ウエスタンデジタルは3月28日、戦略説明会を開催し、エンタープライズ向けストレージ製品の国内展開を本格化させると発表した。

同日、国内市場で新たにNVMeオールフラッシュアレイとハイブリッドフラッシュアレイの新製品2モデルを投入することを発表。エンタープライズ領域を「プラットフォーム」「コンポーザブルインフラストラクチャ」「クラウド」「プライマリー」という4つの製品ポートフォリオでカバーし、シリコンからシステムまでを垂直統合したコスト効率が良く高パフォーマンスな製品を展開していく。

新たに投入するのは、2UのNVMeオールフラッシュアレイ「IntelliFlash N5200」(実行容量 86~691TB)、「IntelliFlash N5800」(実行容量 72~576TB)とSSDとHDDの5Uのハイブリッドフラッシュアレイのエントリーモデル「IntelliFlash T4760」(24.5TB+26TB)。メーカー希望価格は1000万円程度から。

  • 「IntelliFlash N5200」

  • 「IntelliFlash T4760」

フラッシュやHDD、SSDのデバイスメーカーとして市場をリードする同社だが、近年はストレージシステムの提供に力を入れ始めている。すでにグローバルでは3年ほど前に「データセンターシステム(DCS)グループ」と呼ばれるエンタープライズ向けストレージ部門を立ち上げ、製品を展開してきた。日本でもプラットフォーム領域における「Ultrastar」、クラウド領域における「ActiveScale」などを展開してきたが、DCSグループとしての本格展開は、米国、欧州、中国に次いで4つめの市場参入に位置づけられる。

  • ウエスタンデジタルのエンタープライズ向けストレージの製品ポートフォリオ

ウエスタンデジタルジャパン 代表取締役 セールス バイス・プレジデントのラリー・スウィージー氏は、グローバルでのウエスタンデジタルの事業概況について「2018年度の売上高は約2兆円、社員は6万5000人以上で、製品ラインアップが業界で最も多いのがいちばんの特徴だと捉えている。SanDisk、G-Technology、WD、upthereといった主力ブランドを持ち、モバイル向けNANDフラッシュから、自動車向けeMMC、NAS、データセンター向けのSSD、JBOD、Storage Serverなど幅広い領域で業界をリードしている。デバイスからストレージシステムまで一貫したサポート体制を持つ。日本にも四日市と藤沢に生産設備があることも他社にはない特徴」と説明した。

  • ウエスタンデジタルジャパン 代表取締役 セールス バイス・プレジデント ラリー・スウィージー氏

ストレージシステムに注力する背景としては、データを生成するエンドポイントが大きく拡がるなかで、エッジ領域やデータセンターのコア領域でのストレージに対するニースが大きく変化することがあるという。

「2025年までに企業データの75%以上がデータセンター外で生成され処理されると予想されています。これはストレージアーキテクチャを提供する企業として意識しなければならない大きな変化です。エンドポイントのデータを1秒でも早く処理してデータから価値を引き出す。スピードを追求するのはベンダーのミッションです。コアデバイスの知識とストレージの知識がないとこうしたミッションは果たせません。その両方を持つのがウエスタンデジタルであり、コアデバイスからシステムアーキテクチャまでを幅広くサポートして企業の成長を支えていきます」(スウィージー氏)

  • ストレージシステムに注力する背景としてはデータ量の拡大がある

データセンター向けストレージシステム製品の全体像について、米ウエスタンデジタル データセンターシステムビジネスユニット開発担当、バイス・プレジデントのトニー・チャン氏は、DSGグループは2019年度の売上高が2016年度比で17倍と高い成長を続けており、すでに顧客はグローバルで3000社以上で、導入システムは8500以上に及ぶ。2018年度の出荷容量は3エクサバイトで、四半期ごとに150以上の新規顧客を獲得している。R&Dエンジニアは400名以上だと説明した。

  • 米ウエスタンデジタル データセンターシステムビジネスユニット開発担当、バイス・プレジデント トニー・チャン氏

  • ウエスタンデジタル データセンターシステムのビジネス状況

製品ポートフォリオのうち、プラットフォーム領域では、データセンターのストレージシステムでJBODを構成するためのフラッシュ、HDDをUltrastarブランドで展開する。クラウド領域ではAmazon S3準拠のオブジェクトストレージActiveScaleをHGSTとして展開してきている。このほか、日本市場にほぼ初参入となるのが、プライマリー領域における「IntelliFlash」と、コンポーザブルインフラストラクチャ領域における「OpenFlex」だ。

「IntelliFlashは、エントリー向けのT-シリーズ、高密度タイプのHD-シリーズ、高パフォーマンスのN-シリーズを展開しています。このうち今回新たに日本市場に対して100%NVMeオーラフラッシュのN-シリーズ5200と5800の2モデルを投入します」(チャン氏)

