日本1、2フィニッシュおめでとう!! AWS DeepRacer League 2019

12月2日から6日(米国時間)にかけて開催されたAmazon Web Services(AWS) の年次イベント「AWS re:Invent 2019」最終日の基調講演は、機械学習を活用して自走する車のレース「AWS DeepRacer League 2019」のリーグ戦の最終決戦からスタートした。ファイナリストはリーグ戦に勝ち残ってきた3名。うち2名は日本からの参加だ。

  • AWS DeepRacer League 2019ファイナリスト

    AWS DeepRacer League 2019ファイナリスト

そして見事、日本が1、2フィニッシュという成果を挙げた。1位はDNPデジタルソリューションズの瀧下初香氏、2位も同じくDNPデジタルソリューションズの大野史暁氏だ。おめでとう!

1位から3位までのラップタイムは次のとおり。

順位 ラップタイム
1 10.23
2 11.06
3 12.15
  • 日本から1、2フィニッシュ

    日本人が1、2フィニッシュ

DNPデジタルソリューションズでは社内で機械学習や強化学習の勉強を目的としてDeepRacerを使った勉強会のようなものが開催されており、週に数回の取り組みや社内外の関係者を集めてのレースの開催などを重ね、今回の結果につながったとしている。1位を獲得した瀧下氏は、とにかくコースを確実に走り切るように速度を調整したとしており、学習環境と同じ速度を保てたことが着実にラップを重ねる成果につながったと見られる。

  • DeepRacer League 2019で見事1、2フィニッシュを決めた瀧下初香氏と大野史暁氏

    DeepRacer League 2019で見事1、2フィニッシュを決めた瀧下初香氏と大野史暁氏

レーシングコースを疾走する1/18スケール完全自律型レースカー「DeepRacer」は、運転席に人が搭乗しているかのようなスムーズさでコーナーを駆け抜けていく。よく学習されたデータに従って動作するレーシングカーに感嘆しきりだ。強化学習によってこうした動作が可能になるというわかりやすい事例といえる。

先日発表があったばかりだが、2020年にはセンサーが追加された次世代モデル「AWS DeepRacer Evo」によるレース戦が開催される。カメラの台数が2倍になり、ルーフにリモートセンシングセンサーが配置される。入力されるデータが増加することで、強化学習への取り組みも変わってくる。

この次世代完全自律型レースカーDeepRacer Evoによるレースは2020年に開催が予定されている。今後もDeepRacerレーシングシーンから目が離せない。強化学習によってどこまでスムーズに走行できるようになるのか、今後の展開が期待される。

バック・トゥ・ベーシック、Nitroで仮想化強化

AWS re:Invent 2019最終日の基調講演はAWSのCTOであるWerner Vogels氏から行われた。例年このスタイルだが、Andy Jassy氏が基調講演で発表した内容を技術という側面から切り込む形で説明が行われる。仮想化技術について改めて説明が行われた点が特徴的だった。Vogels氏は、AWSの仮想化技術の根幹を支えるNitroについて説明した。

NitroはすでにAWSで導入が進められているチップおよびボード。従来、AWSの場合はLinuxカーネルがハイパーバイザとして動作しているわけだが、このハイパーバイザーが担っている処理の一部をハードウェアにオフロードするというのがNitroの基本的な考え方だ。こうすることでI/O関連のスループットが改善するほか、スケーラビリティも確保しやすくなる。大量の仮想環境を活用するAWSにとっては当然、必要な機能であり、根幹を強化する重要な技術ということになる。

  • Nitroで仮想化のパフォーマンスを改善

    Nitroで仮想化のパフォーマンスを改善

Nitroはパフォーマンスの向上に焦点が当たりがちだが、Vogels氏はNitroを利用することで得られるセキュリティの強化について強調した。Linuxベースのハイパーバイザーは、Linuxサーバが動作している上に、プロセスベースの仮想環境を動作させるというものだ。Linuxハイパーバイザーそのものの脆弱性の影響を受けやすいし、サイバー攻撃の対象にもなり得る。

Nitroはこうしたセキュリティに配慮した設計になっている点も注目に値する。問題の発生しやすい方向への命令の書き込みができない仕組みになっており、Nitroを導入していないハイパーバイザーよりも安全性が高いと考えられている。

  • Nitroはセキュリティの強化にもつながる

    Nitroはセキュリティの強化にもつながる

AWSはさまざまなサービスを提供している。サーバレスサービスもあるし、マイクロサービスもある。AWS re:Invent 2019ではそうしたサービスの新サービスがいくつも発表された。しかし、こうしたサービスの多くがAWSの提供する仮想化技術の上に成り立っている。最も根幹となる仮想化技術の強化に取り組むことは、そのままほかのサービスの基盤強化につながる。性能の向上が実現できればコストの削減にもつながる。最も基幹にして、重要な技術、それが仮想化技術というわけである。

AWSは今後もNitroの適用範囲を広げる計画だ。2020年にはNitroの技術を使って機密性を高めた仮想環境AWS Nitro Enclavesの提供も予定されている。

「堅実な改善」という印象

AWS re:Invent 2019の印象は「堅実な改善」というものだ。相変わらず大量のアナウンスが行われたイベントとなったが、「驚愕すべき発表が行われた」という印象はない。どのサービスも既存のサービスを強化したり、既存のサービスに新しい機能を追加したりという側面が強いものだった。

そもそも、AWSは顧客セントリックでシステムの開発を行っている。存在しない機能を求める顧客がいれば、それを開発するというやり方だ。このため、AWSから提供されるサービスはどれも最初からある程度のユーザーが存在している。それだけ堅調な機能ばかりが提供されていることになる。AWS re:Invent 2019は特にその傾向が強かったように思う。