米Appleが3月21日にスペシャルイベントを開催する。噂される4インチのiPhoneや9.7インチiPadの新製品、そしてプライバシー保護とセキュリティを巡るFBIとの対立に世間一般の注目が集まっているが、Apple Payを忘れてはならない。iPhone 5s発売から2年半が経過し、iPhone 5sユーザーの2年縛りが終了し始めて機種変更を考えたくなるタイミングである。噂通りにNFCを搭載する4インチiPhoneの新製品が登場し、そしてiPhone 5sが引退したら発売中の全てのiPhoneがApple Payに対応することになる。

私はApple Payが米国でサービス開始になってすぐに使い始め、Apple Payを日常的に使うようになって現金を持ち歩くようになった。米国ではクレジットカードで支払うことがほとんどなので、以前はクレジットカード以外にはコーヒー代程度の現金しか持ち歩かなかった。ところが、Apple Payはクレジットカードのようにどこでも使えるわけではない。だから、常に100ドルぐらいの現金を持つようになった。

現金は不足することもあるし、銀行から引き出すのも面倒だ。それなら、以前と同じようにクレジットカードで支払った方が便利と言えば便利である。「それって不便になってないか…」と言われることも度々だ。

でも、TARGETやHome Depotからクレジットカード情報が大量流出するような事件が続き、磁気ストライプのクレジットカードを読み取らせることに抵抗を感じるようになった。Apple Payは登録してあるクレジット口座の情報を店側に渡すことなく、支払いごとに生成する一時的な決済用の番号をやり取りするので、後で店側からクレジットカード情報が流出する心配がない。その安心感は何ものにも変えがたい。

もちろんApple Payでなければならないというわけではない。私はいつもiPhoneを持ち歩いているからApple Payというだけで、Android Payでも構わない。要は、安全な支払い方法を使いたい。NFC決済に関しては「普及するか?」 とか、「どのサービスが市場を制するか?」というような視点の報道が溢れているが、磁気ストライプのクレジットカードをそのまま使うリスクは大きく、その問題の解消は待ったなしである。別にNFC決済でなくとも、クレジットカードが今直面している問題を解決できる方法が普及するべきなのだ。

まだ不便も感じるけど、米国ではApple Payだけでも何とかなる程度にまで普及しており、Apple Payが使えない場所を現金で補う方法で不満はない。以前のように「ここでもApple Payが使えない」とApple Payにがっかりするのではなく、最近は安全で便利な支払い方法をサポートしない店側にがっかりするようになった。

ICチップカードのトラブルがApple Payに追い風

Apple PayやAndroid Payを使える場所が増えたのは、クレジットカード会社による大胆な改革が昨年実行されたからだ。加盟店がICチップカードの読み取りに対応しない場合、偽造犯罪の損失を加盟店契約会社にも負わせるようにし、それによってEMV対応端末への切り替えが一気に進んだ。EMV対応端末の多くはNFC決済をサポートしており、EMVへのPOS端末のアップグレードと共にNFC決済を利用できる場所が増加したのだ。

ニワトリとタマゴのニワトリは着実に増えている。ただ、使ったことがないものへの恐れは根強いようで、NFC決済に対応している店でApple PayやAndroid Payで支払っている人を見かけることはまだ少ない。実際に使ってみたら磁気ストライプのクレジットカードよりも便利なのだが、使ってみないと分からないことを使ったことがない人はメリットとして実感できない。なかなかタマゴが増えないのが現状である。

でも、その課題をNFC決済が克服できるチャンスが到来している。

カードの更新を迎えてEMVチップを備えたカードが利用者に広まり、米国のスーパーなどでは今、EMVチップがらみのトラブルが頻発している。磁気ストライプのカードに比べると処理に時間がかかり、エラーが起こることも少なくない。長い行列のレジで「値段の確認」になるとイライラするものだが、今はEMVチップのトラブル発生が行列をイライラさせる原因になっている。また、初めてのEMVチップ搭載カードの使い方に戸惑う利用者も多く、不便になったクレジットカードに不満を覚えた利用者が安全かつ便利な支払い方法としてNFC決済に目を向けるようになり始めている。

EMVチップに対応した端末を導入しているのにチップを差し込むところをテープでふさいで使用を拒否している小売店も……

Appleが4インチiPhoneの新製品を投入する理由は様々だと思うが、もしこのタイミングで登場したら間違いなくApple Payユーザーの増加を加速させるものになるだろう。日本においてApple PayやAndroid Payは、日本国内の既存の決済方法と比較した議論になりがちだが、海外に出かけた時に簡単かつ安全に支払いを済ませるための方法というだけでもサポートされる価値は十分にあると思う。