ボーイング社の民間航空機部門で北東アジアマーケティングを担当している、ダレン・ハルスト Dullen Hulst 氏が来日、2017年12月13日に都内で記者説明会を実施した。そこで出てきた話の内容が、本連載でこれから取り上げようとしている話につながるものでもあったので、説明会の要点を紹介しつつ、今後の話のイントロにしようと思う。

  • ダレン・ハルスト氏(ボーイング社、民間航空機部門、北東アジアマーケティング担当)

大は小を兼ねない

世間一般に「大は小を兼ねる」なんてことをいう。これを輸送機関に当てはめると、「需要のピークに合わせたキャパシティにしておいて、需要が少ないときにはガラガラの状態で」ということになる。

わかりやすい例は東海道新幹線だろうか。すべての編成が16両編成・定員1323名にそろっているだけでなく、ハコごとの定員までそろえてある。こうすることで運用に関する制約をなくし、突発的な差し替えにも対応できるようになっている。

その代わり、需要が少ない季節・曜日・時間帯には、ガラガラの状態で走っていることもある。当然ながら無駄が生じるわけだが、運用の効率化というメリットのほうが大きいと判断しているわけだ。

都市部の通勤電車も事情は似ている。新幹線も通勤電車も、需要の多寡に対しては編成両数の増減よりも運行本数の増減で対処している。

では、エアラインの世界はどうか。こちらは「大は小を兼ねる」という考えはないようだ。路線ごとに需要を見定めて、最適なサイズの機材を割り当てる。機材の陣容を統一する傾向があるのはLCCだが、こちらはそもそも、737やA320といった小型の機材が主流である。

といったところで、ボーイングの記者説明会の話である。主要テーマはワイドボディ機、つまり2通路機の市場動向と、それに対するボーイングの取り組みであった。

そこで最初に出てきた話を要約すると、「長距離路線は直行便を主体としている。1機当たりの座席数はあまり多くしない」というものだった。それを裏付けるものとしてハースト氏が示したグラフがこれである。

  • 長距離フライトの便数は2004~2017年にかけて72%も増えているが、1機当たりの座席数はさほど増えていない 資料:Boeing

一般的なイメージとして、「長距離を飛べる機体は大型、短距離しか飛べない機体は小型」という先入観があるかもしれない。ところが実際には、「長距離路線=大型機」ではないというわけだ。

直行便を、ほどほどのサイズで

最近ではあまり聞かなくなった言葉だが、ひところ「ハブ&スポーク方式」という言葉が頻出した。つまり、拠点となるハブ空港同士を大型の機材で結び、最終目的地へはハブ空港で近距離便に乗り換えて行ってもらおう、という方式のことである。

ところが、実際の市場の傾向は、それよりもむしろ直行便が主体になっているではないか、というわけだ。個人的な好みとしても、乗り継ぎで時間をとられるよりは、直行便で一気に行ってくれるほうがありがたい。もちろん、あらゆる都市の組み合わせを直行便でカバーするのは非現実的だが。

そこで1つ、問題が生じる可能性がある。つまり「長距離機=大型機」という図式で行くと、長距離の直行便を設定した場合、機材と需要が釣り合わない可能性が出てくる。平たく言えば「大型機を飛ばしてペイするほどの需要がない」ということだ。

もちろん、「成田-サンフランシスコ」とか「成田-ロサンゼルス」といった路線であれば、明らかに需要は大きい。だから、777-300ERみたいにキャパシティの大きい機体を入れる意味がある。しかし、そんな路線ばかりとは限らない。直行便を飛ばせば需要はありそうだが、大型の長距離機では割に合わない。そんな路線はどうするか。

ということで、中型で足の長い機体の需要が伸びている、というのがハースト氏の説明である。それを示したのが次のグラフだ(ちなみに、ボーイングでは長距離便を5,500km以上の路線だと定義している)。

  • 「Top200」とは、需要が多い路線の上位200という意味。そうした路線が全体に占める比率が下がり、それほど需要が多くない路線の市場が伸びている。そして、そちらでは1機当たりの定員が少ない、ということを示している 資料:Boeing

  • エアラインがワイドボディ機を増強した理由を分類してみたグラフ。「既存路線の増便」「直行便の新規開設」がそれぞれ40%以上を占めており、「既存便の機材大型化」は13%しかない。空港の発着数が限界に達していて増便できない、という場面でもなければ、機材大型化のニーズは少ないことを示している 資料:Boeing

中型で汎用性のある機体が売れる

以下のグラフは、2012年と2017年の民間ワイドボディ機市場における、機種別の比率を示したもの。超大型の四発機である747やA380のシェアが下がり、中型で足が長い787のシェアが急伸した。また、777のシェアも伸びている。競合するA330やA350にしても、777や787と同じポジションの機体である。

  • 2012年と2017年の、日本発着を含む太平洋路線におけるワイドボディ機のシェア比較。四発機が激減する一方で、中型の双発機が主流になっている様子がわかる 資料:Boeing

実際、かつては長距離国際線の花形だった747は、今では月産0.5機のペースである。対して787は月産12機、さらに月産14機に増やそうとしている。中型で汎用性がある、足の長い双発機がメインストリームにあるというわけだ。

こうした市場動向に対応するための、ボーイングが考えている将来ラインアップを示した図が以下のものだ。ワイドボディ機の対象は250~450席のクラスで、それより下は単通路の737MAXシリーズが受け持つことになる。

  • 250~450席の市場に、それぞれどの機種を当てはめるかを示した図。777-8と777-9は、開発中の新型「777X」である。その777Xシリーズが350席以上のクラスを受け持ち、その下は787シリーズがカバーする 資料:Boeing

ただ、冒頭でも書いたように「大は小を兼ねない」。できるだけ個別の路線の需要に最適化させようとすると、さまざまな座席数を備えた機体を揃える必要がある。しかし、それに対して個別に新型機を開発していたら、時間も費用もかかってしまう。それで機体の単価が上がれば売れなくなる。

そこで、モデルは絞りつつ、多様なバリエーションを用意するにはどうすればよいか。ということで、次回以降の話につながっていく。