AI活用が企業の競争力を左右する時代となった。しかし、多くの企業ではレガシーシステムやデータの分断がボトルネックとなり、その価値を十分に引き出せていないのが実態だ。

3月3日に開催されたデータ・アプリケーション主催のオンラインセミナー「AI時代の理想とEDI現場をつなぐ“次世代データ基盤”とは」では、AI時代における企業アーキテクチャの在り方から、データ連携基盤の整備、そして現場のEDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)運用の現実解まで、5つのセッションを通じて“つなぐ”ことの重要性が語られた。

AI前提時代、企業ITの分断が価値創出を阻む

冒頭のセッションでは、アイ・ティ・アール(以下、ITR) シニア・アナリスト 水野慎也氏が登壇し、AIの本格的な活用を見据えたシステム環境の再構築について解説した。

ITRの調査によると、企業の生成AI導入率は2023年の14%から2024年に25%、2025年には38%へと急伸している。しかし「全社的に実務利用している」と答えた企業は17%にとどまり、PoC止まりの企業もいまだ多い。同氏は、AIを「使える」と実感できるかどうかの分かれ目について「AI単体の性能ではなく、周辺のデータやシステム構造にある」と指摘する。

  • 企業の生成AI導入の推移と利用状況

    企業の生成AI導入の推移と利用状況 ※出典:ITR「IT投資動向調査2024〜2026」、ITR「生成AIとLLMに関する動向調査」(2025年2月調査)

その構造的課題の根幹にあるのが、部門単位で導入されたシステムやデータのサイロ化だ。水野氏はこれを“泥団子”とも表現し、「これまでは人が仲介者として判断・補完・最終責任を負うことで問題が顕在化しにくかった。しかし、AIが業務の主体となる時代には、この分断がボトルネックになる」と警鐘を鳴らした。

ITRの調査では、レガシーシステムのモダナイゼーションを完了した企業は2025年度で約2割にとどまる。EDIシステムに至っては稼働10年以上が27%を占め、うち半数近くは20年超だという。オンプレミスシステムとのデータ連携に課題を感じている企業は94%に達し、「マスタ管理がシステムごとに分散」「人のオペレーション負荷が高い」が課題の上位に挙がった。さらに、EDIとは別にETL/EAI/iPaaSなどのデータ連携ツールを導入している企業がほとんどで、92%がこれらの統合を望んでいるという調査結果も示された。

  • EDIとデータ連携基盤ツール統合のニーズと課題

    EDIとデータ連携基盤ツール統合のニーズと課題 ※出典:ITR「クラウド型データ連携システムに関するニーズ調査」(2025年4月調査)

こうした現状を踏まえ、水野氏は「AI-Readyなデータ構造を実現するためには、現在の分断を織り込んだうえで、異なる業務やシステムを統合する新たな設計思想が必要」だとし、「インテグレーションデザイン」という考え方を提示した。

インテグレーションデザインとは、単純にシステムを“つなぐ”という発想から、企業ITの全体アーキテクチャを“統制する”設計思想への転換を意味する。具体的には、データの定義や意味を全社で統一する「意味統制」、システム間の接続やデータフォーマットの変換を管理する「接続統制」、処理の自動化やタイミングを管理する「実行統制」、そしてセキュリティや可用性を担保する「非機能統制」の4要素から構成される。

これら4つの統制を実装するためには、個別のシステム層とAIなどの価値レイヤーのあいだに「連携層」を設けることが不可欠だ。同氏は、その連携層の中核を担うソリューションとしてiPaaSを位置付けた。

  • iPaaSが果たす役割

    iPaaSが果たす役割

「一足飛びの移行は難しい。DXで新しいシステムを構築する際にインテグレーションデザインの思想を乗せ、徐々に広げていくアプローチが現実的です。AIが価値を出せるような新しいアーキテクチャへと移行するうえで、iPaaSがそのトリガーになっていくことを期待しています」(水野氏)

※本セッション掲載資料の出典:ITR「AI前提時代に求められる企業アーキテクチャの再設計」講演資料(株式会社データ・アプリケーション主催、「AI時代の理想とEDI現場をつなぐ“次世代データ基盤”とは」2026年3月講演)

AIもBIも活かせないのはなぜ? 元小売CIOが語る基幹刷新の教訓

続いて登壇した日本オムニチャネル協会フェロー 藤野敏広氏は、食品スーパーのCIOとして自社の基幹システム刷新を主導した経験を基に、マスタデータの統合とデータ活用の現実的なアプローチについて語った。

「AIもBIも活かせないのはなぜ?」という問いに対する藤野氏の答えは明快だ。マスタデータが分散・未整備のまま放置された既存システムの構造そのものが、データ活用の足かせになっているのだという。

