アメリカ国立電波天文台(NRAO)は7月30日、アルマ望遠鏡による観測と理論研究をもとに、1987年に大マゼラン雲内で発見された超新星「1987A」において中性子星が作られた可能性が見出されたことを発表した。

同成果は、英カーディフ大学のフィル・シーガン氏と松浦美香子氏らの研究チームによるもの。詳細は、「The Astrophysical Journal」に2編の論文として掲載された(論文12)。

1987Aといえば、小柴昌俊氏が自らが設計した観測装置カミオカンデでニュートリノを観測し、ノーベル物理学賞を2002年に受賞するきっかけとなった、特に日本人にとってはなじみ深い超新星として知られている。この超新星由来のニュートリノを観測できたということは、あるひとつの事実が導かれる。超新星爆発後に誕生する天体は、ブラックホールか中性子星のどちらかだが、ニュートリノが観測されたことにより、1987Aの超新星爆発残骸の中心には中性子星が誕生したものと考えられているのである。もし中性子星が確認されれば、2020年現在で33歳という、観測史上もっとも若い中性子星となる。そのため、現在は1987Aの爆発残骸から中性子星を探し出す観測が熱を帯びている状況だ。

1987Aの爆発残骸の観測で2010年代に進展があったのは、2014年のこと。アルマ望遠鏡による観測で、爆発残骸中に塵が存在することが明らかになったのである(NRAO/バージニア大学のレミー・インデベトー氏らによるもの)。そこで今回、シーガン氏と松浦氏らもアルマ望遠鏡を駆使して、この塵を観測。アルマ望遠鏡は2014年当時よりも観測性能やデータ処理速度などが向上しており、より高い解像度での観測が実施された。

その結果、1987Aの爆発残骸の中心近くに、周囲よりも高温の塵がかたまって存在していることが判明。その位置は、中性子星が存在するものと想定されている場所と一致していた。塵がかたまって電波を出しているということは、その中に熱源(中性子星)が隠れていることが考えられるという。

その一方で、観測結果に対する疑問点もあった。中性子星にしては明る過ぎる可能性があったのである。そんなときに発表されたのが、メキシコ国立自治大学の天体物理学者ダニー・ペイジ氏による論文で、非常に若い中性子星であれば、この明るさになり得るという、今回の観測結果を支持する内容だった。

なお、1987Aの超新星爆発のシミュレーションでは、誕生した中性子星が超新星爆発の衝撃で秒速数百kmもの高速度で弾き出されてしまうことが予測されている。今回発見された塵のかたまりは、周囲に広がる衝撃波のリングの中心よりもわずかにずれた位置にある。爆発から30年以上の時間が経ち、中性子星が高速で移動したという予測と一致するという。また爆発から間もない時期の中性子星は、温度が500万度と予測され、観測で推測される塵の温度を説明するのに十分としている。また今回の中性子星は直径25kmほどで、その重さはティースプーン1杯分で、ニューヨークのすべてのビルを合わせたほどになるとした。

塵やガスが晴れて中性子星の直接観測が行えるようになるまでは、まだ数十年はかかると見積もられている。

  • ALMA

    アルマ望遠鏡で観測された、1987Aの超新星爆発残骸。リングは衝撃波が星間物質と衝突して生じたもので、左は中心部の周囲より高温の塵のかたまりの拡大画像。画像は、赤がアルマ望遠鏡の、緑がハッブル宇宙望遠鏡の、青がチャンドラX線望遠鏡の3種類の観測結果を合成して作られた画像 (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), P. Cigan and R. Indebetouw; NRAO/AUI/NSF, B. Saxton; NASA/ESA