新たなコンタクトポイントとしてのソーシャルメディア

企業が消費者とのコミュニケーションを図るためのオルタナティブなチャンネルとしての役割を「Facebook」や「Twitter」といったソーシャルメディアが担うようになるのではないかと林氏は言う。

「例えば、Facebookは基本的に実名登録で、参加している人は実在するほかの誰かとつながっている。こうした構造の中では、やらせは起こりにくい。匿名を基本とした口コミ情報の信頼性が、今回の件で揺らいでいるとすれば、『信頼している友人の紹介を信用する』といった形で、自分のソーシャルグラフへの信頼を強めていく方向に向かうのではないでしょうか」(林氏)

企業がFacebookにページを持ち、情報を掲載する。当然のことながら、FacebookやTwitterでも「ユーザーの発言」自体をコントロールすることはできない。しかし、ユーザーからネガティブなリアクションがあった場合に、それに対して適切な対応を行うことは可能だ。

林氏が率いるコムニコは創業4年目。ブログを活用した広告ソリューション事業の提供を主軸にビジネスをスタートしたが、現在では企業のFacebookページ、Facebookアプリの企画や開発、運営といった案件がほとんどだという。これまでにマツダ、大塚製薬、ニフティをはじめ、30以上の企業において集客やブランディングを目的としたFacebook案件を手がけた実績を持つ。「企画から、開発、運用までをワンストップで提供できる点が強み」(林氏)という。

Facebookを運営する上で重要だと感じるポイントのひとつは「主体がユーザー側であること」だという。

例えば、ポカリスエットのFacebookページでは、「ポカリスエットのある風景」と題して、スタッフが写真を撮り、ウォールに投稿するという企画を行っていた。しばらく続けていると、ユーザーがそれをおもしろがり、同様の写真を自発的に投稿するようになったという。ソーシャルメディアの特徴のひとつは、情報拡散力の強さだ。連鎖的にユーザーからの投稿が増えていく中で、運営側は特に人気のある写真をFacebookページのウォールとして採用するというルールを設定した。このことで、さらに投稿は増えたという。

「この場合、ユーザーのインセンティブは『ウォールのトップに写真が使われる』ということだけでしたが、主体的に参加してくれるユーザーを増やすことで、エンゲージメントを維持することができています。FacebookやTwitterでのキャンペーンでは、よく『○○とつぶやいてくれたら××をプレゼント』といった方法をとることがあるが、個人的にはあれは本筋ではないと思っています。一般に、そうした形でユーザーの量を増やすと、エンゲージメント率は大幅に下がってしまう傾向にあるのです」(林氏)

最も重要なのは「ユーザーが自分で参加したり、拡散したいと思わせること」だと林氏は言う。「強制」とまではいかなくても、エンゲージメントを高めるために過大なインセンティブをちらつかせればいいと考えてしまうと、それは結果的に短期間でユーザーの関心を失うことにつながってしまう。林氏は「運営する側の人間が、自分でソーシャルメディアを利用して、理解していることが大切。そうすれば、おのずと自分が『気持ちいい』『楽しい』と感じるアプローチをとるようになる」と言う。

ユーザー数を増やしつつ、かつエンゲージメント率も維持することに成功した例としては、昨年12月にニフティとコムニコが共同でリリースしたFacebookアプリ「占い@nifty 2012年のあなたの運勢」を挙げる。リリースから2ヵ月ほどだが、この間に「約10倍近くユーザーが増えた。しかしエンゲージメント率に変化はなかった」という。

その理由のひとつは、ユーザー数が増えたことで変化したプロファイルを観察し、新たなユーザー向けのコンテンツを増やすという施策をとった点にある。@niftyの占いアプリでは、公開後に急激に増えた「女性ユーザー」に向けたコンテンツを重点的に投入していった。それにより、占いの結果を友達と共有するといった形でアクションを起こすユーザー数も増やせたという。

「アプリは、内容が当たれば大きな集客効果があります。しかし、大規模に集客を行うことで、それまでとファンの構成が変わってくる可能性もあり、それに対応できなければ、エンゲージメント率は低下してしまいます。このアプリでは、その構成の変化にコンテンツを合わせることができた。こうした運用ができる点も、うちの強みのひとつです」(林氏)

ソーシャルの世界に「参加して経験を積む」ことが必要

「個人的に上手に運用できていると感じる企業のFacebookページは?」との質問に、林氏は「JAL」を挙げた。

「これは素晴らしいと思う。投稿内容が血の通ったものばかりで、売り込みが一切ない。当初からの方針として『JALというブランドをユーザーに好きだと感じてもらう』というものがあったそうですが、そこから一切ずれておらず、ブランドを身近に感じてもらえるページになっていると思います。全般的に接客のポイントが多い業界は、ソーシャルメディアの活用もうまい印象があります。メーカーだとどうしても、マーケティング的なメッセージを全面に押し出しがちになるのですが、ある調査では、ユーザーがファンをやめる最大の理由として『マーケティング的なメッセージが多い』ことを挙げているという事実も知っておいてほしいと思います」(林氏)

ここに、解決の難しいジレンマがある。企業が業務の一部としてソーシャルメディア活用に乗り出そうとする場合、当然のように具体的な「効果」が求められる。得られる効果が明確でない活動にリソースを割くことの正当性を、企業の中で主張して、認めてもらうことは極めて難しい。林氏は「具体的な効果を測定するための方法論さえ、ソーシャルメディアの世界では、まだ確立されていない」と話す。

「明確な因果関係として『Facebookをやったから、売上が上がった』なんて事例は、私が知る限りありません。その上でやるのであれば、少なくとも1年は本腰を据えるべきです。実際に運用を続ける中で、ユーザーからさまざまな反応があり、多くのデータがとれます。それらが、どうリンクしているかというのは短期的には分かりません。このリンクを見つけ出すために、まずは必要な母数を集めていこうという姿勢が、企業がソーシャルメディアを活用するための第一歩ではないでしょうか」(林氏)

コムニコでは、ソーシャルメディアの活用に挑戦したいと考える企業とともに、こうした「指標」や「リンク」の発見につながるようなソリューションの提供をしていきたいと話す。

「われわれはコンサルタントではありません。そもそも新しいプラットフォームであるソーシャルメディアでは、その理論も確立しておらず、コンサルタントなど成立しないはずです。僕らのようなプレイヤーにできるのは企業の『お手伝い』をすること。運営や運用を手を動かして手伝うことで、一緒に経験を積んでいきたいと考えています。そこで得たノウハウは、互いに今後のビジネスに生かしていくことができるはずです」(林氏)