英Omdia主催の「第43回ディスプレイ産業フォーラム」において、中小型ディスプレイ担当主幹アナリストである早瀬宏氏は、「2021年は『ポストHuawei』と『ポストコロナ』によるFPD需要の回復を見越して、中国ブランドのスマートフォン(スマホ)メーカーを中心に積極的なFPD調達の動きが強まり、2021年の中小型FPD市場は出荷数量・金額共に順調な伸びを示した。しかし、『ポストHuawei』の積極策がスマホの過剰在庫を生むと共に、『ポストコロナ』への期待は『上海地区のロックダウン(都市封鎖)』によって相殺され、その反動によって2022年の中小型FPD市場は厳しい冷え込みが訪れている」と述べた。

早瀬氏は、2022年の中小型ディスプレイ市場の動向について以下のように総括した。

  • 在庫調整のため、新規発注が絞られている携帯電話用FPDの2022年の出荷は前年比16%減と大幅に減少の見通し。特に、2021年第1四半期に過剰発注されたa-SiおよびLTPS TFT-LCDの減少幅が大きい。一方、低消費電力に対応した「LTPO(低温多結晶酸化物)」ベースのフレキシブルAMOLEDはAppleが採用を拡大したことで出荷を伸ばすと共に、付加価値の向上でパネル価格を高水準に保ったことから出荷金額を押し上げ、携帯電話用FPDの2022年の出荷金額の下げ幅を5%減に留める事に貢献する見通し。
  • 中小型FPD市場で2番手のアプリケーションとなる車載モニター用FPD出荷は、2020年の新型コロナの感染拡大で落ち込んだ自動車生産によって受注残を抱えるも、半導体の供給不足や上海地区のロックダウンの影響で受注残の解消に至らず、FPDの出荷は低成長ながらも高水準の数量を維持している。その他の中小型FPDの需要となるアプリケーションも、ポストコロナ市場での需要を維持すると共に半導体の供給緩和でセット生産が復調、2022年のFPD出荷も前年を上回る見通しとなっている。
  • 一方、2022年4月にウクライナに侵攻したロシアに対する制裁によって生じた原油高は、世界経済全体に物価高騰をもたらせ、消費意欲を削ぎ取る状況となっている。影響で携帯電話機需要の長期予測が下振れ、中小型FPD市場全体の長期予測を下振れさせる結果となっている。
  • 世界経済のインフレは他のアプリケーション向け需要も冷え込ませる可能性があるが、EV化支援策で買換え需要が見込まれる車載モニターや、コロナ禍でも需要を伸ばしてきたスマートウォッチ、メタバースで需要の開拓が期待されるAR VR用Near Eye(目の近くで使う)ディスプレイなどによって、中小型FPD市場は持続的な成長を期待できる長期予測となっている。
  • 2022年秋にフルモデルチェンジされる「次世代iPhone(iPhone14と思われる)」が登場、インフレ感の高まり消費意欲が後退する中で、果たして期待通りの売れ行きを示すかどうかが、今後のスマホおよびフレキシブルAMOLEDの需要を占う上で注目点となる。
  • 「新型コロナ感染拡大」と「ウクライナ情勢」がどの様に解決するか予測することは困難である、その点で中小型FPD市場の今後については、依然不透明感が強いと言わざるを得ない。

大面積ディスプレイ

Omdiaの大型ディスプレイ担当調査マネージャーのYoon-Sung Chung氏は、大面積ディスプレイパネルの2022年の動向について以下のように総括した。

  • 2022年、大面積ディスプレイは、当初、出荷数量で前年比1%増、出荷面積で前年比4%増の成長を見込んでいたが、雰囲気は悪化している。テレビ用ディスプレイは、2021年にすでに出荷数量を減少させ、前年比3%減となった。しかし、ディスプレイメーカーは、少なくとも2022年上半期のITディスプレイに対する需要を期待していた。しかし、ITディスプレイの需要は、2022年初頭から業界の予想よりも急速に減少している。ITディスプレイの需要の急減と、TVディスプレイの需要と価格の継続的な低下により、ディスプレイメーカーは、特にノートブックPCディスプレイの事業計画を、下方修正し始めた。
  • 世界的な経済危機とロシアのウクライナ侵攻による需要の鈍化により、PCブランドは2022年の第1四半期末からノートブックPCとモニターディスプレイの事業計画を改訂した。液晶テレビのディスプレイ価格の下落が続いており、テレビブランドは2022年の事業計画を第2四半期半ばから下方修正し始めた。ディスプレイメーカーは、第2四半期の終わりからファブの稼働率を下げ始めている。