社会から交通事故をいかに減らすか。それは、日本のみならずグローバルで大きな課題だ。特に日本ではドライバーの高齢化による事故がニュースに取り上げられ、大きな社会課題となっている。こうした課題に対して、テクノロジーとデータの力によって挑んでいるのが、カーナビゲーションシステムやドライブレコーダーを開発するパイオニアだ。

同社の取り組みについて、パイオニア モビリティサービスカンパニー データソリューション事業統括グループ デジタル戦略企画部の部長である岩堀耕史氏と同デジタル戦略企画部 戦略企画課の小林好祥氏に話を伺った。

ドライブレコーダーなどから得られる走行データを分析し、事故リスクを診断

まずは、同社が現在力を入れている運転支援システム「Intelligent Pilot(インテリジェントパイロット)」の中で稼働しているテクノロジー「事故リスク予測プラットフォーム」について、小林氏が説明した。

現在、自社が展開している一部のドライブレコーダーに搭載している「Intelligent Pilot」の「事故リスク予測プラットフォーム」は、「インクリメントP株式会社」(地図データを開発するパイオニアのグループ企業)が作成するデジタル地図データに事故多発地点データ、急減速多発地点データなどを関連付けることで、事故が発生するリスクの高い場所をAI技術により学習。この学習結果を用いて、通信型ドライブレコーダーから得られる走行履歴データをもとにドライバ―に安全運転をリアルタイムに支援したり、ドライバーの潜在的な事故リスクを診断することができるというものだ。

  • 「AIスコアリング」のイメージ

    「AIスコアリング」のイメージ

「Intelligent Pilotは、一人でも多くの人を交通事故のリスクから救うことを目的に、ドライバーの運転支援や危険回避をするソリューションとして開発された。交通事故は近年減少傾向にあるが、昨年は年間約43万件の交通事故が発生しており3532人の方が亡くなっている。安全対策として自動ブレーキなどの運転技術も登場しているが、まだまだ既販車には未搭載。自動車側の運転支援だけでなく、ドライバー自身が身の回りの運転環境を理解し、危険な状況を回避できるかという点が重要ではないかと考えた。交通事故の要因の7割以上はドライバーの認知ミス。そのリスクをあらかじめドライバーに伝えることで、運転中の身構えをもってもらえるのではないかと考えている」(小林氏)

小林氏によると、パイオニアでは市販のカーナビゲーションシステムを提供しているユーザーの許諾を得たうえで走行データを収集し、クラウドのデータ基盤に蓄積しているのだという。具体的には、GPSのログデータをもとに生み出される走行経路、走行距離、目的地、加速度データから割り出される走行速度などの運転履歴データなどがある。これまでに蓄積された走行データは、走行距離に換算すると国内で累計約100億キロメートル分にもなるのだという。

パイオニアは、この膨大なデータを活用し、交通安全のために活用できないかと考えたのだそうだ。

「ドライバーに注意を促すためには、様々なデータを活用してドライバーの運転能力や走行中のリスクを予測しなければならない。私たちの強みは、インクリメントPが保有する地図データとパイオニアのカーナビゲーションシステムが取得する走行データを紐づけて緻密な分析ができる点。地図には道路や地形だけでなく標識などによる交通規制の情報、周辺施設の情報、道路の属性情報などの情報が含まれており、これらを走行データと紐づけることでドライバーの運転インサイトをより深く分析して危険を予測することができる」(岩堀氏)

ドライバーの走行データを、事故リスクの高いドライバーの運転傾向や走行経路に潜む事故発生リスクと照らし合わせることで、そのドライバーが事故に遭遇してしまうリスクがどの程度孕んでいるかを、予測することができるわけだ。

刻々と変わる交通事故のリスクを的確に捉えて、危険予測につなげる

小林氏によると、ドライバーの走行データや道路情報は単純なものではなく、パイオニア独自のアプローチによって緻密な分析が行われているのだという。

例えば、同じ場所でも天候、時間帯、交通量の変化によって道路状況は刻々と変化する。同じ場所でも、晴れた休日の昼間であれば事故のリスクは高くないが、晴れの日でも平日の夕方になり、交通量が増加すると事故のリスクは大きくなる。また雨天のとき、夜間など事故のリスクを高める要素は様々だ。そこで、過去の事故の情報と地図データ、ドライバーの走行データなどをもとに天候や時間の変化によってリスクがどのように変動するのかを分析しながら、危険な場所と注意すべき事故の種類を割り出してデータベースにしているという。

「実際に事故が起こった場所はもちろんリスクが高いが、同じような地形や道路条件など同等のリスクがある他の場所もデータ分析によって予測している」(小林氏)

また、ドライバーの走行データの分析では、従来の走行中の急ブレーキ、急ハンドルなどのデータをもとにドライバーの運転を分析することに加えて走行経路の履歴をもとにその道路の事故リスクに照らして適切に走行できているかを分析し、ドライバーに対して注意すべき運転シーンや運転方法のアドバイスや、運転中にリスクの高い地点でリスクの高い走行をした場合の注意喚起を行っているのだという。

「リスクの高い場所でリスクの高い運転をしている人にだけ適切に安全のアドバイスができるように設計している」(小林氏)

  • Intelligent Pilotにおけるデータ分析のアプローチを解説するパイオニア モビリティサービスカンパニー データソリューション事業統括グループ デジタル戦略企画部 戦略企画課 小林好祥氏