こんにちは。リクルートテクノロジーズの反中(たんなか)です。リクルートテクノロジーズのCXデザイングループに所属し、リクルートの手がける各サービスのプロダクト改善を行っています。

前回に続き、今回も具体的な事例を紹介しながら、われわれがどのようにCXデザインを追求しているかを紹介します。

リクルートでは多種多様な領域でサービスを展開していますが、中でも、就職・転職・結婚・住宅購入など、人生における重要な節目での意思決定を支援するサービスを多く展開しています。「ライフイベント領域」と呼ばれるそれらのサービスには、「検討期間が長いこと」「人生に1回もしくは数回程度であり、カスタマーの知識や経験が乏しい」という特徴があります。

われわれは、そんなライフイベント領域のサービスにおいて、単なるマッチングにとどまらず、カスタマー一人ひとりのジャーニーに寄り添うことで、最高のカスタマー体験を作ることを志向しています。

一人ひとりの結婚準備に寄り添う~「ゼクシィ」での取り組み~

ライフイベントの1つである「結婚」領域でのサービスが、「ゼクシィ」です。

ゼクシィでは、雑誌・Webサイト・アプリといったさまざまな媒体で式場探しをはじめとしたサービスを展開しています。中でも、アプリは特に「一人ひとりの結婚準備に寄り添う」ということを重視しています。

結婚が決まったばかりの新郎新婦にとって、結婚式の準備や新生活の準備など、すべてが初めてのことばかりで、右も左もわからない状態です。また、結婚式の準備は1年以上の長期にわたることが多く、やるべきことや必要な知識も多岐にわたります。

そのため、ゼクシィアプリでは「ダンドリチェック」という機能を提供しています。これは「結婚式までに何をしなければいけないのか」を細かくチェックしながら、花嫁が安心して準備を進められるツールです。

  • ゼクシィアプリの「ダンドリチェック」機能画面

また、このダンドリチェックによって一人ひとりの検討段階を把握することができるため、ゼクシィアプリでは、一人ひとりの検討段階や好みに合わせて、数千本あるオリジナル記事のうち、その人にとって「今必要な」記事を表示するというパーソナライズを行っています。

  • ゼクシィアプリでは数千本の記事を一人ひとりに合わせて出し分けている

このように、ゼクシィアプリでは「式場を探す」という限られたシーンだけでなく、一人ひとりの結婚準備の全期間を通じて寄り添うことを目指しています。カスタマーである花嫁にとっても、初めてで不安の多い結婚準備を楽しく、安心して進めることができ、ゼクシィにとっても、よりカスタマーに愛されるサービスになるという、Win-Winの関係を作ることができるのです。

「一見さん」が多いライフイベント領域で、どうしたらカスタマーに寄り添えるか?

とはいえ、実際に一人ひとりのカスタマーに寄り添ったサービスを作るには、さまざまなハードルを越える必要があります。

特に重要なのは、「その人がどんな人なのか/どんな行動を取っているのか」というデータをどれだけ集め、活用できるかということです。ところが、ライフイベント領域は冒頭にお伝えした通り、「カスタマーにとって人生に1回もしくは数回程度」の機会であるため、「一見さん」のカスタマーが非常に多い、という特徴があります。

そのため、カスタマーに寄り添おうにも「そもそもどんな人なのかがわからない」という状態から始まってしまい、十分なおもてなしができるようになる前に、サービスに不満を持って離脱、ということが起きてしまいます。

もう1つ、先の結婚の事例で見たように、検討期間が長く、その中で刻一刻とカスタマーニーズも変化していくというのもライフイベント領域の特徴です。

そのため、一人のカスタマーにきちんと寄り添っていくためには、PCサイト・SPサイト・アプリ、あるいはオフラインのカウンターなどさまざまなチャネルにおけるカスタマーの行動をユーザー単位で統合的に集計・分析できる基盤も必要になります。そこでわれわれは、以下の2つの方向で、ライフイベント領域のサービスにおいてさまざまな試行錯誤を進めています。

  1. 初回来訪のタイミングで、カスタマーがどんな人かを判別しておもてなしできるか

  2. さまざまなチャネルでの行動ログから、どのようにカスタマーの行動に寄り添えるか

  • カスタマーに寄り添うため、2つの方向でさまざまな試行錯誤を進めている

DMPの限界を突破できるか? - 初回接触で「どんな人か」を見極める

初回のカスタマーを判別するという目的では、広告配信において一般的に用いられるDMP(データマネジメントプラットフォーム)をサービス自体のパーソナライズに活用する、ということを進めています。

リクルート内部で持っているDMPや、外部DMPと連携して、あるサービスに訪問した人の性別・年代や嗜好性などを判別し、それに合わせてサービス上のコミュニケーションやUIを出し分ける、というものです。ただ、実際に試してみると難しいのは、DMPで提供している属性データが、必ずしもサービスとして出し分けしたいセグメント軸と一致しないことです。そこで、以下のようなプロセスでの検証を始めています。

