IEEEは8月4日、報道陣向けセミナーを開催し、IEEEフェロー、IEEE Robotics and Automation Society会長の小菅一弘氏(東北大学大学院 工学研究科 教授)とIEEEフェロー、IEEE Robotics and Automation Society次期副会長の田所諭氏(東北大学大学院 情報科学研究科 教授/国際レスキューシステム研究機構 会長)が日本と世界のロボットに対するビジネスなどの事情と、福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故におけるロボットの関与の現状の説明を行った。

政府機関の積極投資も含めたロボットのビジネス化を進める諸外国

IEEEフェロー、IEEE Robotics and Automation Society会長の小菅一弘氏(東北大学大学院 工学研究科 教授)

最初に登壇した小菅氏は、1999年に日本学術会議が出した「新たなる研究理念を求めて」というレポートを引き合いに出し、「これにより学術の研究が国の文化をつくる段階を3つにまとめ直された。第一に"創造モデル研究"による仮説の提唱と実証。そして、そのモデルをより多くの人が研究するようになる"展開モデル研究"。従来は、ここまでであったが、同レポートでは新たに、それを実際に多くの人に使ってもらう"統合モデル研究"が加わった。研究は、この3者を互いに行き来することで初めて実用的なものとなる。これをロボットに置き換えると、ロボットのような人工物の研究は、役に立たなければ意味がないが、実際の日本におけるロボットの研究は、創造モデルか展開モデルまでしか行われていない。それではまったく無意味である」と、日本のロボット研究の有り方に苦言を呈する。

「新たなる研究理念を求めて」に記載される3つの学術研究段階。「少なくともこのモデルはロボット開発には当たっている」と小菅氏は述べている

一方、諸外国の動向はというと、米国では、「2009年にITの次はロボットだとするレポート(A Roadmap for US Robotics, From Internet to Robotics)を出している。そうした背景もあって、iRobotやIn Touch Healthなどがビジネスとして出てきた。Rumbaなどは1990年代に日本がやろうと思えば、できた技術で、その当時、東芝がスウェーデン企業のものを30万円程度で販売したことがあったが、それでは家庭に入るわけがない。Rumbaは思い切って価格を下げて市場を作ってしまった。ビジネスという視点を先に見て、市場を開拓しようという成功例」とする。

米国のロボット事情

また、欧州でも「2007年から2013年に適用されるFramework Programme(FP7:第7次枠組み計画)において、ICTの1領域として、ロボットは研究機関と企業との協力、成果移転、認知科学とロボティクスの融合などの分野だけでも2011年で1億5500万ユーロが投じられ、世の中に役立つロボットの提供を目指している。PAROも日本発のロボットだが、デンマークの高齢者介護施設に導入され、そこから欧州中に、そうした動きが広がっており、米国もPAROの活用に注目している。日本で生み出されたのに、ビジネスの活用方法を向こうが先に見つけた結果となった。また、産業用ロボットは日本のお家芸と言われているが、それらの性能を超すロボットもできつつある」とビジネスとしてロボットに対する期待が高まっていることを指摘する。

欧州のロボット事情

加えて、「韓国でもMKE(Minsitry of Knowledge Economy)が、知能ロボットを17のGrowth Engineの1つとして位置付け、2009年度は研究開発に5400万ドルを投資したほか、教育(中高校用)、配管検査、消防、産業用、軍事、医療サービス、農業の7分野でのロボット事業のトップダウン型産業化支援と、企業からの公募によるボトムアップ型事業に、2011年度から3年間で、1億ドル(2011年度は3000万ドルを支出している」と、アジア地域でもビジネスに向けた動きが見えてきたことも強調するが、「日本はサイエンスの支援のための研究。個々のロボットの研究試作段階で終わっており、明らかに海外の投資と異なる姿を見せている。海外は将来のビジネスに向けた研究を進めているが、日本ではもともとビジネスは企業が行うものという意識が研究者にあり、ビジネスを意識した開発が行われていない」と、その中にあって、日本だけがビジネスに向けた動きができていないことに対する危機意識を示した。

韓国のロボット事情

ただし、日本では事業化に向けた資金が得にくいことも問題であると補足しており、「基盤技術も開発されているが、世界をリードしているとは言えない。いざ、問題が起こったときに使ってないものを使えといわれても使えるわけがない。社会と融合してシステムとしてうまく機能するようにしないと、本当の意味で使えているとは言えない」と、研究者だけではなく、社会的にロボットを活用していく流れを築くことが必要になってくるとした。

科学技術振興機構(JST)が2011年6月にまとめたレポート。小菅氏曰く、「今回語ったことよりもどぎついことが書いてあるので、興味がある人は是非読んでおいてもらいたい」とのこと。PDFで配布されており、誰でも閲覧は可能となっている

日本のロボット事情