業界を変革するための「破壊的」なシステム

2つ目の柱は、人財確保・人間力向上だ。ここで画期的なのは、カット未経験者を受け入れ、無料でゼロから技術・接客を指導し育て上げるシステムを構築したことだ。

まず社内に「ロジスカット(ロジス、LogiThcut)」と呼ばれる社内スクールを創設した。既存社員の底上げのために、本部社員と店長以上を対象に外部講師を招いて管理者研修を実施。さらに、ベテラン社員の意識を変革させ、技術を互いに認め高め合う場所としてカットコンテストをスタートさせた。

2012年には、ロジスを外部向けに公開し、学校として運営する取り組みを開始。東京校を皮切りに、2014年に大阪校、2016年に名古屋校、2018年に福岡校を開校させ、今年は仙台校を開校する予定だ。

このロジスの取り組みはこれまでの業界の常識では考えられなかった破壊的な要素がいくつかある。1つは、しっかりとした育成制度を自前で整備したことだ。これまでの業界の常識は、免許取得後は「見て盗め」が基本だった。実技研修なく免許を取得できるという制度的な問題もあり、若手には学びの場が与えられなかった。これに対し、ロジスでは無料で研修を受け、6カ月後にスタイリストとして店舗デビューするというキャリアを描くことができる。

「ロジス卒業生は370名を超え、卒業生と既存社員が共存して支え合う環境ができつつあります。東京エリアでは4人の1人がロジス卒業生です。ロジスは年齢や環境が原因で教わる機会がなかった理美容師の受け皿になっています」(平山氏)

  • ロジスでの研修の様子

  • カットコンテストの集合写真

  • カットコンテストの表彰者

もう1つ破壊的だったのは、同社が海外で行ってきた経験を逆輸入したことだ。同社は、QBハウス、ロジスのほか、FaSS、訪問理美容、海外という5つのジャンルでビジネスを展開する。海外事業では、現地でスタイリストを養成して現地でサービスを展開するというスタイルで、その経験を日本国内に適用したわけだ。

海外進出というと製造業や流通業、飲食業がほとんどで、サービス業はほとんど例がない。同社は、海外で成功した日本のサービスとして、2018年には日本サービス大賞JETRO理事長賞を受賞するなど、人という側面から、業界に再び革新をもたらしている。

「NEXT 10 ~今の10分も次の10年も同じ情熱で。~」

3つ目の柱は、組織・働く環境だ。取得するスキルやレベルに応じて給与が上がる新しい評価制度を作り、社員が自身のキャリアを安心して描けるようにした。成果を挙げた社員をもてなす仕組みや本人の要望を聞いて職場を変えるといったことも頻繁に行っている。

定年もないため、81歳の理容師が正社員として現場に立つことができる。一方、残業なども1分単位で管理されるため、出産や育児中の理美容師も時間をうまく使いながら現場復帰できる。5つの事業体を組み合わせながら、働き方や働く場所を変えることもできる。ロジスの指導者になる道や海外勤務で新市場開拓に携わるといった道まである。

「離職率は50.0%から8.1%に改善し、勤続10年・20年の表彰者は556名となりました。月平均残業時間も38時間から29時間に削減。労働環境と顧客サービスを向上させたとして、2016年にはHRチャレンジ大賞奨励賞も受賞することができました」(平山氏)

こうした3つの柱で10年にわたる取り組みを進めてきた同社は、すでに次の10年を見据えた取り組みを開始している。新しい企業スローガンとして「NEXT 10 ~今の10分も次の10年も同じ情熱で。~」を掲げ、安心して一生涯働ける環境づくりやロジスカットスクールの拡大を図っている。具体的には給与のベースアップや、個人の体力に合わせた新しい勤務形態の導入、ロジス指導の育成や増員なのだ。

また、理容師と美容師が一緒に働くことができないといった、理容師法、美容師法の改正や規制緩和にも取り組んでいきたいとする。新しいルールづくりに向けて厚生労働省などへの働きかけを進めているところだ。

平山氏は10年にわたる改革を象徴するシーンの1つとして、美理容師の交流を挙げる。

「美容師はフレンドリーで、理容師はプライド高く職人気質というイメージを持たられていると思います。そういう雰囲気もないとは言えないのですが、当社はお互いの理解を進めるため、それぞれが得意な分野でカットコンテントを実施しています。美容師がカットの技術に興味を持ったり、理容師がスタイリストの手法を参考にしたり、お互いのスキルを盗んだり、アイデアを参考にしたりといった交流が進んでいます」

ここには「長時間労働」「低賃金」「成長できない」理美容師に対するネガティブなイメージはもうない。なぜ同社は自身が危機に瀕していることに気づき、変革を推進できたのか。平山氏が重要なポイントとして挙げるのは「やり切る覚悟」だ。

「社員が退職する可能性がある中で押し切りやり切りました。特にカットスクールを始めることに対しては意見が割れ反対が多数派でした。たしかに目の前を見ればNGかもしれません。でも、長い目で見ればやらないという選択肢はありませんでした。実際スクールは重要な人材確保源となっています。トップのもとブレずにやり切ったことでよりよい組織に生まれ変わったと思っています」(平山氏)