2020年5月12日、中国が5日に打ち上げた大型ロケット「長征五号B」の1段目機体が、大西洋上空で大気圏に再突入した。その直後、西アフリカのコートジボワールで上空から金属の部品が落下。燃え切らなかったロケットの破片と考えられている。

この1段目機体は、制御不能な再突入を行った物体としては過去約30年で最大の大きさだった。中国は今後、数回の長征五号Bの打ち上げを計画しており、同様の事態がふたたび起こる危険性もある。

  • 長征五号B

    5月5日に打ち上げられた長征五号Bロケット。12日、この1段目機体(コア・ステージ)が大気圏に再突入した (C) CNSA

危険な再突入

長征五号Bは中国が開発した大型ロケットで、宇宙ステーションのモジュールのような大質量のペイロードを地球低軌道に打ち上げることを目的としている。今年5月5日に初の打ち上げに成功し、新型の有人宇宙船の試験機などを軌道に投入した。

参考:中国、新型有人宇宙船の試験飛行に成功 - 有人月探査へ向けた新たな一歩

長征五号Bは1段目(コア・ステージ)と液体ブースターからなるロケットで、その運用の特性上、巨大な1段目がそのまま軌道に乗ってしまう。この1段目は、長さ約30m、直径5mで、質量は約21.6tの大きさをもつ。その大部分は空になった推進剤タンクが占めるものの、エンジンなど燃えにくい部品も含まれており、そもそも機体が大きいこともあって、再突入時の熱や衝撃で完全には分解されず、燃え残った破片が地上に落下する危険性があった。

米国宇宙軍によると、長征五号Bの1段目機体は、日本時間5月12日0時33分(協定世界時11日15時33分)、アフリカ西海岸沖の大西洋上で大気圏に再突入した。

当初、機体の大部分は燃え尽き、また燃え残った破片も大西洋に落下したとみられていた。しかしその後、コートジボワールの現地紙が、「上空から長さ約10mの棒状の金属片が降ってきて、いくつかの村に落下し、家屋などに被害が出た。死傷者は出なかった」と報道した。

この落下した金属片が、長征五号Bの破片であるかどうかはわかっていない。しかし、再突入したと考えられる時刻の直後に起きたこと、現地で光のフラッシュ(おそらく再突入時の閃光)などが確認されていたこと、またコートジボワールはちょうど飛行経路の下にあったことなどから、その可能性は高いとみられる。

なお、この数十分前にはロサンゼルスやニューヨークの上空を通過しており、万が一大気圏再突入のタイミングが早ければ、こうした大都市に破片が落下した可能性もあったと考えられる。また、機体が投入された軌道の軌道傾斜角(赤道からの傾き)は41.1度であったことから、北緯41.1度から南緯41.1度の間の地域すべてに落下する可能性もあった。

この件に関して、中国の宇宙機関、企業などは声明を出していない。

史上5番目に大きな、宇宙からの無制御での落下物

ハーバード ・ スミソニアン天体物理学センターの天文学者ジョナサン・マクダウェル氏によると、制御できない物体が大気圏に再突入した例としては、米国の宇宙ステーション「スカイラブ」(1979年に再突入)、スカイラブを打ち上げたロケット機体(1975年)、そしてソ連の宇宙ステーション「サリュート7」(1991年) に次ぐ、史上4番目の大きさであったという。

なお、途中まで制御した再突入だったものの、事故により結果的に無制御で落下したスペース・シャトル「コロンビア」(2003年)を含めると、5番目となる。

使用済みのロケットや衛星などが宇宙から落下することは珍しくはないが、その大半は大きくても数t程度であり、基本的には再突入時に燃え尽き、また仮に燃え残った破片があったとしても、地球の大半は海であるため、陸地、それも人家のある場所に落下する可能性は小さい。

比較的大きなロケット機体や衛星の場合は、エンジンを噴射するなどして落下位置を調整し、太平洋などに狙って落下させる「制御落下」を行い、人家などに被害が出ないようにしている。

ただ、長征五号Bの1段目は、2段目を積んだ標準形態の場合は軌道に乗らず落下することもあり、そのような装備はなかったものとみられる。世界のロケットでも、1段目機体に制御落下のための装備を搭載することは基本的にはない。

また、再突入の時刻や、その落下範囲の予測はきわめて難しく、レーダーや望遠鏡で軌道上の物体を監視・追跡している米軍や、当の中国でも、正確に予測することはできない。そのため、基本的には再突入後にその正確な時刻や場所が初めて判明することから、事前に落下地点を導き出すなどして警告を出すことは現実的ではない。

宇宙からの物体の落下をめぐっては「宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約」、通称「宇宙損害責任条約」において、宇宙から落下した物体が損害を与えた場合、その物体を打ち上げた国が責任を負い、賠償を行うことが定められている。これは、1972年にソ連の衛星がカナダに墜落した事件を受け、国連が定めた条約である。

ただ、中国は1988年にこの条約に加盟したが、コートジボワールは加盟していない。そのため、今回落下した破片が長征五号Bのものだったとしても、中国が賠償金を支払うことになるかどうかは不明である。

なお、中国は2021年から、宇宙ステーション「天宮」を建造するため、長征五号Bを使ってモジュールを次々と打ち上げることを計画しており、そのたびに今回のような危険性が発生することになる。

  • 長征五号B

    中国が2021年から建造を予定している宇宙ステーション「天宮」の想像図。このモジュールの打ち上げにも長征五号Bロケットが使われる (C) CNSA

参考文献

https://www.afriksoir.net/cote-divoire-la-gendarmerie-debute-une-enquete-sur-lobjet-metallique-mysterieux-tombe-du-ciel-a-mahounou/
18 SPCSさん (@18SPCS) / Twitter
2-2-2-2 宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約(第26会期国際連合総会決議2277+C138号、1971年11月29日採択、1972年9月1日発効)
Jonathan McDowellさん (@planet4589) / Twitter

鳥嶋真也(とりしましんや)

著者プロフィール

宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。

宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info