英Omdia主催の「第43回ディスプレイ産業フォーラム」において、業務用ディスプレイ・デスクトップモニタ担当シニアプリンシパルアナリストの氷室英利氏が、市場環境の急変によるデイスプレイパネルを使用するセット製品の需要への影響について次のように総括した。

「新型コロナの変異株であるオミクロン株BA.5の感染が急拡大しているが、先進国地域ではすでにポストコロナ、経済活動の維持を掲げており、巣ごもり需要は減退の一方、B2B系の需要拡大が期待される。ただし足元の全体需要は悪化傾向にある。中国上海の大規模ロックダウンは6月で終了したものの、一部地域では散発的に継続、物流の混乱は緩和したとはいえ依然として残っている。感染状況次第でいつでも突然大規模ロックダウンが行われるリスクが存在し、中国国内市場の需要大幅減が懸念される。」

また同氏は、インフレの加速、米国の政策金利上昇、為替の急変(円安)などが、今後のセット需要の懸念事項であるとして、自身が担当するディスプレイ応用商品への影響について以下のように指摘した。

  • 足元の市況の悪化で、各ディスプレイ応用製品カテゴリでも需要減が懸念され、サプライチェーンの各段階で在庫過多となりパネルの価格は下落が継続する。半導体については、一部供給が改善との情報もある。
  • B2Bの製品は発注から納入までのリードタイムが長いケースが多く、2022年第2四半期まではそれほど目立った出荷の落ち込みはない見込みだが、第3四半期以降プロジェクトのキャンセルや延期が増加し出荷減少のリスクがある。
  • ロシアのウクライナ侵攻がいつまで続くか不透明だが、戦争終結後も東欧諸国への影響は年単位で長く残る見込み。前期予測で東欧のセット出荷(Sell-in)は2022年以降、大幅に下方修正したが、今期は前期予測から大きく見直しはしていない。
  • 極論だが仮にロシア、ウクライナ向けのすべてのセットが出荷停止となれば、パブリックディスプレイは年間約8万台、デスクトップモニタは約400万台の需要消失という大きなインパクトとなる。可能性として、東欧でシェアの高い韓国ブランドが大きく出荷を減らし、その分中国ブランドがシェアを伸ばすことが想定される。

業務用ディスプレイ市場

氷室氏は、業務用パブリックディスプレイについて、「足元の新型コロナの感染拡大に伴う中国ロックダウンやインフレによるコスト上昇、サプライチェーンの混乱により、2022年~2023年のパブリックディスプレイ市場は予測より縮小リスクがあるものの、いまだ発展途上の市場であり、中長期的には成長路線の維持が期待できる。オンライン会議、オンライン学習などのコミュニケーション手段の増加、変化を背景に、ライブや討議画面をオンラインでシェアする機会が増えたため、特に大画面パブリックディスプレイ、IFP(電子黒板)の出荷動向に注目したい」と述べた。

また、LEDビデオウォール市場については、「拡大が継続する。単価の下落が当初予測より速いため、需要と適用分野の拡大が加速する。ただし足元は最大市場の中国での物流の混乱が需要の減退につながっている。今後ミニLED、マイクロLEDの発表、発売が続くが、当面は高価格ゆえLEDビデオウォール全体の需要にただちに影響することはないが、年単位で見れば価格下落は継続するだろう。パブリックディスプレイとLEDディスプレイは、公共スペースで広く情報を伝えていくというサイネージの意義そのものは変わらないものの、LCDとLEDの2つの表示デバイス技術が市場のパイを取り合うことになった。中長期的に見ると、『人の動きのある』『人の集まる』場所は常に存在するため、さらにその場所での情報発信のための大画面サイネージソリューションの需要は堅調に推移すると見込まれる」と述べた。

デスクトップモニタ市場

デスクトップモニタ市場について同氏は、「物流の混乱、インフレ、需要の減退から2022~2023年は出荷が前年割れとなり、多くのモニターブランドにとって厳しい年になりそうである。大型化、高解像度化、高画質化に加え、USB-Cの採用急増、一部では有機EL(OLED)モニターの商品化が本格化するなど、モニターは付加価値化、高機能化へのシフトが継続する。モニターの全体需要が伸び悩む中、ゲーミングモニターの性能アップによる市場拡大が続く。対応できる最大リフレッシュレートの上昇が2022~2023年も続くだろう。接続ホストは今や主流となったノートPCのみならずコンソールゲームに接続してゲームを楽しむ需要が生まれ、VRR、HDMI2.1対応の需要を喚起する。高付加価値モデルの増加に伴い、金額ベースでの市場規模は緩やかな上昇につながっていくだろう。新型コロナの感染拡大でオンラインコミュニケーションの需要が高まり、カンファレンスモニターに注目が集まった。一体型PCは従来の『ケーブル接続のいらない簡単パソコン』の立ち位置から、よりクリエイティブなタスク専用に需要がシフトする。モニターセットは『デスクトップパソコンの映像表示装置』から『ホストデバイスの価値を高める表示装置』と再定義された。用途、目的の多様化でパネル関連技術仕様に加えセット側の付加価値技術の方向性が多岐にわたり、それぞれに成長の期待がかかる」と述べた。

テレビ市場

Omdiaのテレビ市場担当チーフアナリストである鳥居寿一氏は、2022年のテレビ市場について、「前回の2022年1月のセミナー後、ロシアによるウクライナ侵攻、想定以上のインフレ、米国の利上げ、円安の加速、中国のゼロコロナ政策によるロックダウンと世界経済およびTV需要へとインパクトを与える事象が相次いで起こった。また、2021年末の米国などでの物流遅延分が2022年初頭より続々と到着、パネルメーカーのフル生産(供給過剰)と相まって米欧中心に足元の過剰在庫を引き起こした。(年末商戦前の)2022年第3四半期中に販売店・ブランドが過剰在庫を解消するのは困難な現状であり、まずは年後半で在庫処理が進むこと、それにより最終需要の回復に明かりが見えることが重要となる」と述べた。

また、テレビの需要については、「2022年のOmdiaの予測では、2億880万台の見通しであるが、現状ではベスト・ケースと言わざるを得ない。先進国の需要が2019年レベルへとさらに下振れした場合(約200万台の下振れの可能性)と、中国を除く新興国で為替安やインフレ起因で経済が悪化し需要減の場合とを併せると合計2~500万台減のワースト・ケースを想定せざるを得ない状況になっている。中国で再ロックダウンが無いこと、米国で本格的なリセッションが無いことなどが予測の前提である」と述べた。

なお、鳥居氏は最後に各社動向について、「Samsungは、ディスプレイ部材の発注調整を行ったが、中国大手TVブランドに大幅な発注調整など追随する動きが現状見られない。中国パネルメーカーの7月以降の実際の稼働調整と併せて今後注視する必要がある。需要面での好転が期待薄のため、供給側に調整が入らないと厳しい現状がだらだらと続いてしまうこととなる。中国メーカーとのパワーゲームは回避する必要がある。コロナ禍でプレミアムテレビ(OLED、QD-LCD、大型サイズ、ゲーム向け倍速駆動)の需要は好調に推移、1000ドル超のTV市場の拡大を牽引した。2026年へ向けて1000ドル超の市場を維持するには、『ポストLCD』(現状ではOLEDでのコスト・生産・技術面での競争力強化と投資)が不可欠である」として「OLED陣営の巻き返しに期待したい」と話を結んだ。