岩手医科大学は10月22日、ストレスに応答して増加する「ストレスメディエーター(グルココルチコイド)」によって引き起こされるシナプス形成障害について解析し、その分子メカニズムを解明したと発表した。

成果は、岩手医科大副学長兼同大・神経科学研究部門長で、同大・医歯薬総合研究所所長の祖父江憲治氏、同・神経科学研究部門の真柳平講師、同・神経精神科学講座の福本健太郎助教らの研究グループによるもの。

ストレスによって引き起こされる脳神経機能の障害は、近年大きな問題となっているうつ病・不安障害・PTSDなどの感情障害をはじめとする精神疾患発症や、発達障害の要因となっていると考えられ、精力的な研究が行われている。

これまでにストレス曝露に伴い、中枢神経系において神経細胞間の情報伝達を担っているシナプスの形成障害が起こることは知られていた。しかし、その分子メカニズムについては充分に解明されていないのが現状だ。

神経細胞において、細胞骨格制御タンパク質である「カルデスモン」(1981年に祖父江氏らが発見)はシナプス後部(樹状突起上の突出構造(スパイン))に「繊維状アクチン」と結合して局在することが見出されており、これまでの研究で、スパイン内の繊維状アクチンはシナプス後部の形態およびダイナミクス(可塑性)を制御している重要な細胞骨格であることが知られていた。

神経細胞において、カルデスモンの発現を増加させるとスパイン内の繊維状アクチンの安定化が起こり、大きなスパインが形成される(スパイン成熟の促進)。一方でカルデスモンの発現を抑制すると、スパインの形成・成熟が抑制された。

さらに、刺激依存的にカルデスモンがシナプス後部に集積すると共にスパインの肥大化(成熟化)が認められ、一方でカルデスモンの発現を抑制すると刺激依存的なスパインの肥大化が障害されたのである。

つまり、刺激依存的なシナプス応答の可塑性についてもカルデスモンが積極的に関与しているということを明らかにし、記憶や学習などの高次脳機能の分子基盤の解明にもつながる重要な発見が行われたというわけだ。

そして神経細胞において、グルココルチコイド曝露は濃度依存的にスパイン形成を抑制することも確認。この原因として、グルココルチコイドによってスパイン内の繊維状アクチンの安定性が減少することが明らかにされた。

さらに、グルココルチコイドは神経細胞におけるカルデスモンの発現を顕著に抑制することが見出され、そのカルデスモン発現減少によるスパイン内の繊維状アクチンの不安定化がスパイン形成の脆弱化を引き起こしていることも明らかとなったのである。

グルココルチコイド依存的なカルデスモンの発現抑制は転写レベルで起こり、SRFという転写因子の活性が減少していることが原因であることを突き止められた次第だ。

今回の成果は、グルココルチコイドを介したストレスによる脳機能障害の分子基盤として重要な知見であり、うつ病・不安障害・PTSDなど感情障害をはじめとするストレスを引き金にした精神疾患の発症メカニズムの解明と治療法の開発に今後つながっていくことが期待されると、研究グループは語っている。

グルココルチコイド曝露によるカルデスモン発現減少とスパイン形成障害