無料言語学習アプリ「Duolingo」の機能と収益源


――そんなアンさんが開発したDuolingoは、どういったサービスでしょうか?

アン氏 : 一言で説明すると、完全無料の言語学習アプリですね。広告などが出てくることもありません。ゲーム要素を盛り込んでいますし、どうすれば早く言語を身に付けられるのかを考えてプログラムを組んでいますので、楽しく効率的に学べるはずです。

日本語版も5月上旬にリリースしました。現在は、「日本語ネイティブの方が英語を学ぶ」というパターンのみで、スマートフォン対応もこれからですが、ぜひ試してほしいですね。

――どういう経緯から言語学習アプリ/サービスにチャレンジすることになったのですか?

アン氏 :まず、需要が大きいこと。言語を学びたいという意思を持つユーザーは世界で10億人と言われていますので、そこをターゲットにしたかったんです。

また、言語は生活していくうえで必要なものですが、貧困層においては、勉強したくてもできない方が多くいます。そういう方々を支援するアプリを作りたくて、完全無料のアプリケーションとして提供しようと考えました。

リリースから2年が経ちましたが、現在のユーザーとしては、より良い仕事に就きたいという理由からDuolingoで外国語を学ぶ人が多いようです。

――収益はどうしているのでしょうか?

アン氏 :そこは悩みどころでした。そもそもユーザーには生活に余裕のない方が多かったので。

いろいろと考えた結果、ニュースサイトの記事をユーザーに翻訳してもらい、その報酬というかたちで媒体社から資金を調達しようということになりました。

Duolingoでは、言語学習の成果を確認する意味も込めて、CNNやBuzzFeedの英語記事を学習中の言語に翻訳してもらうサービスを提供しています。その翻訳結果をCNNに渡す代わりに、CNNに資金提供をお願いしています。

翻訳記事の採用プロセスとしては、1本を複数のユーザーに翻訳依頼し、最も出来のよいものをユーザー間で投票してもらうという形式をとっています。これにより翻訳の品質を担保しています。

――他のアプリ/サービスと比べた特徴を教えてください。

アン氏 :先ほども申し上げましたが、効率的に学習できるという点は大きな特徴だと思っています。

学習コンテンツに関しては、A/Bテストなどでユーザーの行動を観察しながら、常に改善しています。どのような順番で何を教えるのが良いのか、試行錯誤を繰り返した結果が現在のプログラムです。

A/Bテストは常時10パターン程度実施しており、今後も継続して改善していく予定です。

――リリースから2年も経たずに3000万ユーザーを達成したということですが、ユーザー数を増やすうえで何か行ったことはありますか?

アン氏 :特別なことはしていませんが、iPhoneアプリを出したときには劇的に増えましたね。その後、Androidアプリを出してさらに増えました。現在は、1日7万ユーザーのペースで増えています。

――順風満帆のように感じますが、Duolingoに関して失敗した経験はありますか?

アン氏 :たくさんありますね。失敗だらけです。

一番残念だったのは、中国語版のリリースですね。日本語と同時に中国語にも対応し、1週間で150万の中国ユーザーに登録してもらえたのですが、突然、Duolingoへの通信を中国政府にブロックされてしまいました。5日後に解除されたものの、ほとんどのユーザーが戻らず、アクティブユーザーは40万人にまで減っています。

ブロックされた当初は、サーバが壊れたのかと思いましたね。

会話対応機能を開発へ、言語能力検定も開始予定


――Duolingoの今後の予定を教えてください。

アン氏 : 言語学習というサービスの性質を考えると、読み書きだけでなく会話にも対応していかなければなりません。この点は最大の課題と捉えてきましたが、すでに対応機能の開発に着手しています。

また、言語能力を認定する検定も用意しようと思っています。英語などの主だった言語に関しては、その能力を認定する検定がいくつかありますが、いずれも受験するのに200ドル程度かかります。これを20ドル程度に抑えて提供できれば、と考えています。

検定は、スマートフォンで受験できる形式にする予定です。ユーザーは試験会場まで移動する必要がありませんし、運営側にとっても会場設営費がかからないなど、メリットは大きいです。

すでにAndroid向けにベータ版を提供しており、正式リリースも近々予定しています。

――会話対応機能について、もう少し詳しく教えてください。Skypeのようなビデオチャット機能を使って会話することになるのでしょうか?

アン氏 : 当初はそういう形式を想定していましたが、考えを改めました。言語に自信のないユーザーがビデオチャットでリアルタイムに会話するというのは、なかなか厳しいと思います。そもそも、ちゃんと話せる方でも初対面で会話するのは難しいわけですから、初級者にはやはり無理がありますよね。

なので、とりあえずは"ビデオメッセージ"方式を考えています。まずは発言する内容をテキストで書いてもらいます。その内容をモジュールがチェックし、文法的に正しくなるまで修正してもらいます。問題箇所がなくなったら、ユーザーにそれを読み上げてもらい、音声としてDuolingoのサーバに送ります。音声データは、Duolingo上の"友達"に送信され、知り合い同士で対話することになります。

なお、一般的な会話に関しては、当社のチャットデータなどを解析した結果、5000文章で80%がカバーされることがわかりました。この会話対応機能でもそれを基にコンテンツを構成しています。

まずは挨拶や基本的な質問ができること。それができるようになって初めて、哲学や文学など、高度な会話に入ることになります。最初に必要なのは話せる自信です。それを与えられるサービスになれればと思っています。

――5000文章で会話の80%が網羅されるということでしたが、現在のDuolingoでもそれが使われているのでしょうか?

アン氏 :全部は使っていませんね。現在は、2000~3000文章程度を使用しています。

――最後に、会社としての目標などがあれば教えてください。

アン氏 :現在のところ、35パターン(英語→仏語、仏語→英語で2パターン)の言語学習に対応しているのですが、これを今年中に100パターンまで増やしたいと考えています。すでに学習コンテンツのフレームワークはありますので、それを各国語に対応させていくというかたちですね。

そのうえで、各国の教育アプリで1位を獲得するのが目標です。個人的には、1億ユーザーを抱える最初の教育アプリになれるのではないかと期待を抱いています。

ぜひ、日本の皆さんにも使ってほしいですね。

――ありがとうございました。