ヒトと産業用ロボットが共存するために必要な技術とは?

それでは、こうしたことを実現するためにはどうしたらいいのかというと、作業対象・環境をきっちりと認識することがまず必要となる。そして、ロボットを動かすための「ティーチング」作業の省力化・効率化も重要だ。せっかくの高性能も、毎回専門の技術者が高度なプログラミングでもって動作パターンなどを変えていたのでは、多品種少量生産、変種変量生産の現場の現場にはマッチしないわけである。

そうした技術の達成度合いについては、経産省の「技術戦略マップ2010」(画像9)が2007年から2015年まで毎年、その後は2015年まで短縮する形で達成予想を出しているのだが、そこでも作業環境認識と教示(ティーチング)支援といったことが重要な要素としてとらえられている。2013年時点で見て、まだ達成できていない技術もあり、なかなか技術が予想通りに進展していないという。作業環境認識は比較的達成していると思われるが、教示支援や、もう1つの要素である「エラーリカバリ」の分野がまだ十分でないように思われる。これらの技術に関しては産総研でももちろん重視しており、逐次技術開発を行っているとした。

扱いたいものに対して現場の作業者がいちいちパラメータの設定などをしたり、教示を行ったりというのはなかなか難しいというのが現状だ。やはり、すぐに使いたいというのはいうまでもない。そこでまず作業対象認識技術に関する産総研の開発技術としては、検出対象物のCADデータをあらかじめ与えることにして、3Dデータ計測データから得られた情報と比較検証することで、その対象物の位置・姿勢を検出するという技術「多重仮説検定法に基づく3次元輪郭線と3次元物体モデルの照合」法を開発している。画像10が、その技術的な流れで、まず「ステレオ画像からの3次元輪郭線の復元」を行い、「物体モデル生成」をし、そして照合という流れだ。

画像9(左):経産省の「技術戦略マップ2010」(一部が今回の発表のために修正されている)。 画像10(右):産総研で開発した、作業対象認識技術。多重仮説検定法に基づく3次元輪郭線と3次元物体モデルの照

それでは環境認識に成功し、ものも検出できたとして、その後に課題となってくるのが実際にロボットがどう動けばいいか、つまり「把持・動作計画技術」である。対象物、環境情報、作業情報を与えることで、ロボットによる物体の把持、干渉チェックを考慮した動作を生成する機能が開発済みだ。まずシミュレータで動作させて、その上でそのデータをロボットに移して実行させるという仕組みである。

この技術では、アームの先端にハンドが取り付けられた構成のロボットシステムに対して、把持計画、軌道計画、作業計画など、種々の計画問題を解けるのが特徴だ(画像11)。ロボットの仕様や作業目的に応じて拡張や機能をカスタマイズできるように、産総研で開発して無償配布しているロボット動作振り付け統合ソフトウェア「Choreonoid」(画像12・13)をフレームワークとして用いており、そのプラグインとして個々のソフトウェアモジュールも開発されている。

画像11(左):Nextageが作業する様子。 画像12(中):Choreonoidの画面。 画像13(右):Choreonoidのフレームワーク

また、ものを把持して取り上げて、そして移動させて置くといった動作の場合、実は取り上げて置くだけなら簡単だという。それが治具などに設置しようとした場合は、その取り上げるものを持つ瞬間から設置する時のことを考えて把持しないとならない。例えば、取り上げる時にそのものを治具に設置させる部分をつかんでしまったら、設置することは不可能となってしまうのである。

よって、取り上げる時の姿勢・つかむ位置を計画するのと、どのように途中でロボット自身の体やそのほかの機械などとぶつからないような経路計画をするのか、というのが重要となるのだ。さらに、置く時の姿勢の計画と、双腕ロボットの場合ならではの持ち替えを必要なら活用するという、そうしたことを同時に解いて、把持・動作・経路の計画を作って、さまざまなところに適用できるような基盤技術を開発しているというわけだ。