5つのカメラで幅広い層を観測

気象観測といっても、"あかつき"は金星の表面の大気の動きのみを観測するのではない。5つのカメラを駆使して濃淡パターン追跡による風速場の導出が行われるほか、高さ方向にも分解を行い、それぞれの高さでの大気の様子を観測する。

濃淡パターン追跡による風速場導出などをそれぞれの高度にて行う

5つのカメラは、「1μmカメラ(IR1:波長0.90~1.01μm)」「2μmカメラ(IR2:波長1.65~2.32μm)」「中間赤外線カメラ(LIR:波長10μm)」「紫外線カメラ(UVI:波長283~365nm)」「雷・大気光カメラ(LAC:波長552~777nm)」となっており、これに周波数8.4GHzの電波科学(RS)による観測が加えられる。

多波長撮像により、それぞれの高度の観測を実現

分厚い雲層(高度45~70km付近)の下については、1990年前後に近赤外の波長域で透視できることが判明しており、今回もIR1で地表付近の雲の波動、対流、子午面循環、雲粒サイズ、水平風速場などの観測を行い、IR2により高度40km付近のCO観測などを行い、鉛直循環の構造と変動ならびに波動の構造と伝播などの観測を行う。

また、LIRにより気温や雲頂温度の水平分布から波動、対流、南北循環、極周回ジェットなどを観測。UVIにより成層圏の二酸化硫黄(SO2)や未知吸収物質の観測から濃淡パターン変動/移動などの波動、対流、鉛直循環、水平風速場などを調べる。

さらに、LACにより、惑星規模の輝度分布や小スケールの波状構造の観測のほか、「雷があるかどうかはまだ不明だが、雷があるとすれば雷は上下の激しいところに発生するものなので、大気の変動などを観測することができる」(同)とする。

加えて、RSでは気温プロファイルから波動の鉛直伝播、大気成層度、電波強度ゆらぎから乱流分布、H2SO4蒸気分布などを観測することができるという。

"あかつき"メッセージキャンペーンが実施中

ほぼ完成状態の"あかつき"であるが、そのスペックは210cm×145cm×105cm(高さには軌道投入エンジンを含むが、横と縦にはアンテナなどの突起物は含まない。2枚の太陽電池パネルを展開した状態では横幅は約500cm程度となる)で、重量は約500kg(内燃料が約188kg)となっている。姿勢制御にはモーメンタムホイルを4つデルタ状に組み合わせて活用。集熱を避けるために平面アンテナを採用。受信用の小型アンテナと送信用の大型アンテナの2つがセットとなっている。

"あかつき"の概要(なお、金星周回軌道の遠金点が11Rvとなっているが最新のデータでは13Rvになっているほか、重量も約500kgに変更されているとのこと)

また、太陽に近づくとそれだけ熱の影響も受けやすくなり、太陽電池の発電量も減ることとなるが、熱対応を施すことで、発電量の低下を抑えている。このほか、セラミック製の軌道制御用エンジン(スラスタ)を初採用。1基だけの搭載だが、500Nの推力を得ることが可能。これについて、宇宙科学研究本部(ISAS) 宇宙航行システム研究系の石井信明教授は、「従来の金属製のスラスタでは加工技術を国内では持ち合わせておらず米国に頼るしかなかった。そのため、6カ月程度の期間がかかり、コストもかかっていた。セラミック製のスラスタは国内メーカーが製造することができ、納期短縮やコストの低減が可能という利点がある」としながらも、「本来なら冗長性の意味で複数基のスラスタにしたかったが、重量や予算の関係で1基になった」と、その経緯を説明する。ただし、デブリの衝突実験などで耐性などは確認済みであり、問題のないことは実証済みである。

"あかつき"に搭載されるミッション機器各種

気になる打ち上げスケジュールは、JAXAとしては2010年12月の金星到着に向け、2010年度の早い内に打ち上げたいという希望を示しており、年明け後すぐにでも関係各所などとの交渉を行い、詰めていきたいとしている。

太陽電池パネルなどを取り付けたほぼ完成形の状態の"あかつき"(画像提供:JAXA)

なお、JAXAでは、国内外に向けてメッセージを集めて、それを12cm×8cmのアルミプレート100枚に書き込み、"あかつき"に搭載して一緒に金星に運ぶという「メッセージキャンペーン」の受付を行っている。募集期間は2009年12月25日までで、個人単位の申し込みの場合はインターネットから、国内の100名以上の団体については寄せ書きを郵送でも受け付けている。名前とメッセージを登録すると、「参加証明書」が発行される。この証明書は1度のみ表示されるもので、保存したい場合はダウンロードする必要がある。また、メッセージは必須ではなく、名前だけでも申し込みが可能だが、JAXAでは「12月に金星に着くということもあり、クリスマスを意識して"愛の込められたメッセージ"をいただければ」と話しており、金星にメッセージを届けたい人は申し込んでみるのも良いかもしれない。

公開された"あかつき"を上から撮影したもの(天井部分に見える2つの白い円形のものが大型アンテナ)

出っ張っている四角いものは中型アンテナ(なお、今回の公開は熱真空試験前で、太陽電池パネルなどは外された状態となっている)

側面中央部で出っ張っているのが小型アンテナ。分かりづらくて申し訳ないが、こちらの側面の左下角の部分など3カ所に応募されたメッセージを書き込んだプレートが設置されることとなる

反対側の側面。こちらにもやはり小型アンテナを装備