考察
ということで伸ばし伸ばしにしてしまったが、この辺りで最終的な考察をしてみたい。
やはりというか、当然というべきか、Core i7では内部構造を色々強化したにも関わらず、デスクトップアプリケーションでこれを実感するのは非常に難しいという結果になった。SYSMarkのところでも触れたが、この程度の性能差と実際の価格差を考えれば、Core 2の方が遥かにお得感は高い。「今はそれほど性能差がなくても、今後出てくるアプリケーションを考えればCore i7の方が有利」といった謳い文句も目にするが、今回の結果を見る限り、そんなアプリケーションがデスクトップ向けに出てくるかは非常に疑問だ。Core i7の性能を正しく評価するためには、おそらくサーバ向けに想定される、高いワークロードを与える必要があるだろう。
また最適化の技法がCore 2と大きく変わってしまったので、今後のチューニングが進むかというと、少なくともコンシューマ向けではそう簡単には進まないだろう。そうでなくてもIntelだけでCore 2/Core i7/Atomという3種類の異なるアーキテクチャが混在しており、それぞれ最適化の方法論が異なるというのは中々に悩ましい。ただ、逆に言えばCore 2向けに最適化されたアプリケーションがそこそこには動作する、という事も今回確認できたわけで、そのあたりはCore i7が馬力ではなくトルクを増やす方向に機能強化を振った事が功を奏しているとは言えるだろう。ただ、とりあえず使う場合はHyper-Threadingは無効にすることを強くお勧めしておく。これによって性能が落ちるケースはエンコードなどごく限られるし、むしろ性能が上がるほうが多く、しかも消費電力も下がるからだ。
メモリに関しては、確かにIntelの言うように1067MHz×3がかなりベストバランスである事が確認できたと思う。RMMTの様にフルにメモリ帯域を使いきるケースは実際にはごく希であり、殆どのアプリケーションでは巨大なL3キャッシュと豊富なHardware Prefetchにより、メモリ帯域の差が遮蔽されてしまっている。むしろWindows Vistaのお陰で総メモリ容量の方がタイトに効いて来る感じであり、この点でも1GB×3で3GBとなり、こと32bitではまず不足を感じない構成は意外に悪くない様に思える。
SSDに関しては、本来Core i7とは何の関係もないのだが、評価キットに同梱されてきたという事で利用してみたが、筆者としては、
(1) 性能を期待すると裏切られる
(2) 静音・消費電力に関しては期待通り
(3) コスト面ではまだ論外
(4) 寿命に関してはなんとも言えない
といったところかと思う。(1)に関しては今回の結果でもわかるとおり、500GB HDDのRAID 0構成に及ばない程度でしかなかった。勿論「RAID 0と比較するな!」という意見はおありだろう。おそらくHDD単体同士で比較すれば、SSDに軍杯が上がるだろう。今回使ったDeskstarにしても、単体ではWindows Experience Indexは5.4程度にしかならない。流石にこれだとベンチマーク全体の足を引っ張る事になるので、テストをする際にはRAID 0は必須である。
ただ、カタログスペックで言えば、DeskstarのRAID 0よりもIntelのX25-Mは高速だった。実際HDTuneをかけた結果をPhoto02~09に示す(一応X25-MのRAID 0も実験的に試してみた)。
数値を表6にまとめたが、Readだけをみれば十分に高速である(RAID 0にしても殆どメリットが見出せない。これはもうICHの方が限界なのだろう)し、Writeはやはり性能がやや落ちるとはいえ、そう無茶苦茶に悪いわけではない。
■表6 | ||||||||
Read | Write | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Min (MB/s) | Max (MB/s) | Avg (MB/s) | Access Time (ms) | Min (MB/s) | Max (MB/s) | Avg (MB/s) | Access Time (ms) | |
Deskstar 単体 | 49.7 | 90.9 | 78.2 | 19.0 | 48.9 | 91.6 | 77.6 | 19.0 |
Deskstar RAID 0 | 93.7 | 121.7 | 103.7 | 18.9 | 89.8 | 119.5 | 99.4 | 18.8 |
X25-M 単体 | 185.2 | 196.3 | 191.9 | 0.1 | 18.5 | 71.9 | 43.6 | 0.3 |
X25-M RAID 0 | 177.1 | 223.2 | 202.2 | 0.1 | 12.9 | 75.5 | 39.5 | 0.3 |
少なくとも今回見てきたような結果しか出ない理由は、このベンチマーク結果からは導き出せない。やはり最終的にはRead/Writeが煩雑に行われるとか、ファイルシステムがそもそもSSDを考慮していないので、アクセスが集中するとプチフリーズが起きやすいといった問題がOS側で解決されない限り、SSDの性能を生かすのは難しい様に思う。
(2)はまぁ当然として、(3)もご理解いただけよう。最近は随分コストが下がったが、一番安い製品(例えばBUFFALOのこれ)でも、30GB品で1万弱程度。WDのGreenシリーズの1TB品と殆どコストが変わらない。ノート向けで大容量は必要ない、という方には(消費電力や対衝撃性の観点から)向いているかも知れないが、Core i7と組み合わせるにはあまりにコストパフォーマンスが悪すぎる。
(4)に関しては、まだSSDが世の中に出始めたばかりなので、現時点ではどうにも言えない。純技術的に言えば、MLC Flashを使ったSSDであってもそこらのHDDとそれほど寿命が変わらないという言い方は出来ようが、それはFlashを効率的に使用した場合の話で、局所的に煩雑に書き換えが発生しやすい現在のOSやファイルシステムで同等かどうか、はなんとも言いがたい。「それでもRAID 0よりはマシだろ」という声も聞こえそうだが、ならばRAID 0+1ならばどうだ? とも言える。現状のSSDの価格を考えれば、通常のHDDを使ったRAID 0+1は十分現実的だろうし、この構成での寿命の比較に関しては、まだコンセンサスが取れるような見解はない。
今回はCore i7の評価がメインでSSDの評価はおまけなのでこれ以上深入りはしないが、少なくとも「SSDを使う事でCore i7をより高速化」みたいな話は無い事だけは確認できた、と思う。
話を戻すと、そんな訳でやはりCore i7はデスクトップ向けにはかなりオーバースペックなCPUであることは再確認できた。もちろんIntelもこれは折込済であって、メインストリーム向けには引き続きCore 2を販売するほか、メインストリーム向けに「Lynnfield」と「Clarkdale」を相次いで投入する。LynnfieldとClarkdaleは多少構成が省かれた形になるが、その分コスト的にも下がるので、良い選択肢になりそうに思える。
あくまでもフラグシップ製品というポジションであれば、この程度のオーバースペックであっても構わないだろうし、そういうつもりでCore i7を購入するのであれば裏切られた気分にはならないだろう。AMDのPhenom IIもかなり盛り返してきたものの、ここまでのオーバースペックには及ばないのが現状であり、そういう意味ではCore 2で奪い返したマーケットの守りをがっちり固めた、といって良いと思う。
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