欧州宇宙機関(ESA)は2019年12月9日、2025年にスペース・デブリを除去する衛星「クリアスペース1」を打ち上げると発表した。

衛星の開発や、デブリ除去などの運用は、民間のスタートアップ企業「クリアスペース」が実施する。

2000年代に広く認知されたデブリ問題は、2010年代を通じた研究・開発を経て、いよいよ2020年代、実際にデブリを除去し、根本的な解決を図る段階に入ろうとしている。その期待と課題を追った。

  • クリアスペース1

    デブリを除去する衛星「クリアスペース1」が、デブリを捕まえた瞬間の想像図 (C) ESA

スペース・デブリとは?

運用を終えたり故障したりした人工衛星、衛星を打ち上げたロケットの残骸、またそれらが爆発したり衝突したりして発生した破片など、「スペース・デブリ(宇宙ゴミ)」は、いわば宇宙の環境問題として、かねてより世界中で大きな問題となっている。

デブリは現在、地上から観測できる10cm以上の物体が約2万個、また観測はできないものの、理論的に推定されている数字として、1cm以上のものが50~70万個、さらに1mm以上のものは1億個を超える数が存在するとされる。

そして、こうしたデブリは、運用中の衛星に衝突して破壊することもある。運用中の衛星も、こうしたデブリも、低軌道では秒速約8kmで地球を回っているため、もし衝突すると、そのときの相対速度は秒速10~15kmにもなり、たとえ小さなデブリでも衛星を破壊するほどのエネルギーとなる。

実際に、2009年には米国の通信衛星イリジウムと、運用を終えたロシアの軍事用通信衛星が衝突するなど、デブリが衝突した事例はわかっているだけで3件、その疑いがあるものも含めると6件確認されている。

また、大きな衛星やデブリが衝突したり、そしてデブリ同士が衝突することでも、そこから新たに大量のデブリが発生し、それがさらに他の衛星などに対する脅威にもなる危険もある。そしてデブリ同士の衝突によって発生した破片が、次の衝突を引き起こし、さらにまた次に……と、衝突が連鎖的に起きる「ケスラー・シンドローム」と呼ばれる事態も懸念されている。

さらに近年、小型衛星を数十機から最大数万機も打ち上げ、いわゆる「メガ・コンステレーション」によって地球観測や通信サービスを展開しようという動きが活発になっている。衛星の数が増えれば、その分デブリが衝突したり、衛星がデブリ化したりする確率も上がるため、デブリ問題はこれまで以上に問題となりつつある。

こうした状況から、世界各国ではさまざまな対策が取られて始めている。たとえば、デブリを発生させないようなロケットや衛星を開発したり、衛星の運用終了時には積極的に軌道から離脱するようにしたりといったことをはじめ、デブリの軌道を追跡し、運用中の衛星に衝突しそうなら回避したり、さらに小さなデブリの衝突に耐えられるバンパー(衝撃吸収装置)を装備したりといった動きもある。

そして近年、デブリの発生源となりうる大きなデブリについては、衛星などを使って回収し、地球の大気圏に落として焼却処分しようという動きも出始めている。小さなデブリは回収が難しく、自然に大気圏に再突入するなどして消滅するのを待つしか、事実上手立てがない。しかし、大きなデブリであれば回収することができるうえに、大きなデブリは大量のデブリの発生源にもなりうるため、積極的な除去が求められている。

現在の研究では、混雑した軌道にある大型のデブリを、年間5~10個程度除去すれば、デブリの総数を現状レベルに維持できると予測されている。

  • クリアスペース1

    地球周辺にあるデブリの概念図。地球の大きさとデブリの大きさの比率などは誇張してあるため、実際にはこれほど密集した状態ではないことに注意 (C) ESA

デブリ除去を目指すスタートアップ企業「クリアスペース」の挑戦

こうしたなか、欧州宇宙機関(ESA)は、デブリ除去ミッション「クリアスペース1(ClearSpace-1)」を実施することを決定した。

ESAの計画ではあるものの、実際の開発や運用などは、民間のスタートアップ企業「クリアスペース(ClearSpace)」が、ESAとの契約に基づき、商業サービスとして実施する。同社はスイスに拠点を置く、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のデブリ研究者らが立ち上げたスピンオフ企業である。

ESAはかねてより、米国航空宇宙局(NASA)と共同で、「ADRIOS(Active Debris Removal / In-Orbit Servicing)」と呼ばれる、デブリに安全に接近したり、捕獲したりするための技術開発を行っており、その成果が移転されるという。

デブリを除去する衛星はクリアスペース1チェイサーと呼ばれ、先端に4本のロボットアームをもち、デブリに接近し捕獲。そして、デブリを抱えた状態で軌道から離脱し、大気圏に再突入することで、自らとともに処分する。

  • クリアスペース1

    クリアスペース1の想像図 (C) ClearSpace

同社の創業者でCEOのLuc Piguet氏は、「メガ・コンステレーションなどの登場で、今後数年で衛星の数は桁違いに増加します。今後、交通量の多い軌道から故障した衛星を除去する『レッカー車』のような衛星が必要であることは明らかです」と語る。

初打ち上げは2025年の予定で、回収のターゲットとなるデブリには、2013年に打ち上げられた欧州の小型ロケット「ヴェガ(Vega)」から発生した、ヴェスパ(Vespa)と呼ばれる衛星アダプターが選ばれている。ヴェスパは質量100kgと小型の物体ではあるものの、形状が単純で構造も頑丈であり、捕まえやすいことが選んだ理由だという。

ヴェスパは現在、高度約800km×660kmの軌道を回っており、チェイサーはまず高度500km未満の低い軌道に打ち上げられたのち、徐々に接近して捕まえる。

また将来的には、より大型で、捕まえるのが難しいデブリの除去にも挑みたいとしている。

  • クリアスペース1

    2025年に打ち上げ予定のクリアスペース1は、2013年に打ち上げられたヴェガ・ロケットの衛星アダプター「ヴェスパ」(衛星の下にある円錐形の構造物)を捕まえる (C) ESA