クリエイターにとってハードディスクは命

今やクリエイターにとってパソコンは必須の道具である。しかし、それと同時に問題になるのが、パソコンのトラブルだ。トラルブには、さまざまな種類があるが、特に致命的なのがハードディスクの障害だろう。ロジックボードやメモリ、DVDドライブが故障しても交換すればいいが、ハードディスクが壊れるとクリエイターにとってかけがえのない財産であるデータが失われてしまう。長期に渡って蓄積した作品や納期間近のデータを消失してしまうと、場合によっては、取り返しのつかない自体に発展することもある。

そこで今回、1999年の秋に出荷済みのハードディスク40万台がリコールになるという会社存続の危機に直面しながら、3.5インチハードディスクで2006年に世界シェア第2位、2006年第3四半期の日本国内シェアトップまで業績を回復したウエスタンデジタルの金森苧社長にクリエイターの現場で最適なハードディスク選びなどを中心に話を聞いた。同社は、現在、壊れにくくて信頼性が高いことでOEMメーカーやユーザーから大きな支持を得ているという。

Western Digital Corporation Corporate Vice President ウエスタンデジタルジャパン株式会社 代表取締役社長金森苧氏

ハードディスクには寿命がある

例えば、ビデオ編集の現場では、ディスクは常にギガクラスの大容量のデータを高速にやり取りし、ビデオ編集ソフトがリアルタイムに生成するキャッシュデータを含めると、激しい「書き込み/読み込み」が毎日のように繰り返されている。また、グラフィックやDTPの現場では、速度も重要だが、場合によっては数十ギガバイトもの巨大なファイルを仮想記憶ディスクとして展開しなくてはならない。

このようにクリエイターは、他のユーザーと比べてハードディスクを酷使することが多く、当然ながらトラブルも起きやすくなる。長年パソコンで仕事をしているクリエイターなら、一度はハードディスクのトラブルに見舞われた経験をお持ちなのではないだろうか。しかも、納期の前日にハードディスクが故障してデータを失ってしまったという辛い経験をしたのは筆者だけではないはずだ。

ハードディスクは、磁性体を塗布したプラッタという円盤をスピンドルモータによって毎分数千回転以上もの速度で高速に回転させ、磁気ヘッドがその高速回転によってできる空気流によってわずかな隙間を作って浮き上がり、プラッタと接触しないようにしながらデータの読み書きを行う構造になっている。そのため、衝撃や熱に弱く、部品も摩耗するため、永久に使用できるわけではなく、寿命というものが存在する。そこで問われるのがハードディスクの信頼性だ。しかし、ハードディスクの善し悪しは外見やスペックシートからの判断するのは難しい。保障期間の長さなどから、メーカーの製品に対する自身を知ることもできるが、実際に何年か使ってみないと本当のところはわからない。

また、ユーザーの環境によっても寿命は大きく異なってくる。どんなハードディスクでも気温の高い場所ではトラブルが起きやすく、常時稼働するような使い方も寿命が短くなりやすい。筆者の経験からもRAIDを組んでビデオ編集用に使用したり、サーバ用に使ったりすると条件によっては1年未満で故障してしまうことがある。ハードディスクはよく「生もの」といわれるが、まったくその通りで、筆者は調子が良くても定期に交換するように心がけている。

何を選んだいいのはわからないのが実情

しかし、ユーザーとしては、できるだけ長く使いたいのが本音であり、だからといって使用中に壊れるのは困る。そのため、購入時に少しでも信頼性の高い製品を選びたいところだが、信頼性というのは、容量や速度と違って、スペック値として表示されないので厄介だ。

例えば、クリエイターに人気のアップルの「Mac Pro」は、4つの内蔵SATAインターフェイスを持ち、標準構成のハードディスクの他に3基のハードディスクを追加することができる。Windowsマシンにしてもクリエイティブ向けの製品は、複数のドライブが挿入できるタイプがほとんどだ。予めパソコンメーカーに純正品や推奨品を購入時に組み込んでもらう方法もあるが、購入した後に自分の環境に合わせた増設作業を自ら行う、クリエイターが多い。しかし、その際にどんなハードディスクを選んだらいいのか、即答できるユーザーは少ない。