IntelliFlashは、ストレージOS「IntelliFlash」を備えたユニファイドブロック&ファイルストレージ(SAN/NAS)で、インライン重複排除、シンプロビジョニング、スナップショット、クローン、リモートレプリケーション、アプリケーションアウェアなプロビジョニング機能などを備える。単一障害点のないアクティブ-アクティブな高可用性アーキテクチャを持つという。

「N-シリーズ5200&5800は、レンテンシーの50%削減、トータルコストを3分の1に、集約率を2倍に高めます。事例としては、大手民泊企業における予約システムのデータ保存先としての利用、F-1チームのリアルタイムのデータ分析基盤、スポーツ動画企業における動画コンテンツの作成と配信の基盤などがあります」(チャン氏)

国内展開についてはサンディスク(ウエスタンデジタルジャパン) エンタープライズビジネス担当シニア・ディレクター河野通明氏が解説。河野氏はネットアップジャパン創業メンバーで、データドメイン、ティントリ、デイトリウムなどストレージベンチャー企業の日本での新規事業立ち上げに関わってきた。2019年1月にウエスタンデジタルジャパンに入社し、国内展開を指揮する。

「ウエスタンデジタルは、HDDとフラッシュの両方を持つ唯一の企業。ここに新事業としてエンタープライズストレージ事業を立ち上げました。デバイス業界の大手からストレージシステムも備えたソリューションプロバイダーになろうとしています。日本展開では、大きく3つ強みがあります。日本に製造業を持つこと、グローバル基盤を持つ確立された企業体であること、垂直統合製造モデルで価格競争力があることです」(河野氏)

  • サンディスク(ウエスタンデジタルジャパン) エンタープライズビジネス担当シニア・ディレクター河野通明氏

国内ビジネス体制構築に向けた方策は大きく5つある。1つはサポートのプロフェショナルとのパートナーシップ、2つめはバックアップソフトウェアベンダーを皮切りとしたベンダーアライアンス、3つめはエンタープライズシステムで定評のあるSIとの協業、4つめはパートナー各社との協業、ならびにエンドユーザーへのハイタッチ、5つめは藤沢EBC Storage Lab(仮称)の開設だ。

  • 国内でのビジネス戦略

「入社してこれまでは1~2の準備を整えてきました。キモとなるのは3~5の方策です。藤沢に検査拠点を設け、出荷前検査を行う予定です。これにより、SIerやパートナー、ユーザーに安心感をもってもらいます。またグローバルで採用されている容量課金モデルの採用も検討しています。価格競争力については垂直統合モデルのためまったく違うコスト構造のもとで製品を提供できます。IntelliFlash、OpenFlex、ActiveScaleを製品の主軸として、国内エンタープライズ業界のゲームチェンジャーになっていきます」(河野氏)

技術担当ディレクターとして河野氏とともにウエスタンデジタルジャパンに入社した首藤氏は、テクノロジーの視点から、IntelliFlashやOpenFlexの製品戦略や想定ターゲットを解説した。

IntelliFlashは、HCIの導入やHCIからの乗り換えを検討している層に向けた製品だという。首藤氏によるとHCIは、サーバのコンピュート能力が高めることで、3ティアモデルが抱えていたサーバとストレージを分離することによる効率の悪さを解消するものだ。ただ、HCIには大規模にスケールさせることの難しさやネットワークによる遅延、ハイパーバイザーを利用することによるオーバーヘッドがあった。

「近年はコンテナを使ってハイパーバイザーのオーバーヘッドを回避しスピーディーにアプリケーションを展開する技術が登場しています。そんななか3ティア構成に戻そうという動きも出始めています。そこで投入するのがIntelliFlashです」(首藤氏)

  • サンディスク(ウエスタンデジタルジャパン)エンタープライズビジネス 技術担当ディレクター首藤憲治氏

一方、HCIの次のアーキテクチャとして、ストレージコンポーザブルインフラストラクチャ(SCI)に注目が集まっている。エンドポイントが増加しエッジでのネットワーク転送量が増えると、大量のデータを一気に処理する必要がでてくる。SCIはNVMe over Fabrics(NVMf)などの技術を使って大容量の転送を可能にしながら、エッジ領域での柔軟なストレージ構成を可能にする。

  • ストレージの技術戦略

「SCIに向けてOpenFlexを拡張していきます。昨年、NVMfを使って1TBの転送ができる製品F3000シリーズを発表しました。現在SDSベンダーにAPIを公開しており、アライアンス先のSDSを用いたOpenFlexがもうすぐ登場する予定です」(首藤氏)