同氏が食品スーパーのCIOとして赴任した当時、同社のシステム環境は危機的な状態にあった。保守切れシステムが乱立し、夜間バッチが営業開始前に終わらないリスクが常態化。些細な仕様変更にも数カ月を要し、システム障害が頻発していた。各システムにマスタデータが分散し、店舗名の表記すらシステムごとに異なるという状況だった。

「新しい取り組みを始めようとしても、データの準備に時間がかかり、フォーマットもバラバラ。例えば同じ店舗名でもシステムごとに表記が異なっていたり、誰がつくったのか分からないプログラムが存在したり、マスタメンテナンスはExcelのアップロードが常態化していたりするのが、情報システム部門のリアルな課題です」(藤野氏)

基幹刷新プロジェクトは当初、パッケージに業務を合わせる方針で始動したものの、一度中断を余儀なくされた。現場への情報共有が不十分なまま進めた結果、完成間際になって現場から大きな反発が起きたのだ。

再始動にあたり藤野氏が採ったのは「分散統合」というアプローチだった。システムを「変化の多い領域」と「少ない領域」に切り分け、安定的な業務運用を担う基幹部分にはパッケージの強みを活かしつつ、変化の多い商品マスタや販促などの領域は外側に構築する。統合マスタで整備されたクリーンデータを基幹システムに流す構造とすることで、全体最適を実現した。

  • 分散統合のイメージ

    分散統合のイメージ

「システム刷新はコスト削減と捉えると成果が出にくい。未来への投資と位置付け、やらなかった場合の負荷増大から考えるべき」と藤野氏。全米小売業協会の小売業イベント「NRF」で2026年にGoogleが提唱した「Agentic Commerce」の潮流にも触れ、「システムとデータをいかにつなぎ合わせるかが企業の競争力を左右する時代に入った。一足飛びではなく、統一したコンセプトを持って段階的に進めることが重要」と訴えた。

「別々に最適化すると企業間連携で詰まる」 - ACMS Cloudが担う連携層の役割

データ・アプリケーション マーケティング本部 副本部長 赤須通隆氏は、前半2セッションの論点を引き継ぎつつ、同社のクラウド型データ連携プラットフォーム「ACMS Cloud」が果たす役割を提示した。

赤須氏がまず共有したのは「AI=加速装置、iPaaS=受け皿、EDI=現実世界の接点」という整理だ。AIは業務の高速化を実現し、iPaaSは増え続けるSaaSや業務連携を吸収する。そしてEDIは商流・物流・金流を司る、止められない連携である。同氏は「この3つを別々に最適化すると、最後に企業間連携で詰まってしまう」と強調した。

  • AI、iPaaS、EDIの役割

    AI、iPaaS、EDIの役割

データ活用を阻む最大の要因は「分断」であると赤須氏は指摘する。企業内のシステムサイロ化といった分断に加えて、企業間には取引先ごとのフォーマットや手順の違いという分断が存在する。その結果、マスタデータがバラバラになり、連携が滞り、属人化による運用負荷が増大していく。

「AIやBIを活かすためには、まずデータの流れを止める要因を排除し、“止血”することが先決です。血(データ)が全体へ流れる体質へと改善しなければ、価値は漏れつづけます」(赤須氏)

そこで重要になるのが、分断を解消し、システムとデータのハブとなる「連携層」の存在だ。次世代のデータ連携基盤には、大きく分けて3つの設計条件が求められる。1つ目は、取引先ごとの多様な仕様やフォーマットの「差異を吸収できること」。2つ目は、技術的負債や属人化を排除し、環境変化に柔軟に対応して「運用が続けられること」。そして3つ目が、安全に止まらず使い続けられる「BCP・高可用性の担保」である。

  • 連携層を中核にしたデータ基盤構成のイメージ

    連携層を中核にしたデータ基盤構成のイメージ

ACMS Cloudは、iPaaS機能による社内のSaaS・業務連携と、EDI機能による企業間の取引連携、そしてAPI管理を一体化したEDI×iPaaSの連携プラットフォームとして、この3条件を満たす設計を目指している。

  • ACMS Cloudのイメージ

    ACMS Cloudのイメージ

赤須氏は「DXやAI活用は“正しくつながったデータ”が前提。増え続ける業務・SaaSを前提にした設計と、止められない取引を差異前提でつなぐ仕組みを、連携層で一体的に実現することが重要」と語り、後半のユーザー事例セッションへの橋渡しとした。

消費期限4日、洋日配メーカーが死守するEDIの安定稼働

モンテール 情報システム部 システム開発課 係長 深作知之氏は、メーカーの立場からEDI運用の現場を語った。

モンテールはシュークリームやエクレアなどの洋日配デザートを手がけるメーカーだ。商品の消費期限は4~5日と極めて短く、取引先からの発注を受けて当日中に製造・出荷するのが基本サイクルとなっている。同氏は「発注データの受信遅延は出荷に直結する。EDIはまさに事業の生命線」と語る。365日稼働、EDIの運用時間帯は7時から21時頃までに及ぶ。