クリエイターといえばやはりMac。その中でもMac Proは合計4台の3.5インチハードディスクを内蔵できるプロ仕様のマシンだ

その原因は、ハードディスクの種類の多さにあるといえよう。内蔵ドライブを自分で増設する場合、本体のみで販売しているいわゆる「バルク」製品が、比較的安価で人気がい。しかし、バルク製品は、メーカー名と型番ぐらいしか記されていないことが多く、よほどハードウェアに詳しくない限り、どれを選んでいいのか迷ってしまうのがほとんどである。そのため、多くのユーザーは、価格、容量、ブランドといった要素で購入製品を決めることが多い。

確かにユーザーにとって、価格と容量は購入する上でもっとも気になる部分だ。しかし、クリエイターが使用するハードディスクは何よりも信頼性が重要である。どんなに安くても、どんなに容量があっても、壊れてしまっては意味がない。果たして、価格と容量だけでハードディスクを選んでしまっていいものだろうか?

ウエスタンデジタルの製品ラインアップ

「当社のサーバ、エンタープライズ向け製品は安価なハードディスクに比べて全く造りが違います」と語る金森苧社長

今回、話を聞いたウエスタンデジタルの製品も3.5インチモデルでは最も廉価な「WD Caviar/Caviar SE/Cavier SE16」、世界最速の10,000rpmのハードディスク「WD Raptor/Raptor X」、エンタープライズ向けのRAIDアレイ用の「WD Caviar RE/RE2」のラインアップがあるが、どのように違うのかわかりにくい。そこで、金森社長にそれぞれの製品の性格を聞いてみた。

「できるだけ信頼性とパフォーマンスを両立し、かつ、十分なディスク容量を求めるなら「WD Caviar SE16」がベスト。そして、パフォーマンスを最優先するなら「WD Raptor/Raptor X」が最適ですね。「WD Caviar RE/RE2」は、サーバやRAIDなどの高い信頼性を必要とする場合に適しています」と金森社長は語る。しかし、メーカー側に信頼性が高いと言われても「はい、そうですか」と納得するわけにもいかない。そこのところを尋ねると「ハードディスクの善し悪しは、製品を構成するパーツの品質や構造など詳細なノウハウの積み上げや熟練度で決まります。当社のサーバ、エンタープライズ向け製品は安価なハードディスクに比べて全く造りが違います。その信頼性はOEMメーカーや企業ユーザーに広く認められているところです」という。

金森社長によれば、中でも去年3月に発表されたモデル「WD Raptor/Raptor X」は、ウエスタンデジタルの挑戦が2年の開発機関を経て花開いた技術力の結晶と言える製品だという。回転数は10,000rpmで、シークタイムは4.6ms、平均待ち時間は2.99ms、コンタクト・スタート・ストップ・サイクルは最低2万と、まさに3.5インチSATAハードディスクの最高峰にふさわしいスペックを備えている。ディスクユニットの外観もかなりユニークだ。特にRaptor Xは、ディスクとヘッドアセンブリが見える透明レンズを採用し、外側からディスク内部が確認できる。毎分10,000回転と極めて高速に回るディスク上に髪の毛の太さの1/2000という超至近距離でヘッドが配置されると、わずかな埃やゴミの混入、気圧や電流の変化があっても大きなトラブルが発生するが、そのシビアな環境を可視化したのは同社の自信の現れである。まさに世界最高水準の技術力が「よく見える」製品と言えるだろう。

高速モデル「Raptor」は、透明レンズのないバージョンであるが、スペックは「Raptor X」と全く同一で、36.7GB/74GB/150GBの3モデルが用意される。「Raptor X」は150GBモデルのみの販売だ

「WD Caviar SE16」は、手頃な価格で信頼性も高い製品

「WD Caviar RE/RE2」は、サーバやRAID用向けに開発された