2012年初頭、株式会社マイナビの業務システム統括部 薄井照丈(以下 薄井)は苦悩していた。

「このままでは、いずれメールシステムがパンクする」

マイナビはインターネットの黎明期から、ITを活用した様々なサービスを展開していた。当時は、インターネットを利用するのであれば、自社でサーバーを用意し、システムを構築し、それらを自分たちで運営していく方法が普通だった。というより、それ以外の選択肢はなかった。

マイナビのように、ネットサービスを生業にしている企業の場合、ネットワークのシステムは命綱のようなものだ。万が一、これが止まってしまうと、サービスが停止してしまい企業としての存続すら危ぶまれてしまう。

システムを止めないために、必要に応じてサーバーを増強し、時には外部からの協力も得ながらシステムを改良して、業務に影響が出ないようにする。それが、薄井たち、業務システム統括部の主な仕事だった。だが、それが徐々に限界に近づいていた。

株式会社マイナビ 業務システム統括部 薄井照丈

急増するアカウントとメールデータ。容量オーバーによるサーバー停止の危機

当時のマイナビは、業務の拡大を進めている最中で、年々従業員数が増えていた。従業員には、ひとりずつメールのアカウントが付与される。人数が増えれば、当然のごとくサーバーの容量を圧迫する。

近年増加する一方のメールデータ量も問題だった。メールに画像を添付する場合、数年前は1MB程度が主流だったが、最近では3~4MB程度のファイルサイズが普通にやり取りされる状況になっている。またHTMLメールのように、メールそのものがリッチとなりデータが大きくなってしまっている。

更に大きな問題なのがスパムである。現在では、インターネット上に流れているメールの半分がスパムだとの話もある。特にマイナビの場合、サービスの都合上、オープンにしているメールアドレスが多く、スパムの標的になりやすい。そして2010年に最初に危機が訪れる。急増するアカウントとメールデータにサーバーの処理が追いつかなくなってきたのだ。

気の休まる時のない日常。不安とプレッシャーに押しつぶされる業務システム部員

サーバーの限界が見えていても、メールシステムの停止は許されない。業務システム統括部のメンバーは日々苦悩する。状況を改善するために、彼らはまず、毎日のメール使用状況のチェックから行った。

当時のシステムでは、受信したメールはクライアント側にダウンロードし、サーバーから削除することを推奨していた。だが、これを実行できていない社員もかなりいた。データをサーバー側においておけば、PCにトラブルがあっても、後で再受信ができる。そのため、サーバー側に残しておきたいと思う社員も大勢いた。

「そういう人たちには定期的に警告を発していました。サーバーに負荷を与えるから、メールを削除して欲しいと」(業務システム統括部 桑原氏)

このような警告を発すること自体が、システム部員としては大きなストレスである。また、使用状況は日々変化するため、チェックや確認は常に行う必要があった。

「当時は、深夜や土日でも、メールの使用状況やサーバー負荷状況を確認していました。そこまでしなくてもよかったのかもしれませんが、万が一を思うと気になってしまって仕方がありませんでした」(業務システム統括部 桑原)

このようなストレスに悩まされながらも、2010年の危機はサーバーの増強とシステムの改良で乗り切った。

だが休む間もなく危機が訪れる。対策を講じて、2年も経たない2012年初頭、メール送受信の遅延が発生し始めたのだ。通常の業務時間であれば数秒程度の遅延だった。だが、朝の出社後の時間帯や、営業職が戻ってきてメールのやり取りが活発化する夕方には、目に見えるレベルの遅延が現れていた。

メールの送信が重くてエラーが出ると再送となり、届くのが1時間後となったケースもあった。緊急を要するメールが1時間も遅れては大問題である。このような事態に、業務システム統括部には非難が集中することとなった。

「あの時は、社内では針のむしろ状態でした」(薄井)

このように、業務システム部員の努力で、システムはギリギリで持ちこたえてはいた。だがそれは、いつ止まってもおかしくない状況でもあった。

決断の時。自営からクラウドへの抜本的な改革で事態を突破

2012年当時、マイナビの社員数は1,700人となっていた。これは2005年と比べると3倍近い。そして、今後も増えていくことだろう。同様に、メールのデータ量も大きくなっていくことは間違いない。付け焼き刃的に、サーバーを増強していく方法は、どう考えても限界である。このような状況におかれ、薄井は決断を下す。

「苦労してサーバーを増強しシステムを改善しても、わずか2年で限界に達する。このような負のスパイラルから抜け出すためには、サーバーの自営を止め、クラウドに移行するしかない」

決断した以上は、急がなければならない。サーバーの限界は目前に迫っている。薄井は大至急、情報収集に入り具体的なサービスの選定を行い、その相手として「 Google Apps 」を選択した。

「 Google Apps 」の導入を決断させた理由、それはマイナビならではの特性とそれによって発生するコストの問題だった。次回は、その部分について詳しく紹介しよう。

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