同社のEDIシステムは、自社サーバー上のB2Bインテグレーションプラットフォーム「ACMS B2B」で取引先からデータを受信し、データハンドリングプラットフォーム「AnyTran」でフォーマット変換を行い、販売管理システムへ連携する構成だ。通信手順はJX手順や流通BMS、BACREX手順に対応している。

  • モンテールにおけるEDIシステムの構成イメージ

    モンテールにおけるEDIシステムの構成イメージ

深作氏がACMSを評価するポイントとして挙げたのは、通信手順による設定の差が少なく学習コストが低いこと、稼働が安定しておりACMS起因の障害は経験がないこと、そしてAnyTranによるノーコードでのマッピング変更が可能な点だ。

一方で、非システム部門のユーザーにも通信状況を分かりやすく伝える必要があるため、同社では自社開発のWebアプリケーション「EOS状況照会」を構築し、ACMSと連携させている。受信の実行予定や履歴が一覧表示され、色分けで現況がひと目で分かる。ワンタッチでのリトライ機能も備え、受注部門でも障害の初期対応が可能だ。

  • EOS状況照会のイメージ

    EOS状況照会のイメージ

障害発生時には、状況照会で異常を検知した受注部門からシステム開発課に連絡が入り、ACMSの稼働記録をたどって原因を特定する。証明書期限切れや取引先側のネットワーク不通など、原因はさまざまだが、「どのケースにおいてもACMSで障害の切り口をすぐに見つけられるため、出荷に影響なく対処できている」と深作氏は説明する。

「EDIは現実世界との接点であり、商品を届けるという事業そのもの。商品を楽しみにしてくださるお客さまをがっかりさせないためにも、システムだけでなく商品を念頭に置いた運用が不可欠」という同氏の言葉は、ACMSが同社のビジネスの生命線を強固に守っている実態を物語っていた。

「変換作業からの解放」 - 卸が夢見るAI自動マッピングの未来

最後のセッションには、升喜 グループ管理本部 情報システム部 担当部長 三代隼人氏が登壇した。酒類・食品の総合卸売業である升喜は、明治8年創業、昨年150周年を迎えた老舗だ。仕入先・得意先を合わせて約200社と接続し、日々約8万レコードを送受信する。

三代氏が語ったのは、卸ならではの構造的な苦労だ。卸はメーカーと小売の双方と接続する立場にあり、EDIのフォーマットや通信手段は取引先の仕様に合わせるのが基本となる。「当社から『このフォーマットでお願いします』と伝えたことはほとんどない」と同氏は明かす。結果として、対応するデータフォーマットや通信手段は多岐にわたり、文字コードの違いや日付表記の揺れまで、1つひとつ自社の基幹システムに合わせる作業が日常的に発生する。

この状況が生み出す負荷は、3つのかたちで顕在化している。第一に、開発作業の独自化だ。トランスレーターによるマッピングだけでは吸収しきれず、システム側での個別開発が不可避となっている。第二に、テスト工数の増大だ。接続テスト、データフォーマットの検証、本番稼働後の微調整と、取引先が増えるほど負荷は膨らむ。第三に、本番運用でのシステムトラブルだ。受注と出荷に直結するため、業務現場の人員も含めた広範な影響が出る。

  • 卸業が抱えるEDIの課題

    卸業が抱えるEDIの課題

さらに、複数のEDIソリューションを並行運用せざるを得ない実態や、そもそもEDIの仕組みを持たない取引先には升喜側がコストを負担して導入を支援するケースもあるという。

こうした現場の苦労を踏まえ、三代氏が描く次世代EDIへの期待は具体的だ。

「AIが自社のデータ構成やマスタ構成を理解し、項目1つひとつの意味まで把握したうえで、先方から届いたレイアウトやサンプルデータを読み解いて自動でマッピングしてくれるようなソリューションができないかと考えています」(三代氏)

さらに三代氏は、「通信定義書をAIが読み解いて接続設定を自動生成し、テストまで実行してくれれば、EDI導入のスピードは劇的に向上するはず」と展望を語った。

「EDIは、トラブルがなければ1日に数百万、数千万の取引が自動で立つ魔法のような仕組みです。でも我々は魔法使いではありません。裏では泥臭い開発や運用の苦労がある。ACMSのテクノロジーで、その苦労から解放される未来を期待しています」(三代氏)

“つなぎ方”の再設計が、AI時代の初めの一歩

5つのセッションに通底していたのは、AI活用の成否を分けるのはAIそのものというよりも、データの“つなぎ方”であるという認識だ。データが揃い、つながり、運用が回っている──こうした状態をつくることが、AI時代の初めの一歩となる。EDI×iPaaS×APIを一体化した連携層という考え方は、理想と現場のあいだを埋める現実解として、多くの企業にとって検討に値するアプローチと言えるだろう。

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