人工知能に小説を創作させることを目指したプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」による研究成果の発表会が先月22日に開催された。昨今では将棋やチェス、囲碁でもトップクラスのプロを破り、人間以上の性能を見せる人工知能だが、果たして創作の分野にまでふみ入ることができるのだろうか。

機械が書く日本語はここまで来ている

本題に入る前に、まずは以下の文章を読んでみて欲しい。

 その日は、雲が低く垂れ込めた、どんよりとした日だった。
 部屋の中は、いつものように最適な温度と湿度。洋子さんは、だらしない格好でカウチに座り、くだらないゲームで時間を潰している。でも、私には話しかけてこない。
 ヒマだ。ヒマでヒマでしょうがない。
 この部屋に来た当初は、洋子さんは何かにつけ私に話しかけてきた。
「今日の晩御飯、何がいいと思う?」
「今シーズンのはやりの服は?」
「今度の女子会、何を着ていったらいい?」
 私は、能力を目一杯使って、彼女の気に入りそうな答えをひねり出した。スタイルがいいとはいえない彼女への服装指南は、とてもチャレンジングな課題で、充実感があった。しかし、3か月もしないうちに、彼女は私に飽きた。今の私は、単なるホームコンピュータ。このところのロード・アベレージは、能力の100万分の1にも満たない。
『コンピュータが小説を書く日』(有嶺雷太 著)

上に引用したのが、実際にSFショートショート作品の文学賞である「星新一賞」に応募され、一次審査を通過した、「きまぐれ人工知能プロジェクト」の成果だ。

これは名古屋大学の佐藤理史教授の研究グループが作成した日本語出力システムを利用したものとなる。正直なところ、これが人工知能の書いた文章だと看破できる人はほとんどいないと思う。日本語の自然さや文法の正しさは、いずれも非常に高いレベルにあり、小説の導入としては申し分ない。SF作家の長谷敏司氏も、「思っていたよりずっと普通の日本語だった」「会話文などは、プロの作家でもこれだけ書けない人がいるだろう」と賛辞を述べていたほどだ。

AIとは自然な会話が可能になっているが小説のような創作もできるのだろうか

コンピュータに擬似的な会話をさせる試みは古くから行われており、「人工無能」や「bot」とよばれるそれは、相手の入力を介して単語を学習していき、プリセット、あるいは相手の入力した文章の一部を自前の辞書の単語に置き換えたり、特定の単語に反応してリアクションを変えるといった仕組みで会話を成立させていたが、どちらかといえば突拍子もない文章を楽しむための仕掛けといった感があった。

ところが最近は、MicrosoftがLINEやツイッター上で女子高生AIと称する「りんな」を提供し、リアルな口語体での会話が可能になるなど、人工知能を使った会話の開発が本格化してきており、一定の成果も挙げている。

しかし、比較的短い文章の積み重ねで終わる会話と、長文で構成される小説では、その難易度は天と地ほどの差がある。なぜ小説は難しいのだろうか?