三菱商事と日本電信電話(以下「NTT」)は、産業界の物流コスト削減に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)で業務提携に合意したと発表した。

  • 三菱商事 代表取締役社長 垣内威彦氏(左)と日本電信電話(NTT) 代表取締役社長 澤田純氏(右)

まず、三菱商事グループ1500社のバリューチェーンのDXを行い、その一部を共通基盤として外販していくという。三菱商事 代表取締役社長 垣内威彦氏は、共通基盤を利用することで、産業全体の物流コスト約50兆円のうち、数%を削減できると語った。

三菱商事は、中期経営戦略2021で、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を中心に、急激に進むDXの動きに対応し、新たなビジネスモデル構築の可能性を検討しており、特に事業ポートフォリオの最適化に向け、サービス領域(通信・データ資源、物流・リース、Eコマース、インターネットサービス等)、及び川下領域(生活、モビリティ・インフラ、エネルギー分野)を対象に、DXの取組みの強化を図ってきた。

三菱商事 代表取締役社長 垣内威彦氏

記者会見において両社が提携した背景を垣内氏は、「現在、デジタル化による産業構造の変化に巨額の投資が行われており、そんなに景気は悪くない。DXは弊社にとっても重要だ。一方で、日本での業務プロセス改革は進んでおらず、デジタル化による効率化は前進していない。そこで、1500社のグループ内のデジタル化を真剣に検討してきたが、その中で物流や情報の共有化の話が出てきた。それを実現していくためには技術が必要になるが、われわれは技術の会社ではないので、どこかにいい会社があればと思っていた。そんなときに(NTTの)沢田社長からお声掛けいただいた。三菱商事はめぼしい産業にはほとんど参入しており、産業知見がある。そのため、その産業がデジタル化すれば、どういったことになるかという構想力がある。三菱商事の強みは全社業に関する能力があることだ。この部分をNTTさんに大いに評価いただいた」と説明した。

NTT 代表取締役社長 澤田純氏

一方のNTT 澤田社長は今回の提携の意義について、「三菱商事さんは、材料の部分から小売の分野まで、非常に幅広くやられている。DXでは、それらをつなげることで、新たな価値が生まれる。NTTではこの部分はB to B to X(Everything)モデルとしてやっているが、三菱商事さんは、真ん中のBだ。NTTはそれをICTの能力でサポートしていくが、その基盤を産業界の共通のプラットフォームとして、海外も含めて展開していく。そのときは三菱商事は左のBになる」と語った。

  • NTTが実践するB to B to X

また、共通基盤の外販について垣内氏は、「産業界の基盤には、競争領域と需要予測、MaaS、デジタルツイン、受発注、決済、メンテナンス、位置情報などの協調領域がある。本来これらは競争領域ではないにもかかわらず、各社は競争領域として自ら構築することに迫られている。これらを共通プラットフォームとして提供していくことは、誰かがやるべき仕事だ。NTTと共同でそれを作っていく」と述べた。

  • 目指す姿

当面は食品流通、産業素材流通に注力するが、そこでの共通機能としては、商品情報の共有化需要予測による在庫の最適化業務プロセス効率化、物流の最適化があるという。

  • DXの対象産業

共通プラットフォームを提供するメリットについて垣内氏は、「食品流通では約4兆円、産業素材流通で約2兆円のコストがかかっており、このうち10-20%削減できれば、非常に大きなコスト削減になる。さらに、これらにPOS情報を組み合わせて分析し、需給予測ができれば、食品ロスや在庫が大きく削減できる。さらに、各社がバラバラに配送している非効率な配送を、トラックや倉庫を見える化して最適化することで、コストが削減できる。これらが実現できれば大きな社会貢献になる」と説明した。

また、両社は50%ずつを出資し合弁会社を設立し、その会社を通して、カーナビゲーションや自動運転車向けの位置情報システムや高精度地図を提供する「HERE」に対して30%出資する。

この理由を澤田氏は、「小売の段階でのいろいろなデータの重ねあわせで、どういう要求があるかをマーケティングしていかなければならない。同時に人や車の位置情報も必要になる。そのため、HEREという会社にNTTと三菱商事が出資して経営参画し、位置情報を起点としたDXを考えていく。たとえば、ナビなどの運転支援、輸送・交通マネジメント支援、小売のターゲティングマーティング支援で利用できる」と語った。

両社はこれらの取り組みにより、数千億円規模の事業を創造していくという。