アナリティクス大手の米SAS Institute(以下、SAS)は、2019年4月28日から5月1日の日程で、米テキサス州ダラスにおいて年次プライベートイベント「SAS Global Forum 2019」を開催した。世界68カ国から6200人超が参加し、日本からもパートナー、顧客を含め100人超が参加した。

創業以来、分析に関するソリューションを提供し続けてきた同社は、昨今の人工知能(AI)や機械学習(ML)ブームに距離を置いていた。しかし、2016年にクラウド対応AIプラットフォームである「SAS Viya(以下、Viya)」をリリースし、AIに対する取り組みを積極的に発信するようになった。

Viyaは、データ分析とAI活用に必要な機能をAPI経由で利用できる、AIを「コア(核)」とした製品だ。なお、同社は2019年3月、今後3年間でAIに10億ドルを投資する計画を発表している。

4月28日と29日に開催した基調講演では、SASの創立者でCEO(最高経営責任者)であるJim Goodnight(ジム・グッドナイト)氏らが登壇。「分析の民主化を支援するタスクの自動化」「SASプラットフォームの技術革新」「教育分野へのコミットメント」などの取り組みを説明した。さらに、医療、金融、地方自治体、教育機関などからSASユーザーが登壇し、分析ソリューションの活用事例とその効果を紹介した。

  • SASの創立者でCEO(最高経営責任者)であるJim Goodnight(ジム・グッドナイト)氏

ソーシャルワーカーが分析モデルを選択

SASは今回のイベントテーマに「Analytics in action」を掲げている。人工知能(AI)や機械学習(ML)を導入してビジネス課題の解決を目指す企業は多い。しかし、多くの企業ではPoC(実証実験)や環境構築に時間と労力、そしてコストを費やすものの、AIやMLを本番環境に実装し、活用している事例は少ない。AI/MLの導入自体が目的と化し、ビジネス価値の創出や業務改善に至らないのが現状だ。

SASでCOO(最高執行責任者)兼CTO(最高技術責任者)を務めるOliver Schabenberger(オリバー・シャベンバーガー)氏は、「多くの企業でAIは活用されていない。『デジタルトランスフォーメーションを推進する』と声高に唱える企業は多いが、実際に推進していない」と課題を指摘する。

  • SASでCOO(最高執行責任者)兼CTO(最高技術責任者)を務めるOliver Schabenberger(オリバー・シャベンバーガー)氏

「Analytics in action」には、ビジネスの最前線に立つ現場の人々が、簡単かつ迅速に分析を活用し、分析効果を実際のビジネスに活用するという意味が込められている。「分析はあらゆる場所で実施できないとならない。SASならそれができる」とシャベンバーガー氏は強調する。

そうした思想を具現化したものが、「分析の民主化を支援するタスクの自動化」である。データサイエンティストなどの専門家と、ビジネス部門の担当者の間にある「スキルギャップ」を解消すべく、プラットフォームにAIを組込んだ。SASソリューションをはじめとする、さまざまなソフトウェアに自動機械学習による高精度な分析を提供することで、データサイエンティストの力を借ることなく、的確な意思決定を下せるようになるというわけだ。それを実現しているのが、SASプラットフォームである。

「SASプラットフォームは、データ収集と分析モデルの作成、そしてモデルの実装と管理を、単一の統合GUI環境で実行する。これらがシームレスに連携しているので、データの準備から実装モデルの評価までの『アナリティクス・ライフサイクル』を素早く回すことが可能だ。Viyaで利用できるプログラミング言語はSAS、Python、R、Java、Luaなど多岐に渡る。また、GUIでもモデルを構築できるようになっている」(シャベンバーガー氏)

「分析の民主化を支援するタスクの自動化」のユーザー事例として、米ノースカロライナ州ニューハノーバー郡のソーシャルワーカーが登壇した。同郡では居住者の8人に1人に当たる12%が麻薬性鎮痛薬「オピオイド」を乱用しており、子どもに対する虐待やネグレクトなどが社会問題化している。同郡ではSASの自動機械学習を使用して、問題となっている家庭の子供のリスクレベルを自動分析。リスクスコアの高い家庭に個別訪問をするなどの対策を講じているという。

興味深いのはリスクレベルの分析モデルやデータの抽出を、ソーシャルワーカー自身が行っていることだ。データには自宅からの緊急通報件数や、近親者の逮捕履歴などが蓄積されている。そうしたデータをクラウド対応の調査およびインシデント管理プラットフォーム「SAS Visual Investigator」に集約した。そのうえで対象となる子どもを軸とした人間関係の相関図などを作成し、危険な状態を総合的に自動判断。リスクレベルが上昇した時はリアルタイムのアラートを出せる環境を構築した。

「子どもの保護という一刻を争う状況では、現場の状況を理解しているソーシャルワーカーが『何を軸に分析すべきか』を決め、迅速に結果を得る必要がある」と、同郡の担当者は説明した。

  • 「どのデータを利用するか」「ゴールはどこに据えるか」といった部分を現場のソーシャルワーカーが設定し、現場レベルで分析できる