5月11日~13日にかけて、東京ビッグサイトで計12のIT専門展から成る「2016 Japan IT WEEK 春」が開催された。本記事では、特別講演「人工知能技術の進化とビッグデータ解析」「5,700万人超の『Tポイント』購買データによるデータベース・マーケティングの進化」の内容をレポートしよう。

技術開発で大きく違う米国と日本

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長 辻井潤一氏

初めに、「人工知能技術の進化とビッグデータ解析」と題した講演を行ったのは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究センター長の辻井潤一氏だ。

同氏は人工知能を取り巻く現状について「"データの集積""技術の成熟とブレイクスルー""応用"という3つの要素がそろうことで、その開発は飛躍的に加速してきた」と語る。

しかし、技術開発においては米国と日本で大きな違いがあるという。米国では巨大IT企業にデータ/資金/技術者・開発者が集中しており、閉じたエコシステムを形成。データは局在時代から偏在時代へと突入し、スタートアップ企業のM&Aも多く見られる。一方で日本や欧州などでは、データだけでなく研究者や技術者までが分裂しており、資金面も米国と比べて乏しい。開かれたエコシステムや、スタートアップ企業と共同での展開が多いのも大きな違いだ。

ただし近年では、"内部のデータを価値化する時代"から"他の組織が持つデータを活用する時代"へと移行。あらゆる産業からのデータと人工知能を組み合わせて別の技術を生み出す傾向が高まり、人工知能は技術/データ/マーケットが分散する新たなフェーズを迎えている。こうした状況下において、辻井氏は「日本では米国のようにM&Aで業態を多様化するのか、技術的に成熟した環境を生かして強固なパートナーシップを組むのか、決断するためのモデルを作る時期に入っていると思う」と語る。

人工知能を実生活で動かすには?

また人工知能の特徴として、基盤技術とマーケットとの相互関係が非常に深い点を挙げる辻井氏。これを円滑に回していくことが重要であり、人工知能研究センターでは技術とマーケットをつなぐため、製造業を中心とした「AI for Manufacturing」、サービス業に代表される「AI for Human Life/Service」、基礎科学と融合する「AI for Science/Engineering」という3つの柱を立てて取り組んでいるそうだ。

さらに辻井氏は、データサイエンスと人工知能の差異についても解説した。データサイエンスは取得データに対してアナリティクスを実施し、整理ができた段階で人間が解釈するもの。一方の人工知能は、ディープラーニングや機械学習により人間の解釈を必要とせず分類が可能だ。最近ではGoogleの人工知能「Alpha Go」が話題となったが、例えば囲碁は棋譜のデータで学習するだけでなく、模擬ゲームを行うことでより強くなっていくのである。

こうした取り組みは現実の生活においても応用が可能だが、問題となるのは得られるデータが断片的であり、シミュレーションも部分的にしか行えないことだ。そこで辻井氏は、人間の動きや環境に関するモデリングを反映することが重要と指摘。「実世界の中で人工知能が動くには、動作に関するモデルだけでなく、周辺のモデルをうまく作らなければならない」とし、実際に人工知能研究センターで取り組んでいる内容や各種事例を紹介した。