ジャパンディスプレイ(JDI)が6月22日、技術説明会「METAGROWTH 2026」を開催した。2026年に向けたJDIの新戦略の発表会である。

冒頭の挨拶に立ったスコット キャロンCEOは、「世界初、世界一」「大きく育てる」を全体戦略として掲げた。過去の事業の柱であり一本足打法に頼っていたスマートフォン(スマホ)向けパネルは、2023年には収益の10%以下にまで収縮する見通しであり、代わって伸びてきた車載向け市場が、収益の40%を占めるまでになってきた。

今回の説明会では、今後の事業ポートフォリオの分散とJDIの技術力を背景とした成長ドライバーとして6本の柱が紹介された。(1)eLEAP(次世代OLED)、(2)HMO(High Mobility Oxide)、(3)メタバース(超高精細ディスプレイ)、(4)Raelclear(透明ディスプレイ)、(5)AutoTech、(6)新規(新技術・新商品・新事業)の6本である。

これらのコア技術を、従来であれば差異化技術として囲い込み、企業競争の重要な武器として用いるところであるが、今回の発表会では、これらの新技術をオープンにし、パートナー企業とのアライアンスを進めて行くことを明言している点で、従来からの戦略から舵を切った形になっている。

高輝度・長寿命、低環境負荷のOLEDを実現できるフォトリソOLED

これまでのOLED工程で使われていたFMM(Fine Metal Mask)を使わずにフォトリソグラフィで発光層のパターン形成を行うことで、3つの大きなメリットが得ることができるようになった。

1つ目は、パターン精度が格段に向上することで発光層の面積を倍にでき発光輝度も倍になる点(図1)。2つ目は、FMMによる汚染が無くなることでOLED膜の純度が上がり、寿命が1.5倍伸びたこと。そして3つ目はFMMの洗浄に伴う有機溶剤の使用を無くすことで、製造ラインの環境負荷が大幅に軽減される。特に3番目の効果は、CO2排出削減効果として年間15万トンの効果が見込めるとしている。

このeLEAPは、2022年から2023年にプロトラインでの量産検証とサンプル出荷を経て、2024年頭には量産ラインからの出荷を開始し、当初は月産2500枚程度の少量生産からスタートする予定であることが今回の技術発表会の場で公表された。

  • eLEAPによる画素

    図1 (左)FMMを使った従来方式の画素、(右)eLEAPによる画素 (JDI配付資料より抜粋)

バックプレーンの革新となる高移動度・低リーク電流のHMO

出光興産が開発したアモルファス酸化物半導体IGO(Indium Gallium Oxide)をベースとして、JDIのアニール工程技術を組み合わせることで高移動度かつG6大型基板ラインで均一性良い特性を得ることができる様になった。この新しい半導体膜の大きな特徴は2つある。1つは、LTPSに匹敵する50cm2/V・s以上の高い移動度の薄膜が得られる。これは従来の酸化物半導体の約4倍の値である。2つ目は、従来の酸化物半導体が持つ低リーク電流の特性をそのまま維持していることである。この結果、従来の酸化物半導体とLTPSの特性の良いとこ取りが可能となり、デバイス設計および製品設計の幅が広がることになる(図2)。

JDIは、この新技術をJDIのG6工場のみならず、G8.5やG10.5の大型ラインを持つ他の企業にも売り込み、アライアンスを組んで広めて行く方針を今回の技術説明会の場で示した。

  • HMOによるTFT特性

    図2 HMOによるTFT特性。TFTがONの時にはLTPS同等の高い電流が流れ、TFTがOffの時には従来の酸化物半導体並の低いリーク電流に押さえることができる (JDI配付資料より抜粋)

2000PPI超えを狙うメタバース用LCDパネル

メタバースの入り口となるHMDに搭載されているディスプレイは現在1000PPI前後であり、臨場感を高めるためにはさらなる解像度の向上が必要である。

2025年頃の実用化を目指して、今回2.27型の2016PPIの試作品を開発し展示デモした(図3)。併せて、動画表示のぼやけやゴーストをなくすための高速応答液晶とバックライトブリンキング手法によって、より鮮明な映像表示が可能となる技術も紹介した。

  • 2016PPIパネルを搭載したHMD上の画像

    図3 2016PPIパネルを搭載したHMD上の画像 (説明会の展示デモを撮影)

HMDでは、ディスプレイパネルだけではなく、光学系も重要な要素である。展示デモでは現在使われているパンケーキレンズ系からさらに薄型軽量化が実現できるHOE(Holographic Optical Element)の表示デモも行われた。レーザーバックライトとの組み合わせで、より薄型の光学系を実現するための可能性のデモである(図4)。また、360度コンテンツ制作や医療系VR訓練などトータルでのソリューション提供なども平行して進めている事例が報告された。

  • ホログラフィック光学系のデモ

    図4 薄型軽量、低消費電力のHMDを目指すホログラフィック光学系のデモ (出所:展示の説明パネル)