自国内に新興市場を見出す

それまで中核としていた分野で需要が頭打ちあるいは減少に転じた場合、その市場の再活性化を図る対応策と別の市場に活路を見出す対応策が考えられる。

これが民需であれば、マーケティングの工夫や新製品の投入によって市場活性化を図る考えも成り立つが、政府を顧客とする防衛関連企業は状況が異なる。彼らは政府(軍)が必要とするものを供給する立場にあり、メーカーの側から "仕掛ける" 例は多くないからだ。

そのため、「ある分野の市場がダメなら別の分野で」という話が多い。そして最近では、新たな成長分野としてサイバーセキュリティが注目されている。

軍民ともにさまざまな分野でコンピュータやネットワークに依存している昨今、それ自体が魅力的な攻撃対象になる。しかもインターネットが普及したおかげで、インターネットから物理的にアクセスできれば地球の裏側からでも攻撃を仕掛けられるし、攻撃元の隠蔽も可能だ。

軍のコンピュータやネットワークに攻撃を仕掛けて機能不全を起こさせたり、情報を盗み出したりできれば、それも1つの攻撃手段となる。不正侵入や機能不全に至らなくても、インターネットをプロパガンダの媒体として活用する使い方もあるし、実際、そうした活動を行っている武装組織はいくつもある。

このような背景もあり、筆者はサイバー戦のことを「貧者の最終兵器」と呼んでいる。もっとも、サイバー戦だけで相手を屈服させるのは無理だろう。結局、土地を占領して「負けた」と思わせないとケリはつかない。

ともあれ、サイバーセキュリティの問題が発生すれば、それに対処するための需要ができる。そこで最近、買収や提携によってサイバーセキュリティの分野に進出する防衛関連大手企業が相次いでいる。

また、ロッキード・マーティン社は2009年にCyber Security Allianceなる団体を立ち上げたほか、2010年8月にCSA(Cloud Security Alliance)に参加した。キネティック社はサイバーセキュリティ分野で若手の人材を集めるためのイベントを開催している。企業の話ではないが、NATOはエストニアのタリンに、Cooperative Cyber Defence Centre of Excellenceという研究機関を置いている。

もう1つ、テロ活動の活発化に伴って需要が伸びている分野として、国土安全保障がある。具体例としては、国境や海上における密航・密入国・密輸などの監視、空港の警備・保安システム、民間旅客機向けの携帯式地対空ミサイル対策などがある。

成長市場と見られていた分野が減少に

一方では、これまで「成長株」と見られていた市場の状況が変わってきている。特に、軍の業務をアウトソースすることで成長してきた民間軍事会社には、逆風が吹き始めた。米軍では経費節減の一環として、アウトソース化を見直す動きがある。

本連載で以前取り上げたKBR社のような後方支援業務を請け負う企業では、以前ほどの勢いが感じられない。過去の不祥事が原因でアウトソース化を見直す動きがあることに加えて、在イラク米軍の撤収が進んでいる影響もある(在イラク米軍は2010年9月の時点で5万名まで規模を縮小したが、これはピーク時と比べて3分の1程度だ)。

ロッキード・マーティン社は、この後方支援分野への進出を企図して、PAE(Pacific Architects and Engineers Inc.)を2006年9月に買収した。ところが、2010年の夏にPAEの切り離しと売却を決定している。まだ成長が見込めるのであれば、そんなことはしないだろう。

もっと顕著な例としては、民間警備会社がある。イラクで乱射事件を起こしたブラックウォーター社は、社名を「Xe」に改めてイメージ一新を図ったものの、結局は「元・ブラックウォーター」ということが知れ渡り、思惑通りに再建が進んでいない。

さらに2010年8月になって、アフガニスタンのカルザイ大統領が「アフガニスタンで活動しているすべての民間警備会社について、4ヵ月以内に業務を打ち切るように」という指令を発した。イラクと同様、アフガニスタンでも民間警備会社の社員がいろいろと問題を起こしており、かえって国家の再建や治安の確保を阻害している、という認識によるものだ。

こうしたこともあり、民間軍事会社の世界では大きな地殻変動が発生するかもしれない。