(※ 以下、DMPで持っている属性を「DMP属性」、サービス側で出し分けに用いたいセグメントを「サービスセグメント」と呼びます)

  1. DMPの対象者の一部にアンケートを実施し、アンケート回答者をサービスセグメントに分類

  2. アンケート回答者のDMP属性データを独立変数、アンケートで分類したサービスセグメントを従属変数として、DMP属性からサービスセグメントを判定するモデルを作成

  3. 上記の判定モデルを使い、サービスセグメント判定結果をDMPから受け取れる仕組みを構築

  4. カスタマーがサイトに訪問したタイミングでDMPからセグメント判定結果を受け取り、その結果に基づいてUIやコンテンツをリアルタイムで出し分け

まだまだ研究中ではありますが、さまざまなDMPを横断的に活用することで、一見さんの「はじめまして」のタイミングから、一人ひとりにあったおもてなしを実現することができると考えています。

カスタマー一人ひとりの検討行動に寄り添う - 行動ログによるおもてなし

カスタマーに寄り添うためには、もちろん初回のおもてなしだけでは足りません。ライフイベント領域では、数週間~長ければ1年以上にわたる検討期間の中で、刻々と変化するカスタマーの行動とニーズに合わせて寄り添っていく必要があります。

そんな時に必要なのが、一人ひとりのカスタマーの行動ログデータを時系列で蓄積し、分析できる基盤です。従来のアクセス解析ツールは訪問(セッション)単位での分析には優れていますが、UU単位での分析をしようとするとなかなか難しいという課題がありました。

最近ではいわゆる「カスタマージャーニー」という考え方も普及し、ユーザー単位で集計・分析ができるツールや、行動をトリガーとした1to1施策を実施できるツールも増えてきました。しかし、小社はより自分たちのニーズに合わせた高度な分析・施策ができるよう、自社内で開発した独自の行動ログデータ基盤を構築しています。

こうした基盤を作る際は、社内のデータ解析チームが主導で動くことになりますが、こうした基盤を使ってさまざまな打ち手を考えるところは、われわれのようなサービスデザイナーとデータサイエンティストがタッグを組んで進めています。

「カスタマーがどんな行動を取っているのかを知り」、「どんなタイミングでどんなおもてなしをするとよいのかの仮説を立て」、「それを実装する」というところまで、データ基盤を活用しながら一貫して推進できるのは、サービスデザイナーとデータサイエンティストが非常に近い位置で協業しているからこそだと考えています。

例えば、ネットで中古車探しができる「カーセンサー」というサービスでは、「ある特定の条件Aでソート(並べ替え)をした人は、別の条件Bでの絞り込みニーズがある」ということを行動ログ分析から明らかにし、実際に、条件Aでソートしたタイミングで、条件Bの絞り込みを推奨する、といった施策を行っています。

こうした施策を1つ2つではなく大量に実装することで、きめ細やかなおもてなしを実現することを目指しています。

目指すのは、「越後屋」のおもてなしの現代版

こうした取り組みを進めながら個人的に感じているのは、最先端のテクノロジーを活用しながら、目指しているのは江戸時代の「越後屋呉服店」のようなある意味で「古き良きおもてなし」なのではないか、ということです。

  • 歌川広重「東都名所 駿河町之図」 国立国会図書館デジタルコレクション「錦絵でたのしむ江戸の名所」より引用

越後屋呉服店、というのは1つの喩えでしかないのですが、「棚にある商品を選んで買う」というような無味乾燥な検索サービスではなく、店頭でお店の人とお客さんとが会話をしながら、客のニーズを引き出し、ピッタリあった商品を一緒に選んでいく、そんな古き良き接客を、今の時代のデジタルサービス上で実現してみたい、という思いが、私の原動力でもあります。

そう考えると、「UX=ユーザー・エクスペリエンス」という言葉の「ユーザー」というのは、「システムを使う人」というイメージで、いかにもデジタルくささが拭えません。

自分たちがサービスを提供する対象を、「利用者=ユーザー」ではなく、「お客さま=カスタマー」としてとらえることこそが、「UXからCXへ」という変化の本質なのかもしれません。

著者プロフィール

反中 望

株式会社リクルートテクノロジーズ

ITマーケティング本部 サービスデザイン4部 CXデザインG
大学院修了後、UX・デジタルマーケティングのコンサルティングを経て、2015年1月より現職。グループ横断のサービスデザイナーという立場で、「ゼクシィ」「カーセンサー」「タウンワーク」「SUUMO」等の幅広いサービスのUX改善や戦略立案を担当する他、AI(人工知能)を活用したUXのR&Dなどにも挑戦中。 座右の銘は「三度の飯よりユーザ理解」。