日本オラクルは7月27日、イベント「Oracle Modern Business Experiences 2016」を開催し、クラウド・アプリケーションや導入事例を紹介した。同イベントでは、 常陽銀行 営業推進部 ダイレクトバンキングセンター 主任調査役の丸岡政貴氏が「オフィシャルサイトのFAQにAIを導入し、1年たってわかってきたこと」というテーマの下、講演を行った。本稿では、同氏の講演から、企業がAI(人工知能)を導入して得られる効果、AIを利用するうえでのノウハウについて探ってみたい。

常陽銀行 営業推進部 ダイレクトバンキングセンター 主任調査役 丸岡政貴氏

常陽銀行は茨城県水戸市に本店を置く地方銀行で、預金残高は全国第5位。今年10月には足利銀行との経営統合を予定しており、全国第3位の地銀グループに拡大する見込みだ。統合後はダイレクトチャネルの強化を重要な柱の1つとして掲げ、Webなどの非対面チャネルを活用した顧客接点の拡大などを目指している。

丸岡氏は初めに、1年前に「Oracle Service Cloud」を導入した背景を紹介した。5年前はDMやテレマーケティング、新聞広告など、情報を発信する一方通行のコミュニケーションが中心だったが、現在はWebの影響力が急速に高まり、エンドユーザーは情報の受信だけではなくSNSなどを通じた発信者としての顔も併せ持つようになる。同行はこうした環境下において、店頭の対応だけでなく非対面環境下での「おもてなし」が成否を分ける可能性があると考えたという。

FAQに「Oracle Service Cloud」を導入

そんな環境で、同行が着目したのが「FAQ」の分野だ。「Oracle Service Cloud」では、あらかじめ企業が用意したデータベースから最適な回答をユーザーに提供するよう、AIが管理し自己学習していく。検索エンジンの部分をAIが担い、ユーザーが利用すればするほどAIが育っていくという仕組みだ。

FAQにAIを起用した理由は大きく3つある。丸岡氏は「結婚で名字が変わった際の手続き」を例に挙げて説明した。ユーザーは「名字が変わった」「名字 変更」「結婚 手続き」などと検索するのに対し、銀行では「改姓」「氏名変更」など専門的なキーワードで設定しているケースが多く、キーワードヒット型の検索エンジンではユーザーがたどり着けない場合もあるという。さらに類義語や勘違い語など、さまざまな表現での検索にも適切に対応できる仕組みが必要だと考えたそうだ。

FAQにAIを導入した3つの理由

そして、 FAQが重複していたとしても、AIが微妙な表現の違いを自動判別してくれるという部分に注目。管理者は重複しているFAQの削除や古い情報の更新に頭を悩ませ、無駄な手間が発生することも少なくない。しかし、AIを活用すればユーザーにふさわしいアンサーを日々学習していくため、不要なFAQは自然淘汰されていく。こうしてユーザーのニーズに近いFAQが検索上位に上がり、内容は似ているが着眼点の違う質問にも限りなく的確に対応できるようになるのが魅力だ。

FAQの中でも、多くの人に利用されている項目は「よくある質問」だろう。本来、運営側はユーザーのニーズが多い質問だけを入れておけばよいのだが、同行は利用者の知りたいタイミングで知りたい内容がきちんと出てくることこそ、非対面環境下での「おもてなし」だと位置づけている。

一方、めったにない質問を登録するのはユーザーのためだけではない。現場の営業や支店が回答できず、本部へ問い合わせがくるようなレアケースにも「よくある質問」で対応しておければ、内部の業務効率化にもつながるという。丸岡氏は「かゆいところに手が届くという表現を使いますが、そうしたFAQに育てていきたい」と今後の展望を語る。

ユーザーニーズに応えた画面構成

続いて、丸岡氏は実際のFAQ画面を紹介した。トップページはあえてシンプルさを重視し、基本は検索バーと検索上位ベスト10のみに抑えている。検索バーにはキーワードだけでなく会話文形式、自然文での検索にも対応。そして、ベスト10は管理画面から人為的にコントロールできるため、同行では2015年の常総市鬼怒川水害の際、通帳とキャッシュカードが流されてしまった場合の代払い方法など災害対策用の手続きを恣意的に表示した。これにより、コールセンターへ問い合わせが集中することなく、日常と同程度の問い合わせ件数で済んだという。管理画面はマイクロソフトのワードやエクセルのようなイメージで、プログラミングやコーディングの技術がなくても、クライアント側のさまざまな要求に対し柔軟に応えられる仕組みとなっている。

FAQの画面構成はシンプルに、見やすさ・分かりやすさを重視

また、FAQサイトが抱える大きな課題として、どれだけFAQサイトを充実させてもユーザーが該当ページにたどり着かないという点がある。ユーザーは必ずしもトップページから入ってくるわけではなく、検索からサービスページへ直接飛ぶことは少なくない。そのため、同行では主要なサービスの右側にウィジェットを貼り付け、商品に関するFAQの検索ベスト5も併せて表示。大抵の問題はワンクリックで解決できるよう配慮し、最小限の動作でいかにユーザーニーズに応えていくかという部分へ力を入れている。