欧米を中心に広がり、昨今国内でも認知度が高まりつつある「FinOps」について、その基本から本連載では解説していきます。今回は、FinOpsフレームワークの要素の1つ、ペルソナ(Personas)についてです。「はじめてのFinOps」の過去回はこちらを参照。

FinOpsフレームワークの要素の1つ、「ペルソナ」とは

連載第1回で紹介した通り、FinOpsフレームワークは幾つかの要素から構成され、最初に登場するのが「ペルソナ」(Personas)です。

ペルソナとは日本語では「人格」や「人物像」とも呼ばれ、例えばマーケティングの分野では、架空のユーザ像を想定してイメージを統一するときなどに、「ペルソナを設定する」といったように言われます。

同様に、FinOpsフレームワークにおけるペルソナとは、どのような立場・役割の人たちが、どのような興味・関心を持ってFinOpsに関わるのかを整理したものです。

FinOpsの実践は、その企業団体におけるFinOps専門家やFinOpsチームだけで完結するものでもなく、また技術的なテクニックだけでもありません。コストという観点からクラウドのビジネス価値の最大化を目指して、興味・関心の異なるさまざまな利害関係者と連携して組織文化を変革し、業務プロセスの見直しを働きかけていくような動き方が必要になるのです。その点が、FinOpsの定義にある“cultural practice”(組織文化的な実践)という言葉にあらわれています。

そのため、FinOpsに関連するいわば利害関係者のペルソナを整理しておき、その興味・関心に応じた動き方を考えることが、FinOpsの実践で大切になるのです。では、FinOpsのペルソナとは具体的にどのようなものでしょうか。FinOpsフレームワークにおける定義を簡単に見ていきましょう。

FinOpsのペルソナ

FinOpsフレームワークにおいて、ペルソナは大きく「コアペルソナ」(Core personas)と、「連携するペルソナ」(Allied personas)に大別されて定義されています。まず、6つのコアペルソナについて紹介します。

1. FinOpsの実践者(FinOps Practitioner)

クラウドのビジネス価値の最大化を目指して、FinOpsの展開定着化の中心となる人たち、あるいはチームです。トレーニングの提供や、各種手続きといった標準化、技術的な支援などを行い、組織文化の変革を推進していきます。

2. リーダーシップ(Leadership)

ビジネス目標とクラウド投資の一致に責任を持つ人たちで、FinOpsの実践に対する理解者・後援者ともなる人たちです。例えばビジネス成長に対するクラウドの予算超過やムダ、あるいはクラウド投資の不足がビジネス成長にブレーキをかけることなどを気にしています。リーダーシップには、CEO、CIO、CTO、CFOなどさまざまな役割があり、FinOpsの実践者は、これらのリーダーシップが持つそれぞれの領域・責任を理解することで、社内調整のための時間と労力を最小限に抑えることができるでしょう。

3. プロダクト(Product)

その企業団体の提供する製品やサービス(事業そのもの)に対して責任を持つ人たちで、新製品・サービスや機能を、適切な価格設定で、迅速に市場投入することを重視しています。担当する製品やサービスについて、顧客1人あたりや機能1つあたりのコストといったより細かな粒度で、クラウドコストの妥当性を評価するでしょう。

4. エンジニアリング(Engineering)

その企業団体の事業を支えるITサービス(ITシステム)に対して責任を持つ人たちで、より高速で高品質なITサービスを、妥当なコストで提供することを重視しています。このペルソナは非常に幅広く、クラウドアーキテクトから、システムエンジニア、プログラマー、SRE など多岐にわたります。それぞれが担う役割に応じて、FinOpsの実践における役割もまた異なってくるでしょう。

5. 財務(Finance)

正確なクラウド予算の作成から、実際のコスト予測と報告を担う人たちです。また、請求書の管理だけでなく受益者負担となるような配賦、またコミットメント割引の購入といった役割も担います。減価償却型のオンプレミスでは事前の計画が重要だったのに対して、従量課金型のクラウドでは(計画も重要ですが)走りながらの最適化がより重要になります。これは財務的には大きな変化で、それに伴うさまざまな摩擦がおきているのも事実です。FinOpsの実践においては、財務との協力がカギを握るといっても過言ではないでしょう。

6. 調達(Procurement)

ベンダー選定や契約を担う人たちで、クラウド事業者との間の中長期的な信頼関係の構築や、ボリュームディスカウントの交渉なども行います。

この6つのコアペルソナに対して、従来からよく知られた、5つの連携するペルソナが定義されています。「ITサービス管理」(ITSM/ITIL)、「ITアセット管理」(ITAM)、「持続可能性」(Sustainability)、「セキュリティ」(Security)、そして「IT財務管理」(ITFM)です。FinOpsの実践においては、必要に応じてこれらの領域とも連携していくことになります。

FinOps実践のポイント:異なる動機を理解する

このように、FinOpsではいくつかのペルソナが定義されていることをご紹介しました。このように、FinOpsを担うのは、FinOpsの実践者(FinOps Practitioner)だけで完結するものではありません。

FinOpsの実践者とは乱暴に言ってしまえば、周りに対して変化を働きかける役割であり、FinOpsの実践は全員が担います。

このように捉えたとき、周りに変化を働きかけ、全員で実践していくためには、それぞれ異なる役割・立場の人の興味・関心、動機を理解し、動機付けしていくことが大切だということがご理解いただけるでしょう。

次回は、このペルソナを踏まえて、FinOpsを実践する体制のイメージをご紹介します。