以前から、ダイバーシティの推進を掲げる日本企業は増えていたが、「労働人口の減少」「国を挙げての働き方改革の推進」といった動きを受け、これまで以上に、ダイバーシティへの注目度は高まっている。しかし、海外の企業に比べると、ダイバーシティがうまくいっている日本企業は少ないのではないだろうか。

今回、ヴイエムウェアの代表取締役社長であるジョン・ロバートソン氏は事あるごとに、同社のダイバーシティへの取り組みについて語っているが、同社はダイバーシティの推進に力を入れている。

今回、グローバルで同社のダイバーシティ活動を統括する米ヴイエムウェア 上級副社長兼最高人材責任者のベツィー・サッター氏に話を聞いた。

  • 米ヴイエムウェア 上級副社長兼最高人材責任者 ベツィー・サッター氏

ダイバーシティを高めれば業績も上がる

サッター氏は同社に入社して18年になるが、同社の従業員数は、140人から2万3000人にまで増えたという。これだけ従業員が増えれば、人材に求めるものも変わってきているだろう。

サッター氏は「この18年、世界は複合的かつコネクテッドという変化を遂げてきた。これに伴い、人材に対する期待値も変わってきた。しかし、変わっていないものもある。それは、人間は仕事によって貢献したいと思っていること」と話す。

同社は、「多様な人材の確保」「柔軟な働き方の実現」「テクノロジーを活用した生産性向上の支援」にフォーカスしている。柔軟な働き方、テクノロジーの活用が従業員に与えるメリットは容易に想像がつくが、「多様な人材」は従業員にどんなメリットをもたらすのだろうか。

サッター氏は、ダイバーシティを推進することで、業績が向上することが各種調査によって証明されていると説明する。

例えば、マッキンゼーによる調査「Diversity Matters」によると、「ジェンダーに偏りのない企業」は15%、「民族の多様性の高い企業」は35%業績が向上しているという結果が出ている。

また、別な調査では、ジェンダーの多様性を1%上げると売上高は3%上がり、人種の多様性を1%上げると売上高は9%上がるという結果が出ている。

つまり、ダイバーシティはもはや人事における取り組みではなく、企業が成長する上での重要な要件となっているのだ。

スタンフォード大学の共同研究成果をもとに社内を整備

そこで、VMwareでは経営陣に対し、「多様性は業績向上に影響をもたらす」「多様性はイノベーションにつながる」として、多様性を高めるための啓発活動を行っているという。

日本企業に比べて、海外の企業は人種の多様性に対し受容性が高いと思われるが、それでもサッター氏は「大変な取り組み」と話す。

VMwareはダイバーシティを高めるために、「人材プロセスの整備」「社内での意見交換の活性化」「効果測定とデータの共有」に取り組んでいる。

例えば、人材採用の面接を担当するスタッフに女性を必ず1人入れるようにしているほか、さまざまなミーティングでダイバーシティを取り上げるようにしているという。また、スタンフォード大学と共同で研究を行っており、その成果をトレーニングに取り入れている。

そして、ダイバーシティに関する取り組みの結果は、定期的にダッシュボードへ公開することで、従業員に周知している。

女性管理職に対しては、女性だけで構成される「ダイアログサークル」への参加を促している。このサークルでは、女性管理職の課題を解決することを目指している。

サッター氏に「女性管理職の課題とは何か?」と聞いてみたところ、「交渉力」と「ネットワーキング」という答えが返ってきた。これは、データに基づく結果だという。

ダイアログサークルで、交渉やネットワーキングなどにおいてうまくいった方法を共有することで、自身の課題に解決につなげていく。サッター氏は、ダイアログサークルの副産物として、6カ月の活動が終わった後、自発的なコミュニティ活動が始まり、女性管理職がお互い助け合うようになったことを紹介した。

VMwareでは、こうした活動を通じて「女性管理職の増加」と「生産性の向上」を実現したという。本稿執筆時点で、同社のLeadership memberの女性率は24%とのことだ。

ダイバーシティ向上のカギは「教育」と「コミュニケーション」にあり

サッター氏に、ダイバーシティを推進する上で苦労した点を聞いたところ、「人々に教育が欠けていること」と答えた。「人々はダイバーシティ活動に取り組みたいと思っているが、何をしてよいかわからない」と同氏。

そこで、ツールを提供すると、変化が起こり、変化を感じた人たちは意欲的にダイバーシティ活動に取り組むようになるという。

教育はすぐに結果が出るものではない。サッター氏は「コミュニケーションを繰り返すことで、理解を深めて行動につなげていく」と話す。加えて、測定結果については、細かいところまで共有することが大事だそうだ。

単一民族国家である日本では、ダイバーシティの推進が今ひとつ進んでいない。しかし、日本ではこれから深刻な人材不足を迎えることを考えると、ダイバーシティは企業として生き残るためのカギとなるのではないだろうか。もはやダイバーシティはCSRとしてではなく、業績向上のための策として、取り組んでいくことが必須なのかもしれない。