ネットの活用は、放送番組だけではない。同社は昨年の11月から、制作の最前線を担う社員によるブログ「フジテレビZOO」を開設した。吉田氏自身が書いている「さすらう犬の編集長生活」もそのコンテンツの一つだ。「ネットで発信できる最大のコンテンツは作り手自身ではないかということで、意見とか考え方が商品になる。究極的には、アナウンサーのブログも有料課金のコンテンツにしてきたい」

有料化への呼び水として「ファンクラブというのは一つのかたちではないかと思っている。ファンクラブはコンテンツに対して、特にロイヤリティが強い。ブログとオンデマンドの二本立てというのは、ある種のファンクラブ的な発想だ。単なる放送への対価でなく、コミット自体がコンテンツになる」。

有料化の成否が、ネットとテレビの連携で重要な要素となる。「有料にできるという出口があるからこそ、幅広い権利者側の協力も得られる。実際に出演者、タレントを抱えている権利者自体がメディア的な取り組みをするのは、パワーがあり、おそろしいほどだ。テレビが勝てるとしたら、企画・内容しかない。権利者側からみて、やはりフジと組んだ方が得策と思ってもらえるようになれば良い」。

ネット側からもテレビに対し、さまざまな働きかけがあるが「インターネットの事業者側が放送と融合したいという理由は、テレビの力を借りて、ユーザーをネットに引き寄せたい、高いコストをかけて制作したコンテンツを安く使いたい、突き詰めればこの二つだったのではないか。さまざまな局面ごとでは、いっしょにやれるだろう」とする。

しかし昨年はYouTubeがテレビへの新たな脅威として台頭してきた。「YouTubeは、著作権の問題をきちんと処理して、アーカイブとしての利用なら、個人としてはいいかもしれないと思っているのだが、(現状では)番組を制作しているものとして腹立たしい。著作権者に無断で番組を配信するという無法があった。それをそのままにして企業として成立させようというのはおかしい。それを買ったGoogleもどうかしているのではないか。海賊船を雇って、今日からは貿易船にするというようなものだ」と厳しく批判する。

ネットの世界との協調関係という点では「個人的見解だが、モバイルの方がいろいろな事業者と協力しあえるのかもしれない。パソコンの画面とテレビ受像機は形状が似すぎている。その点、移動体の方がテレビとの差別化をしやすい。ワンセグというわかりやすい入り口もあり、さまざまな可能性があり、興味もある」。

ワンセグの登場でテレビコンテンツは携帯電話に密着し、新しい流れになろうとしている。ネットとテレビはやはり「融合」というには、両者の思惑の隔たりは大きい。権利者は、テレビ事業者だけでなく、最終的にはさまざまな出演者であり、その権利がいろいろな場面で侵害されてきたことに対する警戒感は強い。テレビとネットの歩み寄りへの大きな障害になってきたのはこの点だ。今回の同社の実験は、これらの最終的な権利者を振り向かせるための起爆剤を目指している。