これを受けての「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドの大躍進というわけだ。

一旦高まった「メリハリ消費」の意識や「いいもの志向」は、今後も継続することが予想される。「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドをはじめ、プレミアムビール市場は今後も成長が期待できそうだ。