日本の動き

デブリの除去をめぐっては、欧州と並んで日本も力を入れている。

なかでも「アストロスケール(Astroscale)」は、スペース・デブリの除去を商業サービスとして展開することを目指しており、すでにこれまでに166億円を超える資金調達に成功している。

2017年12月には、デブリを観測するための衛星「IDEA OSG-1」をロシアのロケットで打ち上げたが、ロケット側の問題で打ち上げは失敗に終わった。

しかし同社はそれを乗り越え、2020年には「ELSA-d (エルサ・ディー)」と名付けた、デブリ除去技術の実証衛星の打ち上げを計画している。ELSA-dは、実際にデブリを捕まえるわけではなく、捕獲機(質量約180kg)と、デブリを模擬した衛星(約20kg)を結合した状態で低軌道へ打ち上げ、捕獲機に装備した磁石を用いて、衛星の捕獲と放出を繰り返す。研究・開発には宇宙航空研究開発機構(JAXA)も協力している。

これにより、デブリへの接近や診断、そして捕獲と、捕獲後の軌道変更に至る、デブリの除去に必要な一連の流れを試験し、その成果を受けて、将来的には実際にデブリを除去する衛星を打ち上げたいとしている。

  • ELSA-d

    アストロスケールが2020年に打ち上げ予定のデブリ除去技術の実証衛星「ELSA-d」の想像図 (C) Astroscale

また、先ごろ人工流れ星を作り出す衛星2号機の打ち上げに成功した「ALE」は、JAXAと共同で、導電性テザー(EDT:Electro-Dynamic Tether)を用いたデブリ除去技術を開発している。

EDTは、ひも(テザー)を伸ばしてそこに電流を流し、地磁場との干渉により生じる電磁気力をブレーキ力として利用し、デブリの軌道を下げ、最終的に大気圏に落とすというもの、燃料が不要という大きな特徴をもち、今後打ち上げられる人工衛星やロケットの上段などEDTをあらかじめ搭載しておけば、比較的簡単にデブリ化を抑制できる。

ALEでは2021年の軌道上実証を目指している。

このほか川崎重工などいくつかの企業でも、デブリ除去衛星や、そのための部品の開発などに挑んでいる。

こうした流れに応じて、JAXAでは、デブリ除去を宇宙ビジネスとして振興することを目指し、民間事業者が新たな市場を獲得することを目的として、大型デブリの除去などの技術実証「商業デブリ除去実証(CRD2、Commercial Removal of Debris Demonstration)」を実施することを検討している。すでに提案要請(RFP)が行われており、2019年12月中にも選定、契約相手が発表される予定となっている。

JAXAでは、比較的実証が容易かつ、大量のデブリの発生源ともなりうる、ロケット上段デブリの除去を念頭に置いており、軌道上にある日本が打ち上げたロケット上段などを対象として除去することを検討している。

  • KITE

    JAXAが2017年に行った、「こうのとり」6号機を使った「HTV搭載導電性テザー実証実験(KITE)」の想像図。不具合が発生し、完全な成功とはいかなかったものの、一部の技術要素については実証できたとし、そしてビジネスへ活かされようとしている (C) JAXA

また、スペース・デブリの軌道などを正確に把握するための動きも始まっている。

スペース・デブリを含む、軌道上にある物体をデータベース化し、監視するとともに、軌道を解析し、衛星と接近する危険があるときは警報を出すなどの活動を「宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness)」と呼ぶ。JAXAではかねてよりSSAに取り組んでおり、JAXAの衛星への接近解析、大気圏に再突入する物体の予測などの研究を行ってきている。また現在は、レーダーや望遠鏡などの能力向上や改良なども行っている。

さらに現在、SSAは安全保障にも結びつくことから、防衛省・自衛隊も力を入れ始めているほか、きわめて高いSSA能力をもつ米国との協力・連携もより強化されることとなっている。またこれを受け、2020年代には、JAXAやSSA関連施設と、防衛省をはじめとした関係政府機関などが一体となった運用体制を構築することとなっている。

これによってデブリの軌道などをより正確に把握できるようになれば、デブリとの衝突回避や、より効率的な除去などに大いに役立つであろう。

デブリ除去のビジネス化の課題と展望

昨今、大きな問題となっている気候変動をめぐっては、温室効果ガス排出量の低減などのカーボン・ニュートラルな活動を、成長戦略やビジネス・チャンスと捉える向きが出始めている。

そして宇宙の環境問題であるスペース・デブリ問題も、こうして国の機関と民間企業を挙げて、ビジネスとして成立させ、そして解決しようという動きが出始めた。この芽がうまく育てば、デブリ問題の大きな解決策となるばかりか、新たな市場を生み出すことになり、そして市場が確立されれば、効率的かつ持続可能な形でのデブリ除去が進むことが期待できるなど、大きな可能性がある。

ただ、デブリ除去に非協力的な機関や企業が打ち上げた衛星やロケットに由来するデブリをどうするかなど、誰がどこに、どこまで責任をもつのか、そしてお金を出すのかといった問題や、事故が起きた際などの責任の問題など、とくに法整備の点で課題はまだ多い。

また、デブリに接近して除去する技術は、軍事衛星をスパイしたり破壊したりする、いわゆる衛星攻撃兵器(ASAT)にも転用可能であり、悪用されないよう、注意深く扱わなければならないものでもある。

こうした課題を解決し、デブリ問題の根本的な解決策となるデブリの除去に向け、大きく羽ばたくことができるのか。2020年代の宇宙ビジネスにおける熱い話題となりそうだ。

出典

ESA - ESA commissions world’s first space debris removal
ClearSpace One - A Mission to make space sustainable
宇宙ごみ除去のアストロスケールが民間世界初、除去実証実験機「ELSA-d」のシステム組立・試験を始動
ALE、経産省による宇宙産業補助金の対象事業者に採択 スペースデブリ対策技術の2021年実証へ加速 ー ALE Co., Ltd.
商業デブリ除去実証|JAXA|研究開発部門